理性ある怪物と理性なき獣 (3)
「…………申し訳ありません、クシア様。このバカ犬が余計なことを」
フォニアは両手を膝に置き、頭を深々と下げる。
「え? アタシなんかやっちゃった?」
「クシア様の許可なく人を殺すなと散々言っただろうこのバカ犬が……!」
「あ……」
それを聞いてはじめて、ルフナは自身がしたこと――――クシアの命令に反したことに気付く。
ここまでずっと能天気な表情をしていたルフナの表情が、みるみる青くなっていき。
「ご、ごめんなさいご主人! アタシ、ご主人の命令を……!!」
クシアの命令に背いてしまったことは、ルフナにとっては非常に重たいことだったのだろう。
さっきまでとは様子が一変し、机の上に乗って土下座してきた。
だが、クシアは終始おかしそうにクスクスと笑う。
「いやいや、いいんだよ」
その言葉に反応するように、ルフナの顔が上を向く。
「え……許してくれるの……?」
クシアは、ルフナの今にも泣きだしそうなその顔に手を添えて、続ける。
「むしろそれを聞いて、良いアイデアが思い浮かんだ。今回は許すよ」
「…ご主人……!」
ルフナは再び、クシアに抱きつく。
その様子を冷たい目で見ていたフォニアは、
「クシア様。あまりそのバカ犬を甘やかさないでください」
と冷ややかに言い放つ。
「べつに甘やかしてなんかいないさ」
クシアがそう言いながら、ルフナには見えないようフォニアにだけ向けたその目は。
「……」
フォニアが思わず息をのんでしまうくらい――――暗く、冷たく、底知れない闇を佇ませた瞳をしていた。




