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始まりの狼煙


 ――――それは、クシアがマルスと出会う、少し前のこと。


 一つの村と同じくらいの広さがあると思われる、巨大な教会。

 その奥にある会合室へ向かって、のほほんとした足取りで歩いていく一人の男の姿があった。


 その男の姿は、煤だらけの汚い白衣を身に纏い、下にはあちこちが破れたぼろぼろのジーンズをはいていた。

 教会の中に広がっている、重々しくも壮大さを感じさせるその雰囲気には到底似つかわしくない格好である。


 だが、教会の中にいた神官達は皆、その男が近づけば例外なく跪き、男へ敬意を示す。


 男はその異様な光景には目もくれず、会合室の扉を勢い良く開いた。


「やぁやぁ皆。どうやらお揃いのようだね。ボクが最後のようだ」


 男は揚々としゃべり始める。

 その声を聞いた一人が小さくため息をついて口を開く。


「……遅刻だぞ」


 そう一言だけ話した彼の風貌は、紫色のキノコのような髪型をした、丸メガネが特徴的な子供。

 今ここに来た男とは別の意味で、この場には似合わない風貌をしていた。


「相変わらず冷たいね、"攻撃力最強"さん?」

「変な呼び方をするな」


 その子供は男の方へは目もくれず、ずっと手元にある本の方に視線を落としたまま冷たくあしらった。


 妙な格好をしていたのは、彼らだけではない。


 全身が常に淡い白光で包まれている女性の姿。

 まるでリクルートスーツのような恰好をした三つ編みの女性の姿。

 この場にいる者のほとんどが、場の雰囲気からは大きくズレた風貌をしている。


「…我々には時間がないのだ。無駄話はよしてもらおう」


 そう口を開いた、如何にも「私が中世の国の王様です」と言わんばかりの、銀髪の老人を除いて。


「おっと、それもそうだね。生憎ボクたちには時間がない」


 白衣姿の男は空いている席に座ると、先程までとはうって変わって、真剣な表情へと豹変する。


「それじゃあ始めようか、七大司祭の諸君。人類存続の危機、世界の脅威。この世界に降り立ってしまった――――"悪魔"に対する、緊急対策会議を」


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