火葬 その二
私は重い足を運ばせて、彼の目の前に立つ。
「っ……」
その姿を見ただけで分かる。
彼の命はもう……残り僅かだということを。もう、助からないということを。
気が付いた時には、地に膝を着けて彼の体を抱きしめていた。その体は、残酷なまでに脆く、冷たく。まるで、死体に触れているかのようにさえ思えた。
「クソ……!」
視界の端で、彼が操っていた魂が弱まりながら炎のように消えていく光景が見える。
その光景は、まるで彼が死へと向かっていっている事実を私に突きつけてきているようで、とても見てられなかった。
目を瞑り、彼の体をより強く抱きしめる。
「私は、また……君を救うことができなかった」
超法則――――それは、神から選ばれた者だけが与えられると言われる特別な力だ。私の超法則は、相手の位置を基準にした任意の位置に瞬間移動できる……ただ、それだけの超法則だ。
なにが特別な力だ。なにが超法則だ。ふざけるな。
こんなもの、何の役にもたたなかった。
こんなものを与えられたばかりに、私は神官になることを強制された。
神官になったせいで、神官規則なんてしがらみに縛られて、正しいと思う選択を選べなかった。
私には他の選択肢などなかったのだ。神からこんなものを与えられたせいでこうなったのだ。
一時は……もし叶うのなら、こんな力捨ててしまいたいと願ったことすらあった。
(…いや……違うな……)
そうだ。本当は分かっている。
こうなってしまったのは、この力のせいじゃない。私のせいだ。
あの時、神官規則なんか無視してでも子供たちのいじめを止めるべきだった。立場も身分もかなぐり捨ててでも、彼を助けるべきだった。もっと彼に、寄り添うべきだった。
私は、自分の神官としての立場を言い訳にして……あと一歩、彼に踏み込むことができなかった。神官としての地位を失うことを、恐れていたのだ。
神官規則を理由にして、彼を助けないという選択をしたのは………………私自身なんじゃないのか?
私の超法則には『間合い』という名前が付けられている。…皮肉なものだ。
彼のためにあと一歩を踏み出せなかった結果が、これだというのに。
だがもう、何もかもが手遅れだ。
今はもう、謝ることしかできない。
「……すまない……」
私がそう、ポツリと零したときだった。
「別に、謝らなくてもいいよ?」
そう誰かの声が聞こえたのと同時に、鋭い何かが私の胸元を貫いた。




