記憶を利用する
クシアはかつて、死体の体を利用して間接的に『強化の手法』を使ったことがある。
あらゆるものを思うがままに変形できるようになったクシアは、『強化の手法』を使っていた時の自身の感覚を再現することで――所謂、特異体質を持った化け物を作り出すことが可能となっていた。
「しまっ――」
オーガが気付いたときにはすでに遅く、赤い化け物はオーガの体を遠くへと殴り飛ばす。
「オーガ!」
マインは思わずそう叫んだ。その声に反応した赤い化け物がマインの方をチラリとみる。
(まずい……)
マインの超法則は『柔鉄』。鉄の塊を発生させて操作できるだけ、ただそれだけの超法則だ。
オーガですら反応が遅れた化け物を相手に、マインの超法則で対抗できるわけがない。柔鉄を発生させたところで、軽くいなされるか最悪破壊されて終わりだろう。
(このままじゃ殺られる――)
マインはせめてフループだけは守ろうと、フループだけを守るように鉄の筒を発生させる。
『柔鉄』では発生、操作できる鉄の質量に制限がある。一人だけ守るように使えばその分多くの質量をフループにあてられるため、少しは防御力が上がるはずだ。
だが……赤い化け物は鉄が発生した瞬間、目を大きく見開いて動きを止める。
「……え?」
マインは思わず声を漏らした。
目の前の化け物が、自らの腕で自身の首を切ったからだ。




