【超人】
「ガハッ!?」
クシアの手に握られていた針が勢いよく引き抜かれ、赤い飛沫が飛び散る。
オーガはふらふらとした足取りで、鼻があった場所を手で押さえながらもなんとかその場に立つが……彼の鼻があった場所には大きな穴が出来ており、見たところ自己治癒能力も機能していないように見える。
「な……なんで……」
「特別なことは何もしてねぇよ。俺の闇のほうがテメェの自己治癒能力を上回ってた、ただそれだけだぜ?」
クシアの赤く染まった掌に握られている漆黒の針が、霧のように霧散していく。
「あえて力を抑えることで、闇に触れても大丈夫だと思わせた……ブラフをかましてやったってワケさ」
「仮にそうやとして……アンタの接近に俺が気付かないワケないやろぉが……!」
オーガは先程まで、カースの猛攻をすべてさばききっていた。それは、オーガの超法則により視覚と触覚を強化していたからだ。カースの闇ですらあてることができないのに、クシアが近づいて攻撃することなどできるはずもなかっただろう。
「俺は『超人』になったのさ」
クシアがオーガの超法則を取り込んでさえいなければ、の話だが。