意趣返し
「―ッ!?」
オーガは化け物の姿が見えるや否や、瞬時にクシアから距離をとる。
(なんやアレは!? あんな超法則、見たことないで!?)
オーガは神官として、数多くの超法則を見る機会があった。だが、そんなオーガからしても目の前で繰り広げられている現象を理解することができない。このような超法則など、心当たりすらない。だからこそ、オーガは動揺を隠せない。
だが、彼は曲がりなりにも神官。この町の用心棒としての責務を持つ者でもあった。すぐに冷静さを取り戻し、敵の攻撃に備える。
『準備はできたみたいね? それじゃあしばらく、アタシと遊んでもらおうかしら』
化け物がそう口にすると、体から激しい鉄砲水のような闇を複数本発射させてくる。
「ちっ!」
オーガは身体能力と視力、触覚を強化して、無数にとびかかってくる闇をかわしていく。闇は縦横無尽に方向を変え、あらゆる角度から襲い掛かってくるが、オーガはそれらすべてを見事にかわしきっている。
『やるわねぇ!?』
「っ……アンタが下手糞なだけや!」
だが、オーガは回避するのに手いっぱいで攻撃にまわることができない。
(いくらなんでも攻撃が激しすぎる! かわすので手一杯や! このままやと――)
オーガが思考する途中で、肉が鋭く貫かれたかのような、鈍い音がした。
「――なっ……!?」
オーガの背後に立っていたクシアの手にある漆黒の長い針が、彼の鼻を一直線に貫いていた。