急襲
その小さな村は、本当になんてこともない普通の村だった。
子供たちが外で楽しそうに遊び、女たちはそれを穏やかに見守り、男たちは家庭を守るために各々の仕事に励む。彼ら村人は何もない平和な生活を過ごしていた。
だが、その平和は唐突に終わりを告げることになる。
「大変だぁ!」
村の門番のような役割を担当していた若い男が、慌てた形相で村の中央へと駆けていく。
「何事だ?」
「どうしたんだ?」
村人たちはのんきに返す。今まで何事もなく、平和に過ごしてきた彼らにとって、異常事態が起きつつあることなど夢にも思わないことだろう。
「なんか、やべぇのが向かってきてるんだよ!?」
だが、実際にヤバいものを見た門番役はひどく動揺した様子で、それでも村人たちにそのことを伝えようとした。
「やべぇの?」
「それってどんなのだよ?」
「なんか、とんでもない速度で村に向かって突っ込――」
そこまで言いかけた時だった。
「――え?」
激しい津波のような暗い闇が周囲を覆い、門番役の首が美しい螺旋を描きながら宙を舞った。
そして、それとほぼ同時に。
彼の周囲にあった四軒ほどの小さな建物が、粉々になりながら虚空へと消えていった。