超法則『超人』
「ガハッ……」
クシアが前に倒れこむと同時に、周囲の闇が霧散して無くなっていく。
男の体は間違いなく闇に触れていたはずだった。だというのに、消滅するどころか、傷一つついているようには見えない。
「……なる、ほどな……」
だが、男がピンピンとしている理由に気付いているかのように、クシアは顔だけを男の方にむけながらうめくようにしゃべり始める。
「やっぱり、てめぇが神官のオーガか……」
「なんや、知ってたんか」
男はもがき苦しむかのように地面に倒れているクシアを踏みつける。その声は冷たかった。
それでも、クシアはしゃべるのを辞めない。
「噂で聞いたことがある…超法則『超人』を駆使して、神官の仕事にとどまらず様々な分野で活躍している奴がいるってな……どういうことかと思ってたが、なるほどなぁ……」
「……」
「てめぇの超法則、人の能力を強化するものなんだろ? 脚力、腕力、そしてさっきのは――自己治癒能力といったところか? でもテメェは、一番最初にはこうしなかった。妙だなぁ……」
「……まぁ、今更気付いても遅いんやけどな」
男はさらに強く、クシアを踏みつける。
「アンタはここで殺す」
オーガはどこか凄んだ声をクシアに投げかける。
「ハハッ……殺す? 何もわかってないな、アンタ」
「……何?」
鎧頭の奥から見えるその表情は、笑っていた。
「残念だが、もうすでに――テメェの負けは確定してるぜ?」
クシアのそのセリフと同時に。
その体から、漆黒の化け物の姿が出現する。