劣化版正義
「あ?」
クシアは動きを止め、声が聞こえたほうへと顔を向ける。
そこにいたのは、黒いポニーテールが特徴的な女の姿だった。
「…どっちかっつーと、俺は逆賊ってよりテロリストだがな」
俺は軽く笑いながら、相手を観察する。
(……あの恰好、神官だろうな。そして、右手に持ってるアレ)
クシアは、その女の右手に握られている不自然な銀色の物体に視線を向ける。
(なるほど、アレが劣化版正義か。狙い通りだ)
クシアがわざとらしく轟音をたてながら建物を壊しまくっていたのは、これが狙いだった。
今回クシアにとって最も重要なこと……それは、神官三人を出来るだけ早く殺すことにある。帝国内に三人しかいないうちに帝国を滅ぼしてしまうのがベスト。残り四人がいつ来るか分からない以上、時間はかけられない。
今のクシアにはそもそもできないことだが……一番最初に世界法典を使い手当たり次第に殺しまわる作戦は、詳細不明が一人いる時点でナシだろう。そいつの超法則と立ち回り次第では、世界法典の効果が切れるまで逃げ回られたうえで最悪殺される可能性もある。だからといって、コソコソと立ち回りながら神官を探し回っていては時間がいくらあっても足りない。
(こんなに早く来てくれるなんてな。しかも相手は劣化版正義。ラッキーだ)
帝国内でわかりやすく暴れることで神官の方から来てもらい、さっさと殺したうえで結界の闇を回収、その後世界法典で一気に壊す――それが、クシアの作戦だった。
「帝国の存続を脅かす逆賊め、おとなしく投降しろ! さもなくば、痛い目にあってもらう!」
クシアは、口を大きく歪ませながら。
「朝早ぇからって寝ぼけてんのか? 寝言は寝て言えよ!」
どこまでも侮蔑的な声で煽りながら、勢いよくとびかかった。




