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奥の手
(ちっ……あいつ、空も飛べるんか……)
男は宙に留まりながら笑っている男をみて、歯がゆそうに舌打ちする。
(直接攻撃できないなら、落下死させたろと思ってたんやけどな。想定外やわ)
単純な物理攻撃は、恐らくアレには通用しない。アレの周りにある闇が消し去ってしまう。
(こうなったら、アレをやるしかないやろなぁ。できればやりたくなかったんやけど)
男は肩を回し、覚悟を決めたかのように真剣な顔つきに変わる。
対照的にクシアは、余裕そうに空からゆっくりと降りてくる。
「さぁ、続きだ」
クシアのそのセリフと同時に男が動いた。一瞬の間に周囲の瓦礫を掴み、あらゆる方向から一斉にクシアに向かって飛ばしてくる。
「なんだよ、また同じ手か?」
クシアはけらけらと笑いながら、再び闇に身をまとう。あらゆる方向から飛んでくる瓦礫のすべてが、クシアに届くこともなく闇にのまれて消し去っていく。
「そんなんじゃ俺は殺せな――」
クシアのセリフの途中で、肉が鋭く貫かれたかのような、鈍い音がした。
「――あ?」
クシアの背後に回っていた男の腕が、彼の心臓を一直線に貫いていた。