感覚
それは、クシアが月体国を壊滅させるその前日のこと。山が連なる道を一つの馬車が走っていた――
「……なぁ」
馬車の中で横になっていた俺はふと、声をかける。
「ひっ…ど、どう、なんですか」
黒とピンクが混ざった派手な髪の少女が怯えるように返事を返してくる。
「君らの目的地には、いつになったらつくんや」
「え、えっと……い、いつですかね?」
少女はおどおどとしながら、黒髪の少女にバトンを渡す。
「……ここから帝国までは大分遠いわ。後四日はかかるでしょうね」
「え、えーっと、だそうです、よ……?」
「そうか」
それを聞いた俺はしばらく考え込み、やがて一つの答えを出す。
「…………悪いんやけど、俺はここで降りてくわ」
「え? 急にどうしたんですか……もしかして、傷が痛むとか」
「ちゃうで。でもまぁ、ここまでありがとな」
俺はそう言いながら立ち上がって、馬車を飛び降りた。
「え、あの、ちょっと! あ、あの人こんなところで降りちゃいましたけど!?」
「……彼はあの場に置いていきます」
「えぇ!?」
「今は帝国に戻ることを優先しなければなりません」
「ぇ、あ、はい……」
止まろうとすることなく遠ざかっていく馬車。遠ざかっていく少女二人の会話からは、俺を置き去りにするらしいことを感じ取れた。
それでええんやけどな。
「ごめんなぁ。流石に馬車ごと連れていくことは出来へんからな」
自身が本気で移動すれば、馬車も、馬車に乗っている人たちも無事では済まない……そう判断した。でも、だからといって四日も悠長に乗ってはいられない。
何故なら……微かにだが、自分の感覚が伝えているからだ。
今、彼らが向かう先に――絶対に殺さなくてはならない存在が来ることを。
「悪いけど、一足先に行かせてもらうで」




