分岐点 その六
「どうなってんだ、コレ?」
本に書かれている文字は、確かに異世界の文字だった。だが、不思議なことに今の俺はその文字を読むことができる。まるで、その言葉を初めから知っていたかのように。
『フフッ、驚いたでしょう? …契約によって私を取り込んだアナタは、この世界に存在するありとあらゆる言語、文化、その他もろもろ……この世界のあらゆる常識をある程度理解した状態になったのよ』
「…ハハッ、そりゃまた随分と都合がいいもんだな。どういう理屈なんだ?」
『私がそれらからできているから、と言ったところかしらね。なにせ、人が悪魔と呼ぶ存在は――人間という存在が、人間の道具を使うことで表現されているから……まぁ、別に所以的な話はどうでもいいわね』
カースはそう言いながらさらに数冊、本をこちらに向けて放り投げてきた。
『私を取り込んで知識を得たとはいっても必要最小限。この世界で生きていくのに困らない程度の情報量でしかないわ。そんな状態で人類の皆殺しはさせられない。まずはお勉強をしてもらうわよ』
「勉強はあんま好きじゃねぇんだけどなぁ。ま、いいか」
俺は手に持っていた本を適当にパラパラとめくり、その中身に視線を落とす。
「……そういや、お前の名前はなんていうんだ?」
俺は突拍子もなくそう尋ねる。コイツとは長い付き合いになりそうだし、聞いといて損はないだろう。
『私の名前? そんなものないわよ』
「ねぇのかよ」
『だって私、超法則そのものだもの。でもそうね……面倒だから、カースでいいわよ』
「まんまじゃねぇか。でもまぁ、変にひねるよりはわかりやすいか」
俺は顔を上げ、化け物の姿を見る。
「これからよろしく頼むぜ? カース」
元の世界に帰るため、俺は覚悟を決めた。




