分岐点 その五
「そうなのか?」
『私だけでも使えるっちゃ使えるんだけどね。でも、アナタのような人間が使ってこそ、私の超法則はその真価を発揮できる。何故なら……いや、これは私から言わないほうがいいわね。使っていくうちに理解するでしょうし』
「ふぅん……よくわからねぇが、これから俺にはテメェの力で人類の皆殺しをやれってことか」
『まぁ、そういうことね』
「俺がそれをやれば元の世界に帰してやるってワケだ。だがよぉ、それなら俺を一度先に帰らせることはできねぇのか?」
『ダメね。というよりも、無理と言ったほうがより正確かしら。確かに私の力を使えば、アナタを元の世界に戻すことはできる。けれど……理由の説明は省くけど、それをやるためには人類の存在が邪魔なのよ。…これで理解したと思うけど、人類の皆殺しは単なる私の願いってだけじゃないの。アナタにとっても利のある話なのよ』
「テメェの力で元の世界に帰るには、人類の存在が邪魔ってか……」
俺は再び思考する。俺にとってこの世界の人間はどうでもいい存在だ。既に何人か殺してきてるしな。今更殺す人数が何人に増えたところで変わることなんかないだろう。むしろ、ここで人類を殺さない選択をすることは無意味だ。
利害の一致。いや……
「……いいぜ。人類の皆殺し、俺が引き受けてやるよ」
この場合、趣向の一致とでも言ったほうがいいのだろう。
俺もこの世界の連中を殺したくてたまらなくなっていたところだ。
『フフフ。これで、契約成立ね』
目の前の化け物は突然ふらふらと動き出し、床に落ちていた本を一冊手に取り俺に向かって放り投げる。
『ハイ、コレ』
「?」
『読んでみなさい』
「唐突になんだ? 俺にこの世界の言葉は――」
俺がめんどくさそうに本を開きながら、そう返そうとして。
「――!」
思わず言葉を詰まらせた。
その本に書かれている異世界の文字が、読めたからだった。




