既視感
このままでは、私に勝ち目はない。
「さぁて、どうする? さっきも言ったが、このままじゃテメェは死ぬぜ」
目の前の男はヘラヘラしながらいちいち癪に障ることを言ってくる。
「……」
本当に癪だ。アレが言っていることは間違っていないのだから。
私の攻撃はあの化け物には効かない。私の肩からは今もなお血が流れ出ている。
私の体質は五感や身体能力を強化するものであっても、傷を塞ぐことができるようなものではない。
このままでは失血死するし、それ以前にアレを倒すこともできない。
あの悪魔が言う通り……このままでは死ぬ。勝ち目もない。
(私は、どうしたらよかった?)
私はさっきからずっと、後悔し続けている。
もしも、竹君の言うことをほんの少しでも疑っていれば。
もしも、父上の言うことをほんの少しでも信じていれば。
もしも、最近の竹君にあったはずの違和感に――ほんの少しでも、気付けていれば。
きっと、こうはならなかった。
(私は、間違っていたのだろうか。自分の心を、信じすぎたのだろうか)
目の前の悪魔は私の姿をみて、ずっとニヤニヤとしている。被り物でよく見えないけれど、薄気味悪い笑みをずっと浮かべているのが月明かりで分かる。こんな状況下で笑っているのだ。
そんな、目の前の化け物を殺さなくちゃいけないと思う私の心も、間違っていたというのだろうか?
「私は、どうしたら……」
思わず漏らしたその言葉と同時に視界が滲みだした、その時。
『自分が信じたものを信じ続けろ』
私の心に、あの優しい声が聞こえてくる――




