小細工
「キサマ……ッ!」
自分の父だけでなく、家族だけでなく、愛する者だけにとどまらず……町の人たちの命まで、まるでおもちゃを壊して楽しむかのように奪っていくクシアを前に、華は心の底から激しく噴き上がるような怒りを抑えきれなくなる。
「キサマァァァアアアアア!!!」
華はクシアの方へ走りながら剣を激しくふるい、さっきまでとは比にならない量の斬撃を放出した。
だが、彼女が振るう剣もそこから発せられる閃光のような斬撃も、そのことごとくがクシアに飄々とかわされてしまう。常人では動くことすらできぬまま死んでいきそうな猛攻をかわしつつ、闇をばらまいて周囲の命を奪っていく。
その間に華はクシアが放つ闇を切り裂きながら間合いを詰め、クシアの懐に入り込む。彼女が放った渾身の一振りはクシアに見切られてかわされてしまうものの、即座に間合いを離れることでクシアが放った全方位カウンターを躱す。
「っチッ……、躱すのが無駄にうめぇな」
華のその動きからは感情を昂らせているとは思えない程、戦闘能力の高さが垣間見える。
(恐らく、今の俺と同じ理屈だろうな。常人を逸脱した五感で、攻撃を見てよけるんじゃなくて感じてよけてる……てところか)
恐らく彼女の五感をもってすれば、工夫なき不意打ちは無意味。闇の一部を結界に使っていることと、カースが外にいることもあって、今の『超人』では彼女と互角に戦えてもとどめを刺すにはあと一歩届かない。
ならば……
「仕方ねぇな? ちょっと小細工するか」




