村の最期
「さて。それじゃ、一気に壊してくか」
一つの戦いを終えた俺は、津波のように激しい闇を発生させまくっては、村中の建物や畑、橋、柵……村にあるあらゆるものを壊して回った。
それはまるで、子供が一生懸命作った砂のお城に水をかけて破壊するように。農家が一生懸命つくった畑に泥水をぶっかけてダメにするように。俺が闇をぶっかけるだけで、建物も畑も簡単に壊れていく。
家族の大切な思い出が詰まった家も、村の未来のために汗水を流した仕事場も、おいしい食事を届けようと丹精込められた畑も、全てが俺の闇に飲まれて無くなっていく。
たとえ人がいなくなったとしても、村は壊す。俺もずっとここにはいられない。離れた隙にまた人が住みつかれたりしても困る。
徹底的に壊す。住処も、食料も、村にあったであろう数々の思い出だって。
そして、それをひたすら繰り返して――人類の生きる希望を、へし折ってやる。
………………やがて、村は完全に壊滅した。村だったそこにはもう、何もなかった。
「…………終わったな」
瓦礫の一つもない更地の中央に、俺はぽつんと立っていた。
『コレからどうするの、クシア』
体に住み着いている真っ黒な化け物、超法則『悪魔』が、脳内で話しかけてくる。
それを聞いた俺は、心臓を掴もうとする勢いで胸元に手を突っ込む。手にドロドロとしながらも凍るように冷たい感触を感じながら、そこから地図の紙切れを掴んで引きずり出した。
「……次はこの街に向かう」
俺も直接声は出さずに、脳内でカースに語り掛ける。
『港町ピスカね。ここから近いし、まぁそうなるわよね』
「ぬかるなよ、カース。ここには結構強い神官がいると聞いたことがある」
『アンタなら大丈夫でしょ』
「だといいがな」
俺は地図を胸元にしまう。
『ところでクシア――なんであの白いのと対峙した時、すぐ殺さなかったの?』
「……あぁ、そういやネタばらしするって言ってたか」
もう周囲には何もない。カースに脳内でネタばらしをするくらいなら問題ないか。
『あんな一芝居打たなくても、殺せたでしょ?』
「まぁな。やろうと思えば、敵の超法則をすぐに取り込むことはできたさ。全身をわざわざ貫かれてみせたのは、そうだな……ただの、演出だ」
『初めて会った時から思ってたけど、アンタ本当に変わってるのね』
「まぁ、結果的に勝ったからいいじゃねぇか」
『気を付けてよね。アンタは不死身じゃないんだから』
「あぁ、そうだな――それじゃ、そろそろ向かうか」
現在の時刻は、まだ昼前。
今日中にもう一つの町も壊すことに決めた俺は、目的地へと飛んで行った。