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一周は

デート!

デート!

実は丸一日一緒に居られるデートはこれが初めてだ。

大学の帰りとかにご飯は行ってたけど…

付き合い始めた時に既に二ヶ月後までの土日の予定が埋まってた進藤って何者?ほんと、こわい。


指定された駅前に行くと、既に白のパーカーに黒いジーンズを履いた進藤が立っていた。

女の子に話しかけられている。

知り合いかな…?

澄はいつもの習慣で、あれが終わるまで待とう、と少し離れた所で壁に寄っ掛かった。

すると何故か、澄のすぐ隣に立つ男性がいて、訝しげに顔を上げると、

「待ち合わせ?」

と話しかけられた。

…誰!?

「え、ええと?」

知り合いなのか思い出そうとじっと顔を見るが、思い出せない。

「誰か待ってるの?一緒に遊ばない?」

「あの…待ち合わせです、遊べません」

「えー。女の子?彼氏?」

「あの…」

ほんと、誰?

「彼氏と待ち合わせです」

答えたのは澄ではなく、いつの間にか目の前にいた進藤だった。

「なんだー、残念。またね」

男が笑顔で立ち去る。またねと言われて、やっぱり知り合いだったと勘違いした澄が

「ハイ、また…」と言い掛けて進藤に両方の頬っぺたをつねられる。

「ひひゃい」

痛い。

「またねじゃねえわ。あれナンパだろ」

「ひゃー」

あー、あれが。と言おうとしたが進藤が手を離さないので変な音が出た。

「油断も隙もない」

「進藤、さっきの子は?」

やっと話してもらえて、両頬をさすりながら聞くと、

「知らない子。あれもナンパだよ」

「凄いな東京…」

「行くぞ、電車乗る」

「うん…どこ行くの?今日おおお」

おおお、となったのは、進藤が突然手を握ってきたからだ。

「遊園地」

遊園地!

澄がニコッと笑ったので、進藤も口元を緩める。

「好き?遊園地」

「うん!」

「…」

「いてて!進藤、手…」

急に手を強く握られて澄が抗議すると進藤はハッとしたように「あ、ごめん」と力を緩めた。



地元に一つだけある遊園地以外の初めての遊園地。

フリーパスのリストバンドを付けてもらって、澄は上機嫌で乗り物をハシゴしまくった。


「澄…ちょっと休憩しよ」

と進藤が言ったのは、澄が「ハリケーンスプラッシュコースター」の三回目に並ぼうとした時である。

「あ、疲れた?」

「入園してからずっと落ちるか回るかしかしてない」

「うまいこと言うね」

アハハと澄が笑ったが、進藤はジト目だ。

「じゃあ、観覧車でも乗る?」

と澄が提案すると、

「観覧車…」

進藤の背筋が何故か伸びた。

「そう…だな。もう…」

「もう?」

「乗ろう」

「乗ろう!乗ろう」

観覧車に乗るのに何故か並々ならぬ決意を漲らせた進藤を不思議に思いつつ、澄は弾む足取りで観覧車に向かった。


観覧車は、殆ど人が並んでいなかった。

ドアを外から閉められると、アナウンスと音楽が流れる。

「へえ、一周15分だって。ミヤギーワールド何分だっけ?」

地元唯一の遊園地を引き合いに出すが、進藤は澄の向かいに座って、答えない。

「…進藤、もしかして具合悪く…」

と澄が言い掛けた時、進藤が突然「好きだ」と言った。

「…ん?」

「俺、澄が好き」

進藤の双眸が、真っ直ぐに澄を見ている。

「…!?」

澄は無言で、背中を背もたれにぶつける様にして後ろにぴょんと下がった。

「そ、れは…どういう…好き?」

期待するまいと自動で心にブレーキがかかる。澄が恐る恐る聞く。

「…こういうとこに二人きりでいると、キスしたくなるっていう、好き」

「エーッ」

澄はびっくりしすぎて叫んだ。

「えーってな、お前…」

呆れたように進藤が言うが、進藤も目元が赤くなっている。

「いや…俺が悪い。付き合う時に、ちゃんと言わなかった」

声に悔恨を滲ませる。

「つ…付き合う時…から?」

「うん…もうちょい前から…」

「…そ」

澄が両手で顔を覆うと、進藤が

「え?!澄、澄。頼む、泣かないで」

と焦った声を出して、澄の隣に座って澄を覗き込む。

「…泣いてない、ぐす」

「絶対泣いてるじゃん」

進藤は澄の肩に腕を回して、引き寄せる。

「…ごめん、澄。ごめん。泣かないで。泣かせたくない。俺…」

ウン、ウン、と澄は無言で顔を覆ったまま頷いた。

なんで涙が出るのか、澄にもわからない。わからないけど、涙が止まらなかった。

「澄、ほら、これ。ハンカチ」

進藤がハンカチを出してくれて、澄は目元を拭いた。

「澄、ホラ、ティッシュ」

ティッシュもくれる。鼻を噛んだ。

澄、澄、と世話を焼いてくれる進藤が可笑しくて、澄はふっと笑う。

進藤がそれを見てあからさまにホッとしたように「ん?」と首を傾げた。

「…進藤のこういうとこ、好き」

澄が目を閉じたままそういうと、進藤が固まった。

「いつもハンカチとティッシュちゃんと持ち歩いてるとこ。陽キャのくせに」

「…陽キャ、は、関係ないだろう」

ちょっと掠れた声で進藤が反論した。

「あー、てっぺん過ぎちゃった」

泣き止んだ澄が、赤い目元で残念そうに言った。

気付いたら、もう時計の9時の位置にゴンドラが来てる。

もうすぐ地上だ。

「…もっかい乗ろう」

と進藤は言ったが、連続で、という意味だとは思わなかった。


「もう一周していいですか?」

観覧車のドアが開いた途端、進藤が澄の手も引っ張って2人分のフリーパスを見せる。

「どうぞー」

たまたま誰も並んでいなかったようで、そのままドアを閉められた。

「…東京でもこのワザ使えるんだね」

沈黙が訪れた機内で澄が言うと、

「澄、俺がさっき言ったこと覚えてる?」

と全く違うことを進藤が言う。

さっき…と澄が思い出そうとするのに被せる様に、

「キスしたいって言ったこと」

「ふわあっ」

その場でちょっと足を浮かせてしまった。

進藤の顔を見上げると、既に澄の方に身体を向けて、顔を近付けようとしてる。

つい後ずさろうとした左腕を掴まれて、腰に手を回される。

「し、進藤…っ」

「澄、逃げんな。目、閉じれる?閉じて」

近付いて来る進藤の顔を目を見開いて見つめていた澄が、慌てて目を閉じるのと同時に、唇に温かく柔らかいものが重ねられた。

「…っ」

澄はファーストキスがどうだとか言う余裕もなく、ぎゅっと目と拳を閉じて、進藤の唇が離れるのを待った。

観覧車の作動音より自分の心臓の音が機内に響く。

澄には永遠に思えた時間、実は3秒ほど後に、ふわっと唇が離されて―

「んっ…?!」

もう一回すぐ唇を押し付けられる。

なんで!?今、終わったのに…?え?これセカンドキス?それともこれ含めてファーストキス?カウントどっからどこまでっ!?

澄が動揺のあまりどうでもいいことでパニックを起こしていると、また一瞬唇が離れて、すぐ角度を変えてもう一度重ねられる。

「んっぅ…」

また…!

もうこれ以上ないほど顔が熱くなってる。

呼吸が苦しくて、次に唇が離れた時にはあ、と息を吐くと、少し開いた唇にまた進藤が覆い被さってくる。

唇の少し内側の、湿った所同士が重なって、澄が身体を小さく震わせると、進藤が興奮したように澄の後頭部を抑えてこじ開ける様に舌を挿れた。

「…ん、んん、んっ」

生まれて初めて口の中を男の舌で嬲られて、思わず漏らす声に進藤が益々興奮していっているのに澄は気付かない。

必死で進藤の胸に縋り付いて、嵐が過ぎるのを待つ様にひたすらされるが儘になっている。

「んっ、んう。ん…!」

舌を絡められ、口からちゅくちゅくと何となくいやらしい音がして、澄は限界を迎えた。

力なく、進藤の胸らへんの服を引っ張ったり、トントンして、進藤を止めようとする。

進藤はというと、そんな抵抗さえいじらしく感じて、気付かないふりで一通り澄の唇を貪ったあと、

「…はあ、どうした?澄…いき、苦しかった?」

唇をやっと離して、澄を覗き込む。

「はあ、はあ…しんどう…も、も、無理」

「どうした?もうすぐてっぺんだし、記念にもっと…しよ」

進藤が澄の頬に手を添える。澄は慌てて首を横に振る。

「む…無理、もう…もう」

「もう?」

「心臓が…破裂して、死ぬ」

そうやって進藤を見上げて、澄は、自分が言葉選びを間違ったことを本能的に悟った。

進藤の瞳が、欲望を湛えてギラギラと光っている。

「大丈夫、俺が…破裂しない様に、抑えててあげる」

そういうと、再び澄の唇を塞ぐと同時に、澄の左胸を手の平で優しく撫で始めた。

「…!!」

胸!胸…触られ…!

「ん…ん、ん…!」

抗議する様に喉を鳴らし、胸を触っている進藤の右手をやめさせようと手を重ねるが、進藤は意に介さず、ゆっくり揉み始める。

「ン、ンッ」

舌を絡められ、口内を味わい尽くされながら胸まで揉まれて、澄がぐったりしたところで、やっと進藤が唇を離した。

「…澄、大丈夫?もうすぐ降り場に着くぞ」

「…」

大丈夫なわけがない。

澄が涙目で進藤を無言で睨むと、先程はあんなに優しく「泣かせたくない」と言った目の前の男が、何故かゴクリと喉を鳴らした。

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