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こっちゃんは(進藤side)

黒川を捕まえるのに30分以上かかった。


やっと見つけた黒川が、メイド服姿で汗だくで自転車を運んでたので俺は頭に来て、避けられていたことを忘れて着替えろ、自覚しろというようなことを口煩く言ったが、黒川には響いてないようだった。

女なんだからって言われてあたふたしてる。

…こいつ、鏡見たことないのか?

送られてきた内の一番マシな、体育館フロアで照明を見上げてる写真を見せても、ケロッとしていた。…これだって、照明のせいで胸が浮き出て見えて、充分やらしいぞ!

あのくそ1年、後で改めてシメてやる。


ただ、そのお陰で黒川が変な住民に絡まれるのを助けられたし、…仲直り出来た。

良かった。また、元通りだ。

卑怯な俺は、胸を撫で下ろした。



文化祭二日目は、黒川が司会をするという中庭のステージに見に行った。

昨日教師に掛け合って、盗撮防止の為に写真撮影NGにしてもらってる。

プルキュアが好きだという生徒会長にもそれをネタに撮影禁止を徹底するよう脅しを掛けた。

会長には昨日焦らされた恨みがある…勘違いだったけど。

勘違いだったけど、勘違いかは本当のところはわからない。

黒川のコスプレ姿が見たくて言い出した可能性もある…いやむしろそれしか考えられないような気がする。公私混同の助平野郎め。

俺が観客と生徒会長を睨みつける中、黒川はプルキュアブルーの格好をして、淡々と司会をしていた。

無表情でキッチリ台本通り「萌え萌えキュンキュン」ポーズを取ったりするので、結構ウケていた。

…ああ、可愛いな。コスプレイヤーとかに興味ないけど、黒川ならコスプレさせて抱…

そこまで考えて、俺は頭を振った。

「どうした、シンドゥ」

「な、なんでもない…」


何考えてるんだ、俺。



3年になって、受験生になると同時に、塾に入ることにした。

黒川や、友達も誘って。

黒川は、あれ以来俺に告白しようとしてこない。

諦めたんだろうか。

それでいいと思ってるのに、誰か他の男に目を向けてないか、…気になる。

勝手だなあ、俺。



「クロ、珍しい、遅いじゃん」

その日、自習室から出ると、いつもは門限で早く帰る黒川の背中を見つけた。

「うん、チューターと面接をね」

「あ、今日だったのか。クロ、どこ受けるの?」

一応聞く。

俺の志望校を黒川は知ってる。

だから俺は当然…当然、黒川も同じ大学を受けると思ってた。

「第一志望は、二子橋大学。私立は2個くらい滑り止めで受けるけど」

「は?」

俺はつい、足を止めた。そこそこ有名な、東京の大学。え、サテライトあったっけ?

「クロ…東京行くの?」

「受かったらね」

とあっさり言う。

あの真っ直ぐな瞳で未来を見据えて。

俺は…目の前が真っ暗になった。



家に帰るなりPCを開いて作業し出す俺に、義姉と義母が恐る恐る話しかけてくる。

「おい、偽善者、どうした?ただいまぐらい言えよ」

「こっちゃん、やめなさい、ギゼンシャっての。いっくん、おかえり、どうした?」

生返事して作業を続けてたら、義母は諦めて居なくなっていた。

勿論暇な義姉は待ってた。

「どーしたんだよ。何してたんだ」

「資料請求してた。俺、志望校変える。東京行く」

「はあ?」

「金あるかなあ。義姉ちゃんがニートになったからその分余ってっかな」

「てめえ、おれをニートって言うんじゃねえ。おれは戦略的省・エネルギー期間だ」

「父さんに聞いてみなきゃな…」

呟く。説得できる自信はあった。他県でもいいぞって言われてたし。義母や義姉との関係は悪くはないが、義姉に偽善者って罵られることも理由にしよう。

「お前、なんかあったんか」

と義姉が言う。

「別に。…調べてみたら結構良さそうだからさ。一人暮らしもしてみたいし」

「…あいつは?」

「クロと一緒に行く」

「…ん?」

「クロと同じ大学受ける」

「んん?」

義姉が首を傾げた。

「クロがこの大学行くって言うから。俺も行く」

「何それ怖っ!」

義姉が叫ぶ。

「付き合ってねえよ!?」

「付き合ってねえよ」

「追いかけて行くってこと!?振っておいて!?」

「振ってない」

告られてないんだから。

「いやいや…」

義姉が本気で引いた顔をしてる。

「お前、おかしいぞ。あいつはお前から離れようとしてるのに、お前が追い掛けたらあいつ、可哀想だ」

「…」

「…な、よく考えろよ。良い機会かもしれんぞ。あいつと会わなくなったら、お前のその変な妄執もなくなるって」

義姉が珍しく、真剣に心配そうに言った。

「だって、無理だもん」

ポツリと俺は言う。

「クロと離れるなんて、俺、無理だ」

黒川は他の奴とは違う。

俺を試したりしない。

黒川が俺と離れるという時は、本気で…俺のいない未来を見てる。

それが、震えるほど俺を怯えさせた。



親を説得して、赤本を書い直した。

急に志望校変えたし、ランクも上がって俺は結構勉強大変だったけど、合格発表で黒川の驚く顔見たら全部吹っ飛んだ。


黒川は文学部で、俺は経済学部。学部が違うから普通に過ごしてたらそんなに会えないので、全カリを全部黒川に合わせた。

サークルにも入ったし、なんだかんだ新天地でなかなか友達が増えない黒川に頼られることも増えて、俺は浮足立っていたんだと思う。


黒川と渋谷のカフェに行ったのに、気付いたら先輩と飲んでて、思い出したのは夜の20時だった。

慌ててスマホを見ると、黒川から14時代に2度着信があった。

LINEも…


『明日、5コマ目終わったら話ある』

『本棟101で待ってる』


あ、…キレてる。


キレて、多分、告白しようとしてる…。


…返信できなかった。

結局俺は、中3の時と同じ手で、告白から逃げた。


でも、キレた黒川は俺を許してくれなかった。

『好きです』

送られてきたメッセージに、俺は呆然とする。

もう終わりだ。

こんなにはっきり言われたら…今まで通りじゃいられなくなる。


でも俺は、阿呆で偽善者でクズの俺は、気付かなかったんだ。

今まで通りじゃなくなることより、恐ろしいことがあるってことに。

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