漁夫は(進藤side)
彼女が出来て良かったこと。
告白を断りやすい、そもそも減る、性欲解消になる、黒川に遠慮なく絡める。
彼女が出来て良くないこと。
キスしてってうるさい。セックスはまあ気持ちいいけど、キスはあんまり好きじゃない。正直うがいしたくなる。友達優先って言ったのに友達と遊んでばっかりって文句言われる。面倒い。黒川に「彼女がいる人に頼る気はない」って言われる。
そう、言われたのだ。
3月に黒川が珍しく学校を3日休んだ。
『どうした?』
『風邪?』
『インフル?』
『無事?』
『なんかあった?』
『心配してる』
1日目に送ったLINEに、3日目の夕方まで既読が付かなくて、俺は気が気じゃなかった。
黒川と仲が良い長瀬に聞いても「私のLINEにも既読つかない」という。
3日目の夕方、やっと既読が付いたけど、返事がなくて、俺は焦れて電話した。
「…はい」
出た声は、弱々しかった。
「クロ?おれ。どうした?」
「おれおれ詐欺やめて…」
「どうした?」
「…大丈夫。来週は行くから」
「大丈夫じゃなくて…。何かあった?」
「大丈夫。大丈夫」
大丈夫しか言わない。
「俺、行こうか。クロ」
「大丈夫。来なくていい。もう大丈夫」
もうってことは、大丈夫じゃなかったんじゃん。
「なあ、俺ら、友達だろ。頼れよ」
「…うん。頼ってるよ」
「もっと頼って」
と言うと、黒川はフフッと小さく笑って、
「もっと頼ったら、彼女に悪い」
と言った。
…は?
後で長瀬から聞いた話によると、白川さんが死んだらしい。
「誰だよ、白川」
と、何故か俺と同じくらい黒川を心配していた暇な義姉が言う。
「クロんちで飼ってた犬だよ」
毎朝散歩してるって言ってた。
「マジかよ…ビビるネーミングセンスだな。流石だ」
義姉は変な所に食い付いてる。
白川さんは老衰で、自分でご飯を食べられないようになっていたらしい。
グッタリして動物病院に連れてったけど、安楽死を勧められて、黒川家は一度白川さんを連れて帰って、一晩中家族で白川さんを囲んで話し合って、次の日病院で安楽死させた。
「マジか…安楽死」
義姉がショックを受けてる。
俺だってショックだ。
黒川はそんなつらい思いをしてたのに…
俺は、彼女がいるからなんってクッソどうでもいい理由で、何も話してもらえなかった。
「そりゃ当たり前だろ!」
義姉が言う。
「彼女がいる男に、飼ってた犬が死んじゃったあエーン慰めて〜なんていう女、ダメだろ」
「…そうなの?」
「そうだよ!一番軽蔑すべき、いや唾棄すべき女だ」
「…じゃあ、別れる」
「…ん?」
「彼女、いらねえわ」
「は!?」
義姉の丸い顔の中で口と目もまんまるくなったのを見つつ、俺は彼女に呼び出しのLINEをする。
「明日別れてくる」
と宣言すると、結構スッキリした気持ちになった。
義姉が背後で、「サイコパスー!」と喚いていたが無視した。
4月。
ごねる彼女とやっと別れられて、2年でも黒川と一緒のクラスだった。
「俺も前の犬の時は…」
最初の席で黒川の隣になった長内との会話が耳に入って、ちょっとイラッとする。
なんだよ、長内には相談したのかよ…
長内がわかりやすく黒川を誘おうとしてたので、大声で話し掛けて潰してやった。
長内、へえ、黒川に気があるのか。
黒川は俺のことが好きだけどね。
ご愁傷様。
…で、終わる話じゃなかった。
ある朝、黒川が、パンパンに腫れた目で、マスクをして登校してきた。
「クロ、どうした?目…の病気?」
「まあ、ハイ、そのような。」
と俺には適当に誤魔化そうとして、
「黒川」
と長内に名前を呼ばれてビクッとする。
「ハハッ、すっげー顔だなあ」
「そ…やっぱりそう?どんな顔?」
「ブサイクな顔」
「ひどいな」
と二人で微笑み合っている。
どろり、暗い感情が胸に沸き出る。
休み時間に野球部の3年生が大挙してやってきて、
「長内、どれ?」
「あ、あの子だ」
「うわ、すごい顔してる」
「泣いたんじゃん?可哀想」
「クロカワさーん、長内はお勧めよ」
「クロカワさーん、長内は振って正解よ」
「ちょっ、もう!何しに来たんですか!」
長内が顔を真っ赤にして黒川を囲み出す3年を引き剥がそうとする。
そのうち2年の野球部も集まり出して、えらい騒ぎになった。
「え、何アレ」
流石にクラスメートも騒ぎ始める。
「進藤、黒川さん、長内となんかあったの?」
「え、長内、黒川さんに告ったの?」
「え、…いいの?進藤」
俺は舌打ちを堪える。
「別に、長内の自由だろ」
とだけ言う。
俺が黒川と付き合ってるって噂があるのは知ってるし、敢えて明確に否定せずにいた。
その方が俺にも黒川にも虫が寄らずに済む。
なのに。
「オサピ、マジなの?よくシンドゥの彼女に言い寄れるなあ」
とクラスメートが騒ぎ出した。
「彼女じゃないよなあ?進藤。黒川と付き合ってないんだろ?」
と長内が大声で言う。
…コイツ。
「うん」
肯定せざるを得ない。
「カレカノより深い付き合いだけどな。なークロ」
とふざけたけど、なんか、負け惜しみを言った気分になった。
その後は最悪だった。
翌日になっても面白がって黒川を見に来る1年や3年がチラホラいて、顔の腫れが引いた黒川に明らかに浮き足立ってる。
「結構可愛いじゃん!黒川先輩」
って騒ぐ奴はまだいいけど、図々しく黒川の席の隣に座って、「ごめんな。煩くして。皆長内を可愛がってるからさ」
って言う3年は明らかに漁夫ろうとしてるだろ。
LINE交換を迫られて黒川は困り果ててる。
振った男の先輩とLINE交換とか、罰ゲームだろ。
「あー、木原先輩が後輩の好きな子に言い寄ってる〜」
俺が大声で茶化すと、長内も気付いて、
「ちょ、まだいたんすか!俺がフラれた子にナンパしないで下さいよ!」
と叱りにきた。
「いやいや、長内の良いところを毎日LINEしてやろうかと…」
「毎日LINEしようとしないでくださいよ!」
ぷんぷん長内が三年を追い払った。
黒川は疲れ切った顔で、
「ありがとう、オサピ。進藤も」
と言う。
心の底にある暗い気持ちがどろり、熱くなる。
…長内のことで、そんな顔させたくない。
俺と黒川が付き合ってないとバレたことで、その後クラスメートと、知らん後輩と、先輩の彼女に告白されて、俺は結構大変だった。特に三番目。
余計なことしてくれるわ。勿論断ったけど、仲が良かった先輩だったのに、もう話せない。
そんなこんなで心の余裕と平静に程遠かった俺は、黒川がまた俺に告白しようとしてたことに気付かなかった。
「あー、悪いけど、今俺彼女作るつもりなくて…」
部活に最近入ったマネージャーの一人に告られて、断ってる時に黒川の呼び出しに気付いた。
『明日の放課後、時間ある?ちょっと話がある』
…あ、やばい。
油断してた。
告白される。
焦った俺は、たった今振ったばかりの目の前の後輩に、「あ、やっぱ付き合ってもいい」と言い直した。
「…え!ほ、本当ですか?」
「ただ俺、彼女より友達優先だから、それが嫌ならやめるけど」
「いいです!全然いいです!…やったあ」
嬉しそうに顔を綻ばせる後輩に、俺も心中胸を撫で下ろす。
…セーフ。うまく話せば、黒川の告白を聞かずに済む。
この時の決断を、この先の人生で俺は何度も思い出しては、後悔することになる。
「…は!?」
案の定、義姉は怒り心頭だった。
「それで、振ったわけ!?あいつを?告白も、聞かずに!?」
「うん」
黒川の呼び出しに応じて行った教室で、俺はうまいこと黒川の告白を未然に防いだ。
でも…
黒川、傷付いた顔をしてた。
あんな顔…見たことない。
間違ったかもしれない。俺は、決定的に、何か、取り返しのつかないことをしたかもしれない。
「お前、サイテーだな!」
「…うん」
「てかなんでそんなにあいつの告白を避けるんだよ!付き合えばいいじゃん!…ぐわっ、リア充は死ねっ」
義姉は自分で言ったことが何かの教義に反したようで、慌てて仰け反って胸で十字を切る。
「付き合ったら、別れた後気まずいじゃん」
「…は?」
「俺、黒川が一番上の引き出しなんだよ」
「引き出し?何言ってんだ?」
「黒川とはずっと一緒にいたいんだ」
「…ええー?!」
義姉が頭を抱えてソファの上で転がるのを目の端で捉えながら、
「もー寝るわ」
とリビングを出た。
ベッドに転がって、スマホを見る。
昨日付き合いだしたばかりの青木璃子から、何個かLINEが来てる。あとはクラスLINEと、バスケと、遠藤と…
…黒川からは何もない。
…あんな顔させたかったわけじゃない。
傷付けたかったわけじゃないのに。
俺の卑劣さに気付いて、黒川が俺を嫌いになったらどうしよう。
翌日から、俺は黒川に付き纏って、絡みに絡んだ。
黒川は心底呆れたように俺を見ていたが、前と同じく、すぐに受け入れてくれた。
…良かった。これで元通りだ。
と思ってたら、ある時から急に黒川に避けられるようになった。
生徒会の仕事も「手伝う」といっても「今手が足りてるから」と言って断られるけど、長瀬や他のやつの手伝いは受け入れてるし、俺の勘違いじゃ無いと思う。
…なんで?いつから?
思い当たるのは先週一緒に行ったホームセンターで、璃子と偶然会ったことだ。
あの後璃子から、「あの人、絶対一騎を好きだと思う」などと訴えられたが、「ないない。クロは友達だって」と適当にあしらっておいた。が…
「なあ、黒川になんか言った?」
「え?言ってないよ。それより、なんで文化祭、初日しか一緒に周れないの?」
「二日目は友達と約束してるから」
「友達って、男バスでしょー?部の皆なら、言えば遠慮してくれるじゃん」
「そういうの嫌なんだって…」
辟易して、部活棟を出ると、体育館に明かりがついたままなのに気付いた。
「あれ?電気消し忘れたんかな。見てくるわ、先帰ってて」
「えー?待ってるよう」
待たれてもな。バス停まで一緒に帰るだけだし。
体育館を覗くと、電気が点いたり消えたり、閉まった緞帳の中でも光が明滅してるようだ。
操作室を覗くと…
「…おお、なんだ、クロか」
低かったテンションがぐっと上がるのがわかった。
「キャー!」
黒川が叫ぶ。…黒川もこんな声、出せんだな。
でも振り返って俺の顔を見た黒川は、顔を曇らせた。
会いたくなかった、と顔に書いてあって、俺はイライラする。
俺を帰そうとする黒川の真意を探ろうとしてると、
「いっきー?」
と璃子の声が聞こえた。
なんだよ、邪魔だな。
俺はパッと操作室から出ると、
「璃子、先帰って。友達いたから、俺そっちと帰る」
「えー!友達って誰?」
「誰でもいいだろ。女子だから、こんな時間に残ってたら危ないし。また明日な」
「女子!?ちょっと…待ってよ、まさか…」
突然璃子が操作室に走っていく。
「おい、土足…!」
てか今一瞬、璃子が鬼みたいな顔したような。
機械室に追いつくと、璃子に詰め寄られる黒川の真っ青な顔が目に入って、反射的に間に入って黒川を背に庇った。
「やめろ、璃子!何してんだよ」
璃子は顔を真っ赤にして、
「なんで!?なんでそっちを庇うの?」
「何言ってんだ。…っていうかお前、やっぱり黒川に何か言った?」
「ねえ、彼女、私だよね。なんで!?」
すっかりヒス起こしてる。
何言ってるか全然わからん。
「あの、私、帰る」
後ろで黒川が言う。
「クロが帰ることない。それ、生徒会の仕事だろ」
黒川をチラリと見てそう言う。可哀想に、すっかり萎縮してしまってる。
「いやいやいや…。二人で、ちゃんと仲直りしなよ」
と黒川が言った途端、
「うるさい!何様なの?このビッチ!」
と璃子が叫んだ。
…何だって?何て言った?…よくも、クロに。
頭の芯が凍るように一瞬で冷えていく。
キレる、ってこういうことだな、と自分でわかった。
「璃子、俺、別れるわ」
と言った。
「…は?」
「…は?」
璃子と黒川が俺の前後で異口同音にそういう。
「別れる」
「なんで!?」
「俺、言ったよな。友達優先だって」
黒川がいなければ、もっとひどい言葉を使ってる。俺は怒りを抑えながら璃子に対峙していた。
「友達優先って…だってその人、絶対一騎のこと」
そんなこと知ってる。
黒川を振りたくなくて、お前と付き合ったんだ。
「黒川を悪く言われるの、我慢出来ない。俺、彼女より友達が大事だって言っただろ」
「は!?ありえないんですけど!だって、そいつが…そいつが」
「クロ、ごめん。仕事邪魔しちゃって。明日手伝うから、今日はもう帰ろう」
もう一秒も目の前の女の顔を見たくなくて、振り返って勝手に黒川の荷物を持つ。
「え?!いや、私は…私は一人でいいよ。進藤、ちゃんと彼女と話し合いなよ」
黒川は両手を胸の前でパタパタさせる。これ、黒川たまにやるけど、動揺してる時の癖なのか?
「なんで!?」
黒川の方を向く俺の後ろで、璃子が涙声で言った。
「やっぱりその人のこと好きなんじゃん!」
「好きだよ。言っただろ、俺、彼女より友達の方が好きなんだって」
璃子がうわあんっ、と泣きだす。
…うるさい。
失敗だった。焦ってたとはいえ、こんな奴と付き合うんじゃなかった。
すると、持っていた荷物を後ろから引っ張られる。
「私、…帰る。一人で帰る」
振り返ると、表情を失くした黒川が俺から取り返した荷物を肩に掛けた。
…え?なんだ?
「クロ?一緒に」
「進藤と今、一緒に居たくない。帰る」
黒川が俺を、真っ直ぐに見ながらそう言った。
…怒ってる。
なんで?…俺、何か…
何がまずかった?
「何がまずかったかわかんねえのか偽善者」
義姉は超能力者なのではないかと本気で思う。
最悪の気持ちで帰宅してきた俺の顔を見るなり、ニヤリと笑って、「何があった?何があった?さあ吐けよ、俺に娯楽を提供せい愚民ども」と言いながら部屋まで付いてきた。
で、話して言われたのが安定の「偽善者」だ。
「…わかんの?今の話で。クロが何に怒ったか」
「逆にわかんねえお前はやっぱりサイコパスだと再確認したわ」
「わかんねえよ。教えてよ」
「自分で考えろ愚弟」
と義姉は突き放し、
「わかってももう、時既にお寿司ってやつだと思うけどな。あいつがよっぽどのお人好しじゃなければ、お前にはもう絆されないだろう」
「お寿司って何?」
「うるせえっ」
義姉は理不尽を絵に描いたように突然吼えると、
「言っとくけどな、今の話の登場人物で一番可哀想なのは元カノだ。いい加減人の心を取り戻せ」
とだけ言って、ドスドス部屋を出て行った。
翌日、黒川は昨日までよりももっと強い、明確な拒絶を見せて俺が寄るのを拒んでいた。
謝りたいけど、何で怒ってるのかがわからない。
文化祭直前で、ただでさえ黒川は忙しく、俺もクラスの出し物の準備をしていて、結局あれきり一言も喋れずに文化祭当日になった。
クラスの出し物はメイド&執事喫茶。定番中の定番だが、コスプレしたい女子と、コスプレを見たい男子、の、需要と供給がこれほどマッチする空間はないと、遠藤は熱弁する。
黒川は11時まで当番で、その後生徒会の方行くって長瀬が言ってたな…。
俺は空き教室で執事の格好をして、黒川とかぶるよう当番よりかなり早めにクラスに向かった。が、
「澄ちゃん?さっき、生徒会に呼ばれて連れてかれちゃったよ」
あっさり言われる。
なんだよ、すれ違いか…
黒川の穴を埋める為に早めに当番に入ったら、皆に喜ばれた。
午前中から結構盛況だ。
「進藤、似合うじゃん」
「写真撮ってー!」
「先輩、ラブラブビームのサービスはしてないんですか!?」
俺も立派に客引きパンダの役割を全うする。
ニコニコサービスしてたら、野球部の集団が入ってきた。
「おー進藤」
「あ、どもっす」
顔見知りの先輩に声を掛けられて、挨拶をする。
「あ、つい声掛けちゃったけど、注文はキミじゃなくてメイドちゃんがいいから」
と先輩が軽口を叩いて笑う。
「黒川ちゃんは?いないの?」
「あー黒川は生徒会が忙しいっぽくて」
「あんだー黒川ちゃんのメイドが見たかったのに〜」
なんてことを言う。
長内のせいで、野球部内で黒川は人気がある。
クラスの女子が注文取って、俺も他のテーブルを片付けたりなんだりしてたら、野球部が急に、おおーっと騒ぎ出した。
「やっべ、エロい、黒川ちゃん」
「これ今?」
「いや、もう体育館にはいないっぽい」
「んだよ、すぐ呼べよ」
「なんすか?なんかありました?」
会話に黒川が出てきて、俺は気になって口を挟んだ。
「コレコレ」
と見せられたのは、黒川がメイド姿で体育館の2階ギャラリー席部分で何やら照明のチェックをしている写真。…明らかに、階下からスカートの中を撮ろうとしてる。
体育館が暗いのと、スカートがそんなに短くないので、幸いパンチラはしていないが、黒いニーハイの切れた辺りのナマの太腿がガッツリ写ってて、黒川の清楚なイメージとのギャップでひどくいやらしく見える。
「…は?これ、誰から送られてきました?」
俺は地を這うように低い声を出した。
「エ、小谷田だけど…うちの1年の」
「そいつ、今どこにいます?呼び出して貰えます?」
「エッ、エッ、なんで?」
俺の、普段と違う様子にビビったような3年が、オロオロする。
「これ、立派な盗撮ですよね。野球部、活動休止になりますよ」
「おいおい…」
3年は引退してるとはいえ、活動休止と言われても顔色を変える。
「そんな、こんなことで」
「すぐそいつ呼び出して写真消させて下さい。いや、俺が言うから、とにかく呼んで」
先輩に対する口調じゃないけど、そんなこと知ったことじゃない。
「ちょっとおれ、先輩方に呼び出されたから出てくるわ」
とクラスメートには言って、3年を連れて廊下に出る。
「おい、進藤、なんでそんな怒ってんだよ」
「呼びました?1年」
「よ、呼んだ呼んだ。すぐ来るってよ」
「この写真受け取ったの誰ですか?こん中で」
「野球部のLINEだから全員…」
「すぐ消して。いや、待って、俺に転送して。繁川さん俺のLINE知ってるよね」
「あ、うん」
証拠の写真をすぐ転送する。アホで助かる。それを確認して、舌打ちする。何枚撮られてんだよ。
「じゃあ全員、データ消して。写真保存した人はそれも消して。他に回してないですよね」
「ないけどさ、なんでお前にそんなこと言われなきゃなんねーんだよ」
「活動休止にしたいんですか?一人にでも転送してたら教師にちくりますよ。あんたの親にも、高野連にも、進学先の大学にもチクってやる」
「な、なんでそんな…」
「消した!消したよ、ほら」
3年が慌ててスマホ操作をしていたら、元凶の1年がノコノコやってきた。
そいつも締め上げて、データを消させる。
「送ったやつ全員にデータ消させろ」
1年には遠慮せずにガンガン言う。
「1枚でも他で黒川の写真見かけたら活動休止どころか廃部にしてやる」
小谷田という1年は俺の剣幕と3年の雰囲気に真っ青になっている。
そいつを蹴り上げたい気持ちを堪えて、その場の全員にデータを消させると、「他の奴らがちゃんと消したか見回れ」と命令して、自分は黒川を探した。
黒川のスカートを覗こうという奴らにも、無防備にあんな格好でプラプラしてる黒川にも腹が立ってしょうがなかった。