鈴鳥 四
「どうも」
白藍が声をかけると、水田で苗を植える夫婦は同時に顔をあげた。
「―――こんにちは」
近くにいた女がいぶかしりながらも、挨拶を返す。
見知らぬ男が何者なのかを、測りかねているのだろう。
ここは比較的大きい村なので、祭事に直接関わらない村人もいるのだ。
白藍の顔を知らずとも不思議ではない。
「彼我師の白藍です」
名乗ると、途端に夫婦は顔を見合わせて笑顔となった。
「ああ、白藍さん。一年ぶりですね」
「ええ、今日は祭事なんで」
そう言い、白藍は道端の小岩に腰掛けた。
―――何と聞くべきか。
息子の件で、というのが一番妥当だろうが、杉正の話ではその息子を忘れてしまっているというのだから、その手は使えない。
「あの、彼我師さんが俺たちに何か御用ですか?」
男の方が首を傾げて問うてきた。
田植えの時期だ。
あまり時間をとる訳にもいかないだろう。
白藍は意を決して口を開いた。
「さっき村長と話したんですがね―――」
りん、
と鈴の音が聞こえた。
村に入った時に聞いた音と同じだ。
ばっと周囲を見回した。
しかし何も見えない。
眉をひそめる白藍の横に並び、女が小さい声で呟いた。
「・・・また鈴が」
「また?」
白藍の問いに、水田から上がってきた男が空を指差した。
「あれです。少し前から音がするようになって」
見ると、小さい鳥が宙を舞っていた。
どこか目的がある訳でもなく、周囲を悠々と旋回している。
その鳥が少し方向を変えるたび、鈴のような音が鳴っているのである。
「少しって、いつから?」
頬に手を当て、女が答えた。
「二か月くらい前かしら」
丁度、俊斗が死んだ時期と重なる。
どうやら、彼人が絡んでいるとみて間違いなさそうだ。
祭事で何らかの手を打たねばなるまい。
「・・・何なんでしょうね」
泥に塗れた足を拭こうともせず、女は物悲しそうに鳥を見ていた。
小岩に腰掛けている白藍は頬肘をつき、黙って女を見上げる。
「この音を聞くと、なぜか淋しい気持ちになるんです。何ででしょう」
誰かに答えを求めている訳ではないのだろう。
心の底から湧き上がる理由の分からない感情を、自身が持て余しているのだ。
白藍は女から遠くの御堂に視線を転じた。
そして僅かに目を細める。
「今からそれを聞きに行くところだ」