黒よりいでし藍 八
帰って来た珠黄を見て、白玄は何も言わなかった。
戸口に立つ道生と七星に、
「すまなかったな。埋め合わせは今度させてもらおう」
と、静かに言った。
道生は小さく頷き、七星を促して大人しく帰って行った。
戸が、そっと閉まった。
身を縮こまらせる珠黄を余所に、白玄は何事もなかったかのように鍋の準備を始めた。土間で鍋に水を入れ、野菜を刻む。
白藍は、そんな二人を壁にもたれかかり黙って見ている。
懐から煙管を出すと、白玄が目ざとく見つけた。
「高藍、吸うなら外に出ろ。鍋に匂いが移る」
肩を竦めた白藍は、仕方ないとばかりに戸口へと向かう。
そして戸口に手をかけると、ふと思い出したかのように肩越しに振り返って白玄へと言った。
「あんたさ、言いたい事はちゃんと言った方がいいぞ」
鍋を手に土間から上がろうとしていた白玄は眉をひそめた。
「何が言いたい?」
白藍は軽い調子で続ける。
「見つけにいかないのは師匠としてのけじめだろうが、見つかって安心したんならその感情を真っすぐ珠黄にぶつけろよ。そいつはまだガキだからさ、ちゃんと感情を表に示してやらないと分からないぜ。あんたから愛されているのかどうかが」
何か言いかけた白玄に構わず、白藍は外へと出た。
白藍に出来るのは、こんなことくらいだ。
壁にもたれて煙管をふかす。
まだ降り続いている雪が、白藍の肩に舞い降りた。
しばらくして、珠黄の泣き声が聞こえてきた。
その合間に、白玄のなだめるような低い声がぼそぼそと響く。
白藍は小さく笑って空を見上げた。
どうやら、自分の二の舞にすることは避けられたようである。