第1章:始まりの3年間 第6話:息抜き
前回までのThe Outsider
スレイはジョッシュと共に落ちたが、何とか生還することができた。
スレイはジョッシュに誘われて城下町へと向かう。ヴァートレスの村から王都までの距離は近く、村にある停留所の馬車に乗って向かった。
馬車の荷台に乗った後、二人は話し始めた。
「なぁ、あの日に貰った"お金"って貯金してるのか?」
「うん」
銃士隊訓練生は訓練開始時から30日ごとにお金を支給される。エヴォルドでのお金のやり取りは"ルメダ"と呼ばれている通貨をつかっており、金貨、銀貨、銅貨によって価値が違う。金貨が万、銀貨が千、銅貨が百の単位で区切られている。
「訓練しながらでもお金が貰えるって、いいな」
「だろ? まぁ、今後の訓練を思えば多分お金が貰えて当然だと思えるかもな・・・」
ジョッシュの言葉にスレイは疑問を示す。今までやって来た訓練といえば、訓練生が隊列を組んで走る隊列走行、腕立て伏せや腹筋などと言った肉体鍛錬、色々な武器を使った素振りや組み手、エヴォルドについて学ぶ座学だった。
「まだまだ辛い訓練あるのか・・・」
「そんな落ち込むなって。第一、他にやりたい事出来たりしたらそっちに行ってもいいだろうし」
彼にはそう言われたが、今のスレイにとって、何をやりたいか思いつかなかった。
そんな話をしていると、馬車が止まり、御者が顔を出して言った。
「城下町に着きましたぜ」
「おう、おっちゃんありがとな」
ジョッシュは御者にスレイの分も含めたお金を渡す。スレイにとって、申し訳ない事だと思ったが、彼を見る限り、精一杯の償いや恩返しだとも読み取れた。
城下町に着いた二人は、大通りを歩いていく。大通りには様々な人が歩いており、左右には様々な露店が設置されていた。
そんな中、彼等に話しかける人物が現れる。厳密に言うと、スレイではなくジョッシュに話しかけた。
「あら、ジョッシュじゃない?」
彼等が声がした後ろを振り向くと、制服姿で長い緑髪の少女が立っていた。
「おっ、アイネか! 久しぶりだな」
ジョッシュは久しぶりの再会を喜ぶが、アイネは彼の隣にいるスレイが気になった。
「あれ、その子はジョッシュのご友人?」
「あっ、スレイと言います」
スレイは自分の名前を名乗って頭を下げた。
「ふふっ、宜しくね」
彼の自己紹介に、アイネは微笑みながら挨拶をする。しかし、そんな二人のやり取りに軽く咳払いをしてジョッシュが割り込んだ。
「・・・んで、今日は学校じゃなかったのか?」
「学校だったけど、午前授業だったから」
そう聞くと、彼は言った。
「へぇ、それなら俺たちと一緒に飯にでも行かないか?」
「何それ、口説いてるつもり?」
アイネが笑いながらそう言った後、彼女はジョッシュの誘いに乗った。
三人は昼食を食べる為に城下町の食堂に向かった。
「ここよ」
そこは"マルコズ・ダイナー"と言う食堂で、スレイを除く二人は笑みを浮かべていた。
「懐かしいな・・・最後にお前と行ったのっていつだっけ?」
「7歳ぐらいじゃないの?」
二人が幼少期の話を始めてしまい、スレイが置いてけぼりになってしまうと、アイネはそれに気づいた。
「スレイ君は知らないの?」
「はい」
「取り敢えず、食べながら話そうぜ」
そんな話をしながら三人は食堂に入った。
ちょうど昼の時間帯だったものの、あまり混んでいなかったおかげで彼等は運良く席に座れた。
彼等が席に座ると、ウェイトレスの女性が、水を運んできてテーブルに置いた。
「ご注文が決まりましたら、カウンターの方までお呼びください」
そう言って彼女はカウンターの方へと戻って行った。
三人はテーブルにあるメニューを広げる。メニューには食事の名前に、その名前に該当した絵が描かれていた。
「ベーコンエッグディッシュにハンバーグにシーサラダ・・・」
スレイがメニューを眺めていると、彼にとって驚く名前が書かれていた。
「サラマンダーの唐揚げに、竜のフカヒレスープ・・・?」
「ああ、お前は知らないのか」
ジョッシュが疑問に思うスレイを見てそう言った。
「魔物を材料にした料理もあるんだよ、ここ」
「えぇ・・・そうだったんだ」
その言葉に引いた表情をする彼に、ジョッシュがフォローを入れた。
「まぁ、名前の割に結構美味いんだぜ?」
そんな話をしているうちに、それぞれ食べたい料理は決まったようだった。
食べたい料理が決まった彼等は、誰がカウンターに行くか話し合う。スレイが行こうとしたが、ジョッシュに止められ、彼が行こうとしたらアイネに止められて、彼女が行く事になった。
「・・・そういえば、アイネさんとはどんな関係なのかな?」
アイネが席を離れた後、スレイがジョッシュに言った。
「まぁ、アイネも言った通り、15歳になる前に1年間だけ城下町に住んでいた頃の幼馴染だよ」
「城下町に住んでいたのか」
「ああ、親父が"王宮銃士隊"の設立に関わってるからその時にな」
「王宮銃士隊・・・俺たちとは違うのか?」
「ああ、王宮銃士隊ってのは基本的に銃を使うのは同じなんだが、服装と仕事内容が違くて、あっちは主に城の守衛に王族とか大臣の護衛が仕事だ」
「そうだったのか」
「ああ、レーヴァは"私物"として銃持ってるだけだから王国銃士隊では無いけどな」
「あれ、私物で銃を持つなんて良いのか?」
「まぁ、ヴィルトも自分のライフルに望遠鏡付けてるのに文句言われてないしな・・・」
「そこじゃないような・・・」
そんな話をしているうちにアイネが戻って来た。
彼女がカウンターから戻ってから、三人は食事が来るまで待っていた。
すると、彼女がスレイの方を見て、ニヤニヤしながら言った。
「そういえば、ジョッシュの親友君について聴きたいなぁ」
「あっ・・・」
口籠るスレイにジョッシュがフォローを入れた。
「あっ、コイツ話すのに慣れてないんだ」
「ふふ、可愛いね」
彼女からそう言われて、スレイは顔を赤くするように照れると、ジョッシュは呆れるように顔を抑えた。
「こいつ、女慣れしてねぇな・・・」
「意外ね。で、この子は?」
「ああ、そうだな───」
ジョッシュがスレイの代わりに解説した。
アイネはジョッシュの解説を聴いて、一応の理解は示す。ただ、彼が天星人という点には目を丸くしていた。
「ふむふむ、彼はそうだったのね」
「まぁな、俺と親父が偶然その場に出くわして助けたのが始まりだ」
「なるほどね」
彼等が話していると、ウェイトレスが料理を台車に乗せて来た。
それからというもの、料理を食べた三人は食堂から出て来た。
ジョッシュはハンバーグを食べ、アイネはシーサラダ、スレイはベーコンエッグを食べた。それぞれ美味しく食べれたようだ。
「じゃあ、私はこれで」
「おう、気をつけて帰れよ」
「うん、じゃあね」
アイネは一足先に帰って行った。
「じゃあ、俺たちも帰るか」
三人は自分達の住む村へ帰って行った。
彼等が村に帰ると、誰かがジョッシュの背中に飛びかかった。
「うおっ!!」
「ジョッシュ、お帰り!」
「何だ、"レーナ"か・・・」
「何だって何よ!」
レーナと呼ばれる少女はジョッシュの帽子を深く被せた。
「おい、よせ!」
前が見えなくなったジョッシュはバランスを崩しそうになり、彼女はすぐ地面に降りた。
スレイはレーナと呼ばれる少女を間近で見る。束ねられた長い金髪にシニヨンキャップを被った黄緑色の服の町娘で、何処となくレーヴァに似ていた。
彼女もスレイを注視し、お互い無言になるが、彼女は何かに気付いて逃げて行った。
「おや、君は・・・」
スレイが声の聞こえた方向を振り向くと、そこには眼鏡をかけた壮年の男がいて、彼の後ろには彼女が隠れていた。
「カルロさんか」
帽子を外したジョッシュが言った。
「ジョッシュ、元気だったか?」
「ああ、この通りな」
ジョッシュはそう言いながら、レーナを睨みつけるが、彼女はカルロの後ろで右目の瞼を下げて挑発した。
「レーナ、先に戻ってなさい」
「はーい」
彼女は彼に言われて、先に彼の家へと戻った。
「・・・そういえばさっきの少女は娘さんですか?」
「いいや、レーヴァの妹だ」
娘だと思って訊いたスレイが少し驚く。どこと無く似ていると思ってはいたが、性格は少し真逆そうな気がしていた。
「そういえばまだ言ってなかったからな・・・」
「あれ、なら親は───」
スレイがレーヴァ達の親について聞こうとしたが、ジョッシュもカルロも黙る。その雰囲気を察したスレイは、すぐに謝った。
「すみません・・・」
「いいや、良いんだ。彼女らの両親はもうこの世に居なくて、私が引き取っているんだ」
「そうだったんですか・・・」
話題を変えるように、カルロがスレイに言った。
「そういえば、君が天星人だとして訊きたい事があった」
「訊きたい事、ですか?」
「君が元いた世界ではどんな物があったのか教えてくれないか?」
「どんな物・・・ですか」
スレイは元いた世界について思い出そうとするが思い出せなかった。
「すみません、よく思い出せなくて・・・」
「仕方あるまい。元の世界を思い出せない天星人は多いと聞く。もしかしたら後々思い出すかもしれないから、その時にでも聞かせてほしい」
「はい」
「おっと、呼び止めてすまない。また会おう二人共」
彼は二人に別れを告げて帰っていった。
「俺たちも帰るか」
「ああ、今日はありがとう」
「こちらこそ」
彼等は別れの挨拶をしてそれぞれの家に入っていった。
それから夜が更け、スレイはベッドに眠っていた。久しぶりに人と遊んだ気分だった彼にとって、それは嬉しいことでもあったのか、深い眠りについていた。
「───目が覚めましたか?」
誰かが起こすように声をかけた。目を開けると、そこには長い金髪をした美しい女性がいて、目元までは見えなかった。
「ああ、──────」
無意識のうちに口を開くが、彼女のことを何と呼んだのかは分からない。むしろ今見ているものは誰かの視点を借りて見ているようなものだった。
「ふふっ、こうして膝に乗せていると、まるで自分が母親になった気分です」
彼女はそう言って微笑む。その笑顔に彼は何故か見覚えがあった。
「もう一度眠ってください、時間になったら起こしますから───」
そこで夢は終わってしまった。
「待ってくれ、俺は───」
スレイが目を覚ますと、彼は天井に左腕を挙げていた。
何故あの夢を見たのか分からない。ただ、彼の疲れは知らない内に取れていた。
「俺は元々、誰なんだろう・・・」
遅れてしまい申し訳ありません。これからもこのペースかもしれないですが、見て頂けたら嬉しいです。




