第1章:始まりの3年間 第4話:それぞれの苦しみ
前回までのThe Outsider
銃士隊訓練生として訓練し始めたスレイ。最初は不安と同時に新しい事へ心を躍らせていたが、段々と彼の様子がおかしくなる・・・
スレイがエヴォルドに来て1ヶ月以上が経ち───訓練していく中で、彼の心は既に危険な状態へとあった。
訓練生活35日目、彼は知らないうちに起きれなくなっていた。
体が重く、無理矢理起きたとしても震えが止まらず、異様に朝が辛い気持ちになっていた。
「遅刻だぞ、スレイ!!」
遅れてしまい、教官に叱られて彼は謝る。最近はいつもこんな日が続いており、何か不穏な空気が彼自身を取り巻いていた。
「アイツ、また遅刻だってよ」
「流石に訓練キツいしな・・・」
何処かでスレイの噂話が聞こえる。しかし彼は、自分に対する嫌な噂だと思って、気にしないように耐えていた。
そんな彼をジョッシュは別の所から睨んでいた。
一方その頃、クレイグはアストリア王国の集合住宅の一室に来ていた。
「レーヴァ、いるか?」
彼が扉を叩きながら言うと、扉が開き、町娘の格好をしたレーヴァがいた。
「クレイグさん、どうしましたか?」
「いや、実はお前に相談があってな・・・」
彼女はすぐ何かを察して、彼を自身の部屋に入れた。
彼女の部屋は洒落ては居ない無難な感じの部屋だが、窓際には満開の花が咲いた植木鉢が置かれていたり、鏡台には化粧品のような物が置いてあり、彼女も一人の女性である事が分かる。
「すみません、お恥ずかしい部屋で・・・」
「いや、いい部屋だな。ジョッシュにもいい加減一人暮らしさせたほうがいいが───」
彼が雑談しようとするが、一刻を争うのか、途中でやめて本題に入った。
「・・・実は、スレイの様子が最近おかしいんだ」
「スレイ君が?」
「ああ、実はな・・・」
クレイグは、レーヴァにスレイの様子が変わった経緯を話した。
スレイの様子がおかしくなったのは訓練生として入隊してから半月の頃、疲れが取れていないかのように反応が鈍くなっており、指導する教官から頻繁に注意を受けるようになっていた。
また、他の訓練生からの話によると、彼がふらつきながら移動していたりする所を目撃されており、医務員が相談しようと提案したりするが、それも断っていた。
クレイグが話し終えると、彼は溜め息をついた後に言った。
「・・・俺の責任だ」
「どうしてですか?」
「俺がスレイを無理矢理銃士隊の訓練に入れなければこんな事にはならなかったのかもしれない・・・」
「それでも、スレイ君には拒否権があったはずです」
「だが、スレイには酷な事をした。せめて考える猶予を与えるべきだった」
「まさか・・・」
レーヴァは何かを思い付いて、それを彼に言った。
「───まさかですけど、ジョッシュから嫌がらせを受けている可能性は?」
クレイグはそれを聴いて何か思い出す。入隊当初、ジョッシュは彼に耳打ちしており、それは他でも無く、スレイについての事だった。
「確かに、信じたくは無いが・・・」
「私も信じたくはありません───ただ、もし彼が"あの過去"をまだ引きずっているのなら、その可能性はあると思います」
「それならまずい・・・!」
それを聞いたクレイグはすぐ部屋から出ようとしたが、ある事を思いついて彼女に提案した。
「すまないがレーヴァ、もし良かったら君も来るか?」
「はい! ただ、騎士の格好をしてから行きます」
彼女は快く了承し、彼は部屋から出て待つ事にした。
クレイグがレーヴァを訪ねた頃、銃士隊育成所では、組み手を行なっていた。そう、その時に事件は起こったのだ。
教官は組み手の時に、二人一組で組手するよう伝え、誰と組むか指示をした。
指示を受け、訓練生達は各自で組み手を始めた。
スレイはジョッシュと組むことになり、彼は舌打ちをした。
しかしスレイは反応せず俯いた状態で、ジョッシュは彼と組むことになり機嫌が悪かった。
「おい」
ジョッシュがそう言って彼の右頬を1発殴ると、彼は尻餅をつき、痛そうに頬を触れていた。
「やる気ねぇなら来るんじゃねぇよ、この余所者が」
ジョッシュが殴ったのを見て教官がすぐ止めに入る。他の訓練生もその光景に気付いて様々な反応をした。
「おい、何をしている!?」
「いいえ、間違えて殴ってしまいました」
しかし、ジョッシュの言い方を怪しく思った教官は指示を下した。
「それでも駄目だ、お前はこの訓練から外れろ。スレイ、お前は医務室に行け」
ジョッシュは舌打ちをして訓練場から離れ、スレイはおぼつかない足取りで医務室に向かおうとした、その瞬間だった。
「人間擬きが・・・」
その言葉が聴こえてスレイは立ち止まると、彼は後ろを振り向いてジョッシュの方へと走って向かった。
そんなことに気づかず歩いていたジョッシュは右肩を掴まれ、強引に振り向かせられる。
「チッ、何だよ───」
ジョッシュ言葉を最後まで出す瞬間、彼は左の頬に1発殴られた。
しかし、彼のように殴り慣れていないのか、殴った後に少し苦痛を感じた表情を浮かべた。
「この野郎・・・!」
ジョッシュは殴られた怒りからスレイの右頬を再び強く殴ってよろけさせるが、彼はすぐに感覚を取り戻して自分を馬鹿にした相手を視界に捉えた。
スレイは胸倉を掴んで押し倒し、精一杯の力で殴り続けるものの、ジョッシュは彼の猛攻を両腕で防いた。
周りが見えていないのか、それとも聴こえていないのか───無我夢中で自分を殴るスレイにジョッシュ一瞬不気味さを感じて動揺するが、彼はすぐ憎しみを表情に出して我に返った。
「お前みたいな奴に・・・!」
ジョッシュはスレイの隙を突いて、彼の腹を蹴る。彼はよろけて後方に倒れそうになったが、何とか耐えた。
涙目になりながらも耐えたスレイはもう一度殴ろうとしていた。
「お前たち、いい加減にしろ!!」
教官が止めに入り、他の訓練生が殴り合う二人をやっとの思いで取り押さえる。ヴィルトやシェイルはジョッシュを両腕を掴んで押さえ、スレイの方には覆面の少年が羽交締めにして押さえた。
「離しやがれ!」
「やめろジョッシュ!!」
「この馬鹿が・・・」
激昂するジョッシュをシェイルが宥め、ヴィルトはため息を吐きながら呆れる。一方でスレイの方は無言で拳を握ったままだが、覆面の少年は『よせ』と言うように、静かに首を横に振った。
喧嘩をした二人はその場で教官に叱られ、その後、彼らは別々の医務室で治療してもらうことになった。
そしてクレイグとレーヴァが到着後、その訓練は終わっていた。
訓練の担当していた教官から謝罪とともに喧嘩の事を伝えられて、クレイグはジョッシュの方へと向かった。
レーヴァは彼に言われて、スレイの方へと向かった。
クレイグはジョッシュのいる医務室に着いた後、無言で彼の胸倉を掴んで人気の無い廊下へと連れて行き、彼を壁に叩きつけた。
「痛ぇよ・・・」
「・・・お前、スレイに何をした?」
「いいや、何も」
顔を背けながら嘲笑する彼を再び壁にぶつけた。
「とぼけるな!!」
クレイグが怒鳴りつけると、彼は表情を硬くした。
「・・・じゃあ、何でアイツを銃士隊に入れたんだよ。こうなる事は予想済みだったろ」
彼にそう言われて、クレイグは手を緩める。しかし、再び胸倉を強く掴みながらこう言った。
「・・・それでも、やっていい事と悪い事があるだろ!!」
クレイグの言葉に彼は自覚するように沈黙するが、彼の拳は握ったままで、震えていた。
時同じくして、スレイの休む医務室では、レーヴァが部屋に入ってきた。
医務員に事情を伝えると、話を理解してその人物は出て行った。
「大丈夫・・・?」
カーテンを開いた彼女は、毛布に身を包んで座り込んでいる彼を見た。
そんな彼の背中に触れようとした瞬間、啜り泣く声が彼女の耳に入った。
泣いている事に気付いた彼女は、ベッドに座って彼を見守った。
しかし彼女の視線に気付たのか、彼は平然を取り繕うとした。
「あ、これは、その・・・」
スレイにとっては恥ずかしい事だったのか、彼は必死に誤魔化そうとするが、中々誤魔化せなかった。
「ふふっ、大丈夫よ。ここには私と貴方しかいないわ」
そう聞いて彼は安心するが、まだ気が張っていたようだった。
「教官に怒られたり、失敗したりしたの?」
彼女が優しく問いかけると、彼の目に再び涙が溢れていった。
「あ、あの・・・」
「どうしたの?」
「ご、ごめんなさい・・・」
スレイからの一言に彼女は驚く。何故彼がこんな事を言ったのか分からない───ただ、自分を責めている事だけは確かだった。
「・・・もしかして、ジョッシュに何かされたの?」
スレイは図星かのように振り向いて顔を見せる。先ほど泣いていたせいか、彼の目は赤く充血しており、右頬も青く痣が出来ていた。
「で、でもこれは俺が悪いんです。自分がもう少し強ければ、自分が銃士隊に入らなければ・・・」
自分を責めるスレイに本音を訊こうと、レーヴァは彼の背中を優しくさすった。
「私で良ければ相談に乗るし、何を言っても責めるつもりは無いわ」
それを言われて、スレイは再び泣きながら口を開いた。
事の経緯を聴いた彼女は、案の定だと思いつつもガッカリしたように肩を落とした。
スレイの話通り、最初は睨んだりするぐらいで何もしなかったが、今日一緒に組んだ時の言葉がきっかけで喧嘩が始まった。
勿論、訓練の厳しさや自分が天星人という事への異質な感覚などといったその要因が幾つも重なれば行き詰まる事は確かだった。
「・・・何で彼が嫌がらせをするか、理由は分かるわ。でもスレイ君は悪くない」
彼女はスレイにある話をする。それはジョッシュについての事だった。
「彼ね、クレイグさんの息子ではないのよ」
ある日のこと、ジョッシュがまだクレイグに引き取られる前のこと───彼は両親と共に村で暮らしており、その時は天星人に対する偏見も無かったようだった。
しかし、ある日のこと天星人が村で保護され、そこから事態は急変した。
その日の夜、その天星人が急に村人を殺害し始め、ジョッシュの両親も犠牲になってしまった。
恩人達を虐殺した天星人は、幼きジョッシュをも殺そうとしたが、寸前の所で銃士隊が現場に居合せ、その天星人を討伐した。
その時、ジョッシュは王国で保護され、クレイグが引き取ったのだという。
スレイは、ジョッシュの過去を聞いて呆然とする。その天星人が何故そんな凶行に走ったのか気になるが、今となっては知る事など到底不可能だった。
「そんな過去があったなんて・・・」
「ええ。残念な事に、天星人は一部の人にとって嫌悪や軽蔑の対象でしかないの。ただ、ジョッシュの事例は稀少で、その天星人が何故助けてくれた村の人を襲うようになったのか、理由もわからないわ」
「それなら、俺は・・・」
「いいえ、スレイ君は悪くないの。ジョッシュには私からキツく叱っておくから、ね?」
彼女そう言って柔らかな笑顔を見せる。自分と同年代だと言うのに、彼女の方がしっかりしている、とスレイは自分が情けないと感じながら思った。
その後、クレイグや教官長のバーグからジョッシュから離れる事を提案をされるが、彼は却下する。正直、狂っているかもしれないと彼自身でも思うが、それでもあの話を聴いてしまったら、根は悪くないのかもしれないと思えていた。
次の日、その日は遠征訓練で、訓練所から近くの山に向かった。
山道を隊列で歩いていると途中で雨が降り、今回の訓練で指揮していた教官が言った。
「今日の訓練は中止だ、皆気を付けて引き返せ」
訓練生達は来た道を引き返すが、運悪く、ジョッシュが歩いていた足場が崩れてしまい、彼はバランスを崩した。
その出来事に彼は確実に死を覚悟するが───誰かが彼の手を掴んだ。
ジョッシュが恐る恐る目を開くと、そこにはヴィルトでも、シェイルでも無く、彼が忌み嫌う天星人、スレイがいた。




