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The Outsider  作者: 橘樹太郎
第2章:邪竜と黄金色の竜
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第2章:邪竜と黄金色の竜 第18話: 復讐するは我に有り

前回までのThe Outsider

 オルテナ大陸の各国から集まった連合軍は、見事に魔王軍を討伐した。

 魔王が倒された事で、その配下が降伏していく中、スレイはベアトリスを抱えて城から出た。


 スレイが来た事に反応して、ジョッシュやヴィルト、レーヴァが駆け寄った。


「スレイ、終わったのか?」


「うん、終わったよ・・・」


ベアトリス(そっちの嬢ちゃん)は大丈夫か?」


「疲労で気を失っているだけだから大丈夫・・・」


「スレイ君、お疲れ様」


「うん・・・みんなも」


 そんな話をしていると、やけに騒がしい声がスレイの耳に入る。彼が後ろを見ると、そこには降伏した魔王軍の兵士や無力化したメイド達が捕虜として縛られていた。


 そんな中、1人の少女がスレイに向けて走ろうとしていたが、他の兵士に取り押さえられる。その少女はメイドのようで、彼女はスレイへ涙を流しながら怨嗟の言葉を吐いた。


「よくも魔王様を・・・!

お前だけは・・・お前だけは絶対に殺してやる!!」


「おい、じっとしてろ!」


 取り押さえた兵士が猿轡を噛ませるが、それでも彼女の憎しみは留まるところを知らない。魔導士がやって来てスリープをかける事で抑える事は出来たものの、スレイは自分の罪を再認識させられた。


 少女が意識の途絶える直前に見せたあの()には、復讐の炎が宿っていたようにも感じられた。



 その後、魔王軍を討伐した連合軍はそれぞれの国へ戻り、大陸に訪れる平穏を祝った。

 ・・・しかし、スレイはこれまでの戦いを経て浮かない顔をしていた。


「スレイの奴、どうしたんだ?」


「分かりません・・・スレイさん、ずっとあんな感じで」


 王国に帰還してから7日経ち、ベアトリスも元気になっていた。

 しかし、スレイは魔王軍との戦い以降から家に引き篭もっていた。


「なぁスレイ、生きてるか?」


 扉を叩いても返事は無く、ジョッシュとベアトリスは不思議そうにお互いに顔を合わせる。すると、その2人に応じてスレイが顔を出した。

 しかし、彼の表情は暗かった。


「おい、大丈夫か?」


「うん・・・色々考え事をしてただけ」


「考え事っても・・・お前なんか変だぞ?」


「そうかな・・・」


「家に籠るのは否定しないが、いつものお前じゃない気がして」


「家に籠るのは前の世界でも同じだったけど・・・」


「そうなのか・・・って、違う違う!

いつものお前じゃないってのは、何かこう・・・塞ぎ込んでるというか」


 そう言われたスレイは、思い当たる節があるように、表情(かお)(ひそ)めた。


 それもその筈、あの時見た魔族の少女の憎しみもそうだが、本当に邪竜復活(ふっかつ)を阻止出来たのか心に残っていた。


 レーヴァの事もあるが、不安が多過ぎて逆に無気力となってしまっていたのだった。


「何かあるなら相手になるぜ」


「いや・・・何というか、色々と考える事が多過ぎて・・・」


「考える事?」


「うん・・・それでちょっと何もする気が起きないというか」


 スレイの話を聴き、ジョッシュとベアトリスはどうすれば彼の気が晴れるか考える。しかし、彼の言う「考える事」が何なのか分からない為、2人は逆に悩んでいた。


 2人が悩んでいる事に気付いて、スレイは気にさせないように言おうとしたが、ベアトリスが先に話した。


「スレイさん!!」


 変に高揚してしまい、大声を出してしまったベアトリスは他の2人を驚かせてしまい、すぐに縮こまって謝った。


「すみません・・・」


「急に大声を出して驚いたぜ・・・ベアトリスちゃん」


「どうしたの?」


「いや、あの・・・スレイさん・・・わ、私と一緒に、旅に出ませんか?」


───その言葉を聴いてスレイとジョッシュは呆然とするが、すぐ我に返ったジョッシュがベアトリスを褒めた。


「スレイと旅?

───良いねぇ」


「あっ、すみません。ジョッシュさんも一緒にという意味も───」


「いやいや、良いんだよ。

───スレイ、お前ちゃんと彼女(あのこ)を守れよ?」


 小声でジョッシュから言われたスレイは心の準備が出来てないのか戸惑うが、ベアトリスはその反応を勘違いして表情を曇らせた。


「すみません・・・少しでもスレイさんが癒されれば良いなと思って・・・」


「いやいや、こっちの話だから気にしなくて良いよ。

───旅か、良いな。船で別の大陸に行ってみるのも有りかも」


 笑顔を見せたスレイに対し、ベアトリスは嬉しそうに微笑む。ジョッシュもその2人の光景を見て安心するように腕を組みながら頷いた。



 それから次の日───スレイとベアトリスの元にジョッシュが慌てて来た。


「どうしたんですか?」


「どう話せば良いか・・・レーヴァが"妊娠"したんだ」



 ジョッシュからその話を聴いたスレイとベアトリスも慌てて彼女がいる所へと向かった。


「レーヴァさん、大丈夫ですか!?」


「ああ、ベアトリスにスレイ君。こんにちは」


「レーヴァさん、妊娠したって本当ですか?」


「ええ、まだ身籠った訳ではないのだけど・・・ジョッシュ、貴方ね」


「えっ、違うのか!?」


「陣痛とかが始まったばかりで、すぐ身籠る訳じゃないのよ」


「なーんだ、焦っちまったぜ」


「ただ、ひとつ思ったんだけど、レーヴァが子供を産むなら、その子供の父親は?」


 スレイから父親の所在について訊かれたレーヴァとジョッシュは少し沈黙した後に話し始めた。


「実は・・・俺が父親"らしい"」


「らしいって・・・」


「いえ、実は───」


 レーヴァは戦争前夜の事を説明する。ジョッシュは寝ぼけていた為、その行為に気付かなかったそうだ。


「ごめん・・・あの時は私もどうかしていたわ・・・」


「俺の同意無しかよ・・・って思ったけど仕方ない。

ちゃんと父親としての責務を果たすよ」


「ジョッシュ・・・」



 それから何日か経った後の事、王国では魔王軍を討伐した事によりパレードが開催されていた。

 そんな祝い事がある中、一部の冒険者達はある所の襲撃をする直前だった。


「なぁ、ザンガ。本当にここであってるのか?」


モルドレッド(おやっさん)、少しは俺達の事を信じてくれ」


 彼等が目前としているは教会跡地で、モルドレッドやハンス、イシュメラやレイラの他に、ザンガやフェン、アレヌアもいた。


「イザベラ、本当に良かったのか?」


「ええ・・・ここは私達の仕事よ、彼等は殺生を見過ぎた。しかも、この話しちゃえば彼等来ちゃうし」


「まぁ、それが良いと思うよ。私もイリス様をこれ以上危険に晒す訳にはいかないし」


 冒険者達が話していると、彼等の隣にラオネが現れた。


「建物内の確認はできたよ。ボク1人で()れそうだけど、それでもキミ達とやるの?」


「ああ。お前は先に内部を混乱させてくれ。その隙に俺達は奴等を仕留めていく」


 指示を受けたラオネは再び消えて行った。


「よし、邪教をぶっ飛ばしに行きますか」



 一方でその頃、アストリア王都ではパレードが始まっていた。


 儀仗隊による行進が行なわれた後、街ではバザーが開かれており、華やかな景色が都全体に広がっていた。



 スレイとジョッシュはレーヴァと共に城内におり、ベアトリスはレーナやカルロと共にパレードを楽しんでいた。


 レーヴァにとっては騎士として最後の日である為か、彼女にとって城を訪れるのはこれで最後だった。


 スレイとジョッシュが城にいる理由は、王様から直々に招集されたからであり、その理由は彼等も判っていなかった。


 トラヴィスから王様のいる所へ案内された2人の前にはガルディン王と娘のリデア王女、そしてレーヴァが待っていた。


 ガルディン王とその娘リデアに挨拶した2人は、王から呼ばれた理由を話して貰った。


「ここに呼んだ理由は他でもない、君達に見せたいものがあってな」


「我々にですか・・・?

しかし、我々は・・・」


 スレイから訊かれた事で、王は細かく話す。スレイは唯一所在が判明している天星人として、ジョッシュは彼の父であるクレイグが友人だとして、レーヴァは首席でアカデミーを卒業し、これが騎士としての最後の務めとなる為、彼女も一緒に来るかと誘われた。


 スレイは、レーヴァがガルディン王を背後から狙うのではと警戒したが、彼女は少し悩んだ後に付いて来るよう答えた為、スレイは"もしかしたら"と思い、少しだけ彼女を信じてみる事にした。


「〔邪竜を信仰しているとはいえ、親になるなら・・・〕」



 王様に付いて行った4人は、城の地下3階まで向かう。そこは王家の者や一部の者しか入れないような階層となっており、レーヴァはおろか、王家の者であるリデアですらこの場所を知らなかった。


 地下の3階層はほぼ使われてない部屋が多く、唯一使われているのは2階にある宝物庫ぐらいだった。


 地下3階は増築ミスなのか、四方八方が煉瓦に囲まれているだけで何も無い広場が広がっているだけで、スレイは何かあった時の為の避難所(シェルター)だと考えていた。


 王様が奥の壁へと辿り着くと、煉瓦のブロックを5箇所押す。すると、その壁が後ろに下がった後、左にスライドした。


 隠し扉の奥の通路を通ると、5人は木製の床以外が金網となっている部屋に辿り着く。金網の隙間から涼しい風が肌に当たるのを感じ、ここが想像を絶する程の空洞となっているのが想像できた。


 木製のスイングドアを開き、四角形の大きな箱に入る5人。入ってきた場所以外にはガラスの無い窓があり、そこから外を確認した。


 ───そこにあったのは、この世界に不釣り合いな建造物(もの)が座礁しているかのように存在しており、それはまるで、大きな戦艦(ふね)のようにも感じられた。


 王様が今いる箱の仕掛けを作動させると、何処からともなく歯車の回る音が聴こえ、5人を乗せた箱は昇降機(エレベーター)のように彼等を降ろしていった。



 昇降機が地面まで降り、5人は徒歩で謎の建造物の方へと向かう。王が持つランタンでは灯しきれない程、広い大空洞であり、スレイとジョッシュは念の為、拳銃をいつでも引き抜ける様にしていた。


 しかし、意外と道中の安全は確保されており、何なく目的地へ辿り着く事ができた。


 5人は、予め開いていたような入り口から入っていく。彼等が入ると自動で内部が灯された。


 一面真っ白で汚れ一つ付いていない、殺風景な景色が5人の前に広がっており、王以外の4人は初めて見るものに驚愕していた。


 まるで未知の技術(オーバーテクノロジー)により生み出されたこの建造物(オブジェ)がどんな原理で、何の目的で造られたものかは分からない。唯一判明している事はこれの正体が方舟(アーク)と呼ばれる事と、この設備からアストリア王国は他2国より発展した事ぐらいだった。



 5人は展望台のような部屋に辿り着く。そこには舵や何かを操作するような設備があり、これが船橋(ブリッジ)である事は容易に分かった。


「これのおかげで我々の国は発展した。だがこの船(これ)が悪用される可能性もある。だからこそ特定の者にしか見せず、それ意外の多くには知らせなかった。

───だが、私はその誓い(ルール)を破ろうと思う」


「何故です?」


「我々が技術を独占する事により、裏での取引は増え続ける一方だ。それにより争いは生まれ、この国を狙って技術を奪おうと再び戦争が起こるかもしれない。それなら私は、この大陸内だけでも情報を共有しようと思う。そして、三国が手を取り合っていけるよう、その道を作りたい」


 王の話を聴き、技術を公開する事への危険性(リスク)を考えたスレイは、王にある事を訊いた。


「つかぬ事をお訊きしますが、この技術を公開するのは王の独断で行うのですか?」


「おいスレイ、流石にそれは───」


「自分は陛下のご決断を阻もうとは思いません。ただ、この話は国の───いや、大陸全体を揺るがせるような事です」


 スレイが真摯的に話すと、王は笑みを浮かべて返した。


「勿論、私1人の権限で決める訳にはいかんよ。国の各要人、そして国民にも考えてもらう」


 それを聴いてスレイが安心すると、ガルディン王は彼に言った。


「しかし、スレイ銃士隊員。君を見ていると、"かつて存在していた勇者"を思い出すよ」


「勇者・・・ですか?」


「ああ。"聖剣ヴァルムンク"を持ち、王国の暗部(汚れ役)を担った(かげ)達の意思(想い)を受け継いだ蒼黒の勇者───"イルス・アルフォード"をね」


「イルス・アルフォード、ですか・・・」


「私は会った事は無いがね。しかし、君は本当に───」


 王様が懐かしむように話そうとした矢先、部屋内に銃声が響き渡り、(から)の金属音が床から聴こえた。


 目の前で話していた王の胸部には穴が開いており、そこからは血が滴っていた。


 スレイが後ろを振り向くと、そこには王に銃口を向けているレーヴァで、彼女は"我に返ったように"銃を下ろして今の現状を把握しようとした。


「レーヴァ、何で───」


 誰かに操られているのか、レーヴァはスレイに発砲し、彼の脇腹に命中する。そして、今度はリデアを狙おうとするが───


 ジョッシュがリデアを庇い、レーヴァは引き金を引くのを躊躇う。そして彼女は拳銃を落として、その場から去ってしまった。


 ジョッシュは反射的にレーヴァに拳銃を構えるが、彼女へ引き金を引くのには躊躇してしまった。



 理解が追いつかず、頭が真っ白になっていたスレイは、リデアの啜り泣く声と、スレイの苦しみ悶える声でやっと我に返った。


「お父様ぁ・・・」


「リ、リデア───」


「スレイ、死ぬなよ・・・」


「ジョッシュ、それより陛下を・・・レーヴァを・・・」


 スレイはジョッシュにレーヴァを追うように言うが、ジョッシュは負傷者の方を優先した。


「馬鹿、今はアイツよりもお前と陛下の方が優先だ・・・」


「なら、俺じゃなくて陛下を頼む・・・俺は鎧甲(あれ)の効果で・・・」


 案の定、スレイの傷口からは弾丸が出てきており、完全に出てきた後、傷はみるみる塞がっていった。

 しかし、それでも痛みを伴うのか、彼は少し唸るように声を出していた。



 スレイはゆっくりと立ち上がり、王様をこの場から連れ出そうとする。しかし、王はスレイに対して首を横に振った。


「彼女を、許してやってくれ───私が撃たれるのは仕方のない事なのだから───」


「お父様・・・」


 ガルディン王は、リデアの頬に優しく触れた。


「リデア、お前を1人にしてすまない───」


 リデアの頬から王様の手が離れ、命の灯火が消えるのを感じる。

 慟哭する王女を見て、無力さを感じていたスレイは自分に憤慨する様に唇を噛み締める。噛み締めた唇からは血が流れていた。


 スレイは鎧甲を装着し、レーヴァを追おうとする。そんな中、ジョッシュが彼を呼び止めた。


「待ってくれ」


「ジョッシュ、気持ちは解るけど───」


「いや、俺には・・・すまないが、俺には出来ない。

だからもし、頼めるのなら───」


「・・・任せて欲しい」


 スレイはその場をジョッシュに任せて先を急いだ。


「死ぬなよ、スレイ」



 スレイはエレベーターで上に戻り、地下から外へと向かう。そんな矢先、スレイは銃士隊員に呼び止められた。


「おお、スレイか。どうした?」


「レーヴァを見なかったか?」


「レーヴァか、分からんな・・・」


「すまん」


「ああ、こちらこそすまんな」


 スレイは先を急ごうとしたが、何故この銃士隊員が地下にいるか訊こうと後ろを振り向いた、その瞬間だった。


 その隊員はスレイに銃剣を刺そうとしたが、その行為は鎧甲によって阻止された。


 銃剣の先端は鎧に当たって刺せず、教団の人間(レーヴァの仲間)だと分かったスレイにより銃剣を弾かれ、胸ぐらを掴まれて浮かせられた。


「レーヴァは何処だ・・・」


「もう遅い───」


 教団の信者は、ホルスターから引き抜いた拳銃をこめかみに当てて自殺した。



 スレイは急いで城から出て、レーヴァを捜す。しかし、今はパレードの途中であるせいか、いつもより人が混み合っていた。


 スレイは人混みの中を潜り、レーヴァを探す。何処から襲ってくるか、何処かで見逃してないか、スレイは人の海をかき分けながら辺りを隈なく捜していると、レーヴァらしき後ろ姿を見かけた。


 もしかしたらと思い、強引にかき分けてレーヴァらしき後ろ姿に近付くが、その女性の服装は騎士の格好では無く町娘の格好だった為、再び捜す事になってしまった。


 しかし、そんなスレイに幸運が舞い降りたのか、前の方から騒がしい声が聴こえ始め、彼はすぐさまその方向へ向かう。

そこにいたのは、陣痛で腹部を抑えているレーヴァで、隣には彼女の付き添いをしている兵士がいた。


 付き添いの兵士は、スレイを見るや否や煙幕を下に投げ、周りを混乱させる。スレイは銃を構えるが、何も見えず、鎧を装着してその場から飛び跳ねた。


 建物の屋根に上がり、煙幕から出て群衆の中を突っ切る者達を見る。そこには、レーヴァもいた。


 スレイは屋根から屋根へと渡ってレーヴァ達を追いかけるが、軍団の1人が黒い鎧甲を目撃する。そして、その1人はスレイを魔物だと叫んで注目を集めさせた。


 更なる混乱を呼び起こし、近くにいた銃士隊員がスレイに向けて銃を構えた。

 誰が信者で、誰がそうじゃない今、彼のやる事はただひとつ───レーヴァを捕まえる事だった。



 レーヴァ達一行は路地裏に逃げ、スレイも追って行く。彼女達は路地裏にある魔法陣の上に立ち、その1人が魔法を唱える。詠唱すると魔法陣が光り始め、その光に包まれた。


 それがトラベルサークルだと理解したスレイは、逃さないようにその光の中へと入った。



 スレイがレーヴァ達と共に消えた後、ベアトリスは気配を感じてその場所へと来た。


 彼女はレーナやカルロと共にパレードを見ていたが、先程の騒動において黒騎士のような魔物が目撃された情報を聞き、2人とは別行動を取った。


 銃士隊員が路地裏に入ったと話していた為、その場に来たが、もうそこにはスレイの姿などは無く、彼女は不安になっていた。


 スレイが鎧甲を装着し、何かを追いかけていたという事は、とてつもなく恐ろしい事が起こり得るのではないか───彼女は異様な程の悪寒を感じていた。


「〔お願い・・・どうか、どうか私をスレイさん(あの人)の元へ───〕」


 首に掛けていたアミュレットを握り締めながら祈っていると、彼女の祈りが通じたのかアミュレットが次第に紅く光だしていった───



 ───そんな中、スレイは荒野に倒れていた。

 目を覚まして辺りを見渡すと、そこが魔王軍との戦いの地である事に気付き、彼の目の前にはその跡があった。


「元からここが教団の本部だったのか・・・?」


 まるで、魔王軍ですらこの教団の操り人形だったのではないかと思う程、今から対峙する敵の強大さを感じ取っていた。



 スレイが歩き出そうとした瞬間、数本の矢が彼目掛けて飛んでくる。矢は簡単に防がれたものの、横からローブを着た謎の人物が斬りかかってきた。


 スレイは手甲で防ぎ、その人物は離れる。恐らく教団の信者だろうが、何かが違った。


 全身から放たれる雰囲気(オーラ)は、ガルア王国近くの森で戦った相手と同じ、暗殺者の感覚に似ていた。

 尖兵───まるでその言葉が似合う程に。


「教団・・・いや、邪竜様の復活を阻もうとする者は徹底的に排除する」


「やるしか、ないか───!」


 スレイはその尖兵と戦う。鎧甲を付けているにも関わらず、その人物の動きは目標を殺す為だけに作られた機械のように無駄なく彼を翻弄した。


 苦戦しかけるが、一瞬の隙を突いて手甲の刃で相手の首を斬り裂き、勝負は決まった。


 だが、1人の尖兵を倒したからと言ってもまだ戦いが終わった訳ではない。その1人が倒された事に応じてか、続々と他の尖兵が現れた。


 先程の人物と同じように剣を持っている者もいるが、それぞれが違う武器を使っていた。



 スレイが拳を握り締めて対峙していると、尖兵達は彼の背後に注目した。


 空から"黄金色の竜"を模した光が地面に衝突し、その光から人の影を見出した。


 尖兵達は我に返り、目の前の敵を仕留めようとするが───彼の背後から飛んできた"光の矢"により、次々と倒れていった。


 後退していく尖兵、その内の1人が威力の高いギガファイアを飛ばし、スレイを消し炭にしようとするが、それは無効となった。


 炎はスレイの目の前に張られたプロテクのバリアにより防がれ、煙が晴れた後、尖兵達は少しずつ後退りした。



 スレイが後ろを振り向くと、そこにいたのは───


「良かった、間に合いましたね」


「あ、貴女は・・・?」


「ふふっ、この姿を見せるのはスレイとしては初めてですからね。

 私は"イリステア・ファイ・リューン"───しかし今はベアトリスと名乗っています」


 ゴシック風のロングドレスに身を包んだその女性の名を聴き、スレイは驚きを示した。


 身長はベアトリスの時と違って今のスレイと同じぐらいで、彼女の幼さを残しながらも大人びた印象を抱く容姿だった。



 尖兵達も彼女の姿を凝視し、1人が言った。


「あの紅い竜の瞳───邪竜様の御息女様だ」


「あの鎧甲の者だけを仕留めますか?」


「いや、御息女様は邪竜様を殺めた───ならば、此処で討ち、贄となるのみ」



 教団が2人への徹底抗戦を固め、ベアトリスはその態勢を見て呆れた。


「そろそろ父の亡霊から解放されて欲しいものですが・・・退く気が無いのなら仕方ありませんね。

イルス───いえ、スレイ。

準備は出来てますか?」


「ああ、いつでも」


 スレイは先程倒した尖兵の剣を拾い、それを構えた。


「本当はヴァルムンクを持ってくれば良かったのですが・・・」


「君が来てくれただけでも嬉しいよ」



 そして2人の戦いが始まり、襲ってくる尖兵を何人も倒す。そして、2人は背中合わせとなり、周りの敵を見渡した。


「こうやって背中を合わせるのは何年ぶりですかね」


「前もこんな感じだったのか?」


「ええ、もちろん」


 微笑むベアトリスに対し、スレイも釣られて笑みを溢した。


「さぁ、行きましょう!」


 スレイとベアトリスは一斉に魔王城へ向けて走り出す。玉座のバルコニーへの橋渡しとなっている太い茎は未だに健在で、一直線に進む事ができるものの、教団は必死の抵抗を続けた。


 向かってくる敵はスレイが対応し、魔法や弓矢、ライフルなどで攻撃してくる敵はベアトリスが対応した。


 信者の1人が向かってくる2人に爆弾を投げつけるが、その爆弾はベアトリスが唱えたリフレクタにより投げた主に返されて爆発した。



 爆発による黒煙の中を突っ切り、2人は玉座の間へと辿り着く。そこにはレーヴァ達数名の教団員が魔法陣を囲んでおり、儀式が行われていた。


 スレイはレーヴァの名を叫び、儀式を阻もうとするが、彼女達は余裕でもあるのか、こちらを見た。


「レーヴァ、今すぐ儀式を止めろ・・・」


「やっと"さん付け"から卒業出来たのね。隣は誰かしら」


「───ベアトリスと言った方が判り易いですよね、レーヴァさん?」


「はっ、貴女が黄金色の竜(イリステア)だったとはね」


「今すぐ儀式を止めなさい、お腹の子供は貴女の"道具"じゃないわ」


 お腹の子供を道具扱いしている様な言われ方に、レーヴァは複雑そうに表情を曇らせるが、すぐに表情を戻した。


「貴女に私のやる事を口出しする権利があるの?」


「無いわ。でも、邪竜(あれ)は世界を混沌へ導くもの───世界が滅びても良いの?」


「レーヴァ、ジョッシュやレーナだってそんな事───」


「うるさい、黙れ───!!」


 レーヴァは激昂して2人を黙らせる。そして声を震わせながら話を始めた。


「───私の父は国に殺された。そして、母は魔物に、私達の目の前で・・・」


「国王は、君の事について───」


「ああ、どうせ「許してやってくれ」でしょ?でももう後戻り出来ないのよ、後戻りは・・・」


「レーヴァ・・・」


「あなた達も分かってるはずよ、この世界がどれ程理不尽で、どれ程醜いのか。邪竜様はこの世界を変えてくれる、私達にはあの方こそが"救世主"となってくれるのよ」


 救世主と言ったレーヴァに対し、スレイとベアトリスは何がここまで彼女を狂信的にさせたのかと慄いた。


「だからって・・・!」


「スレイ、周りを見てください」


 ベアトリスの言われた通り、スレイが周りを見ると、魔法陣の中央にブラックホールの様な黒い球体が現れ、レーヴァ以外の者達が粒子に分解されるように吸収されていった。


 スレイはレーヴァにこちら側へ来るよう言うが、彼女の覚悟は決まっているのか、2人の元へ来ようとしなかった。


「───ごめんね、スレイ。そしてベアトリス。でも、もう後戻りは出来ないの」


 レーヴァは微笑みながらそう話す。目からは涙が溢れており、スレイは強引にでも引き戻そうと走り出すが、もう手遅れだった。


「〔ジョッシュ、レーナ───ごめんね〕」


 黒い球体はレーヴァすらも巻き込み、儀式は完遂した。

 その近くにいたスレイは吹き飛ばされ、黒い球体は大きくなった後、急に収縮し、爆発した。



 差し伸べた手がもう届く事は無い───スレイは拳を握り締め、兜の奥で涙を流した。

 しかし、泣いている暇などは無かった。


 爆煙が晴れていく毎に見えてくる敵の存在───それは、"姿は違えど"2人にとって因縁の宿敵である事には変わらなかった。


 ブヨブヨとした薄暗く肌、飛ぶ筈の羽は朽ち、目は小さい分、蜘蛛のように多かった。


 急速に行われた儀式の産物により、醜い姿となっている邪竜は、スレイが時折見せられた映像(ヴィジョン)とは違うものの、同一の存在である事はすぐに判った。


「───貴様ラハ、何者ダ?」


「・・・再臨してその姿とは、母さんが浮かばれませんね。父さん?」


「ソノ声・・・イリス、カ?」


 邪竜からは、何処から声を出しているのか分からない低い声を出す。その声は外見に反して威厳のある声で、かつて聴き覚えのある声だった。


「父さん・・・すぐ元の場所に戻してあげる」


「貴様ノヨウナ小娘二出来ルナラナ」


 邪竜ファルヴァウスは自身の周りに小さな黒い球を何個も召喚し、そこからビームを出す。ベアトリスは先程の爆発でヒビが入ったバリアにプロテクを唱えて再び張り直すが、すぐにそれもヒビが入り始めていた。


「ベアトリス、あの時と同じ戦法を取ろう」


「ええ。でも気を付けてください、アレは不完全でも、どんな攻撃を仕掛けてくるかは判りませんから」


「分かってるさ」


 徐々にイルスとしての面影が戻ってきているスレイに対して嬉しそうにベアトリスは微笑んだ。



 スレイは浮かぶ球体の何個かを釘付けにし、ベアトリスへの集中攻撃を防いだ。


 魔王とは違って機動力は無いものの、その代わり要塞のように四方八方からの攻撃には対応できる為、別の意味で厄介だった。


 スレイが死角に入って斬りつけるが、その傷はすぐに治癒される。ベアトリスが唱えるアロウも同様の結果となってしまった。


 止む事を知らない多数の砲台はスレイとベアトリスを執拗に狙い撃ち、隙を突かれたスレイはその餌食となり玉座へと吹き飛ばされた。


 ベアトリスがスレイの名を叫び、彼の元へ行こうとするが、彼女の両足に邪竜の尾が巻き付き、その動きを止めた。


 尾はベアトリスの肉体を締め上げて拘束した後、首元に先端を巻き付けて首を絞めた。


「尾ヲ通ジテオ前ノ身体が冷タクナッテイクノヲ感ジル・・・サァ、死ヌガヨイ」


 ベアトリスが声を上げられず、意識を失いかけている中、意識を取り戻したスレイが再び近付き、尾を斬り落とした。


 尾が斬られた事により、ベアトリスは解放され、邪竜は苦しそうな声を出す。しかし、尾はすぐに再生されて今度はスレイの首に巻き付いた。


 持ち上げられるスレイ───剣を落としてしまった為、手甲の刃で斬り落とそうとするが、その時に彼は自身の身体が鎧甲に覆われてない事実を知った。


「貴様ハ先ノ鎧無シデハ何モ出来ナイ、非力(ひりき)ナ人間ダ」


 意識を失いかける寸前を見計らい、邪竜はスレイを柱へと投げ飛ばす。彼は柱に投げ飛ばされた衝撃で心臓に大きな負担が掛かり、意識が途絶えた。


「娘ガ信ジタ男ニシテハ呆気無カッタナ」


 ベアトリスは、スレイが途絶えた事を悟り、呆然と座り込んでしまった。




 ───スレイが目を覚ますと、彼は水面に倒れていた。

 しかし、冷たさは感じられず、不思議な事に服も濡れていなかった。


 空は朝、夕、夜が混ざったような景色が広がっており、奇妙ながらに綺麗な感覚を覚えた。


 神秘的な空間に対して気になっていると、聴き覚えのある声がスレイを呼ぶ。そして後ろを振り向くと───


「何だ、お前も来ていたのか」


「クレイグさん?」


 かつての恩人に会い、スレイは涙を流してしまった。


「あ、あの・・・自分は・・・」


「少し落ち着け。

・・・とにかく、会えて良かったよ」


「自分もです・・・ここは何処ですか?」


「ここはよく言われてるヴァルハラさ。ワルキューレが俺をここに連れて来てな。だが・・・お前はどうして死んだ?」


「自分は・・・邪竜と・・・」


「おいおい・・・邪竜だなんて大層な奴と戦ってる最中に死んだってのか?」


「はい・・・」


「本当にそうか?」


 クレイグが足下の水を指差して伝える。そこには邪竜の攻撃を防ぎながらスレイを抱きしめるベアトリスが映っていた。


「ここには時間の概念が無い。だがな、死ぬ直前までの記憶はちゃんとあるんだ。

 俺の見立てだとお前さんは、"現在進行"で戦っていたんだな?」


「そうです・・・」


 表情を曇らせるスレイに、クレイグは肩を叩いて言った。


「・・・まぁ、お前さん次第だ。

此処で戻らずにいるのも良し、戻って再び生きて行くのも良しだ」


(もど)れるのですか?」


「ああ。お前さんに、まだ生きる意思があるのなら───な」


「それならクレイグさんは・・・」


「ひとつ言わせてもらうが、この水面に映るのは"まだ(もど)れる"奴だけだ。俺とかは映らなかったからな」


「よくご存知ですね」


「"ヴァル"ってワルキューレが教えてくれたんだよ。ソイツ、不気味なぐらい無表情なのに、親切には教えてくれたんだよ」


「優しい方なんですね」


「まぁ、アイツはアイツで何かと抱えてそうな感じだったけどな。まるで、無くしちまった記憶でもあるみたいな───おっと、悪いな」


「いえ、お話出来て嬉しかったです」


「俺ももう少し話せると良かったんだが・・・まぁ、死後ヴァルハラに来ればまた会えるさ。ただ、だからって死ぬなよ?」


「ははっ、自分にやる事はまだまだ残ってるので、死ねませんよ」


「それはそれで良かった。そう言えばジョッシュはどうだ? あと"レーヴァ"は───」


 スレイは、レーヴァの名前を出された瞬間、表情を暗くし、クレイグは察した。


「すまんな・・・という事は何かあったんだな」


「はい・・・クレイグさんは、恨みや不満をぶつけたいと思った事や復讐したいと思った事はありますか?」


「俺もあるさ・・・特にケネルの時はな。

レーヴァは恐らく、とんでもない事をしでかしたんだろう」


「それについて、どう思いますか?」


「俺から言わせてもらうと、レーヴァ《アイツ》のやった事は擁護できるものじゃない・・・かといって、否定できるものではないだろう。

 だがそれでも、この世にはやってはいけない事だってある・・・俺がやった事もそうだ。

 しかもそれが特に、最悪の方向に進んじまって誰にも抑えられなくなる時が一番危険なんだ。

 そうなる前に俺が止めるべきだったのさ」


「クレイグさん・・・」


「おっと、時間の概念が無いのを良い事に長話をしちまったな。じゃあ、また水面の上に仰向けになれ」


 スレイは素直にその通りにする。彼はクレイグがこの後どうするか気になって質問した。


「これから、クレイグさんはどうするんですか?」


「俺は・・・先に逝った女房を捜すさ。

ああ、そうだ」


「どうしましたか?」


「スレイ、これだけは覚えておいてくれ。如何なる正義でも、それで誰かは何かは傷付く。だからこそ、その罪は忘れず背負っていくものだと───」


 その言葉を最後に、スレイはみずのなかに引き込まれた。


「行っちまったか───スレイ、ジョッシュ、死に急ぐなよ」




 現世ではベアトリスが邪竜と戦っているが、彼女は不利な状況に陥っており、邪竜に手出しする事が出来なかった。


 スレイはベアトリスの背後で倒れているが、一向に動く気配は無く、彼女の心は追い詰められていた。


「ドウシタ、ソノ程度カ?」


 邪竜のブレスが勢いを徐々に増してプロテクの結界を破ろうとしている、その時だった。


「コレデ終ワリダ」


「まだ・・・まだ終わりじゃ───」


「───まだ終わりじゃないさ」


 急にスレイの声が聴こえ、邪竜の背中に"先程とは違う剣"が突き刺さる。ベアトリスが結界を緩めず背後を見ると、そこにはスレイの姿は無く、彼は邪竜の背から刺した剣を引き抜いた。


 痛みに悶えながらスレイを再び尾で捕えようとするが、尾は再び斬られる。だが、先程とは違って再生しなかった。


「小癪ナ真似ヲ・・・!」


 球を再び召喚して攻撃するが、スレイは全て見切った様に剣の表面で防ぎ、それぞれ元の砲台へと返し、全て破壊した。


 スレイは両者の前に立つ。彼の後ろ姿を見たベアトリスは安堵して泣きそうになっており、邪竜は先程の苛立ちから落ち着いて、彼の事を凝視し、理解した。


「ホゥ? コレハ・・・」


 先程のスレイとは違い、鎧甲は装着していない・・・それどころか、蒼い霊気(オーラ)を放っており、手には今まで無かった筈の"ヴァルムンク"が握られていた。


「"邪竜ファルヴァウス"───貴様の完全再臨、ここで阻止する」


 その言葉でファルヴァウスは全てを理解し、笑った。


「ソウダ・・・ソレデコソ我が怨敵二相応シイ!!」


 そう───ベアトリスとファルヴァウスの目に映っている者は、天星人ではあるものの、紛れも無く蒼黒の勇者、"イルス・アルフォード"だった。



 邪竜が口を開き、下顎が二方向に割れる。そして口内が紫色に発光したと同時にスレイはファルヴァウスの右前脚を斬り付けて体勢を崩し、放たれた光線は天井を砕いた。


 その後、体勢を立て直そうとするファルヴァウスの頭上からスレイが急降下してきた。


 再び球を召喚して対空しようとするが、それはもう手遅れであり、勝負は一瞬の内に決まった。


 ベアトリスが唱えたアロウの矢により球の照準はズレてしまい、スレイがファルヴァウスの元へ辿り着くきっかけを作ってしまった。



 ファルヴァウスの頭上振り下ろされた一閃は、邪竜の頭を割り、紫色の血を噴き出した。


 頭が縦二つに割られ、ファルヴァウスは完全に動きを止めた。


「───やったか?」


「・・・ヴァルムンクは、私達竜種にとって致命傷となる代物、頭を割られたのなら父さんだって───」


 ベアトリスの話に反し、ファルヴァウスはまた動こうとしていた。


 生ける屍のように動こうとするその姿に、2人は悍ましさを感じる。そんな中、ベアトリスはファルヴァウスの割れ目から赤黒く光る球体を見つけた。


「スレイ、見てください」


「あれは・・・?」


「恐らく(コア)です。身体が死のうとも動きを続けられる理由(わけ)はその為でしょう」


「分かった、それなら───」


 スレイは再び剣を握って向かうが、ファルヴァウスが衝撃波を発してその場から動けずにいた。


「くっ、どうすれば・・・」


 そう思ったものの、スレイはホルスターに収めていた拳銃の存在を思い出し、彼は拳銃をホルスターから抜き、コッキングピースを引いて中を覗く。残弾はあるものの、チャンスは一回だけ───もし外したら再び復活してしまう可能性もあった。



 スレイは拳銃の照準器(サイト)を覗いて核を狙う。しかし、負担(プレッシャー)の大きさから両手で構えていても震えが止まらなかった。


「〔クソっ・・・頼むから狙いを───〕」


 邪竜の肉体が徐々に再生していき、核は隠れていく───照準が定まらず苦戦しているスレイに、ベアトリスが手を添えた。


「私がついてますから───貴方は自分を信じて下さい」


 そう言われたスレイは彼女と顔を合わせた後に、自信を持って頷き、再び核へ照準を定めると、引き金を引いた。



 一発の銃弾が放たれ、薬莢が(そら)へと飛んでいく。

再生していく邪竜の薄い皮膚を貫き、核に到達した。


 邪竜は再び元の状態へと戻るが、身体を震わせる。まるで全身の神経に狂いでも生じているのか、痙攣していた。


 次第に邪竜の皮膚が所々膨張し始め、まるで風船の様に膨れ上がったその巨軀(からだ)は破裂した。



「スレ───

レイ───

───スレイ!!」


 スレイが目を覚ますと、ベアトリスが近くにおり、どうやら彼女の膝を枕にしていた。


「良かった・・・本当に・・・」


 ベアトリスは安堵の涙を流し、スレイの頬を伝った。


「俺も同じだよ・・・邪竜は?」


「死にました」


 スレイが体勢を変えて腰を上げると、邪竜ファルヴァウスだったものがそこら辺に散らばっており、復活する気配も無かった。


「終わったのか・・・」


「ええ、これはこれで───」


 ベアトリスは座り込んでいるスレイと同じ姿勢になり、彼の首の後ろに両手を回し、キスしようとする。本来は恥ずかしがる筈のスレイも無意識の内に彼女の唇へキスしようとした瞬間───


「───あっ」


 2人の唇が触れる前に声が聴こえ、彼等はその方向を見る。するとそこには───


「おっ、邪魔したな」


「あっ、続けて・・・あはは」


 その方向に居たのはイシュメラやモルドレッド、ハンスの他にレイラや途中で合流したカルラもいた。


 人に見られていた事で我に返った2人は、キスを完全に止めて顔を赤くした。


「キスはお預けですね・・・」


「あ、うん・・・」




 その後、王国に戻ったスレイとベアトリスはレーヴァの死をジョッシュ達に伝えたが、妹のレーナには上手く伝えることが出来なかった。


 邪竜教団に関わり、国王ガルディンを暗殺したことは、女王となったリデアが父の遺言に従って公にしない事にした。


 そしてもう一つの遺言に従い、リデアは”争いの無い世界”を作っていく為に、クーデリア公国のアデル大公やガルア王国、そして大陸の各地に住む者達や亜人種族たちと手を取り合い、考えていく事を誓った。


 教団との戦い以来、ベアトリスは元に戻ったと同時にイリスとしての能力を失った様で、今は普通の神官としてスレイ達と共にいる。スレイも同様に鎧を身に纏う事は出来なくなってしまったが、「鎧はもう必要無い」と思っていた。



 それから数日が経ち───スレイとベアトリスは他の大陸へ旅行しようとした。


 ベアトリスと2人きりでいる時間を過ごしたい───ジョッシュやヴィルトにはからかわれたが、応援もされた。


「そろそろ出港かな?」


 待合室にいたスレイがベアトリスに声を掛け、船に乗ろうと歩き出した。


 船に乗ろうとした矢先、謎の人物とすれ違い様にぶつかってしまった。


「あっ、すみません」


「ああ・・・こちらこそすまない」


 その人物は茶色いローブを着ており、素顔はフードで見えなかった。

 ただ、彼の腕らしき部分に左脚が当たった時、"何か機械を付けているような"硬い感触を覚えた。



 旅客船に乗り込み、スレイとベアトリスはまだ見ぬ風景を心待ちにする。これからがこの2人の始まりとして───


 スレイが客室で眠っていると、扉を何度も叩く音が聴こえて目を覚ます。誰だろうと思って扉の小窓を覗くとそこにいたのはベアトリスで、彼女は焦燥しきった表情(かお)をしていた。


 扉を開き、ベアトリスを中に入れる。すると、彼女は無理矢理にでも自分を落ち着かせて話を始めた。


「"海賊"が・・・海賊がこの船を襲っています!!」


 その言葉にスレイは驚き、彼は部屋で待つよう話す。ベアトリスは付いて行こうとするが、彼に何度も止められてやむを得ず待つ事になった。



 スレイは船の中を歩く。至る所死体だらけであり、男や女とごろか、老人や子供すら殺されていた。


 血の海だと言わんばかりの光景───死体には銃で撃たれた跡があり、例外として"ナイフで残忍に切り刻まれた"者や、"人間離れした力"で頭を握りつぶされたような者もいた。


 あまりにも悍ましい惨状にスレイはその場で吐く。そんな中、連射しているような銃声(おと)と女性の悲鳴を聴いた。



 その声に反応したスレイがそこへ向かうと、そこに居たのは軍服を着た何者かが、殺戮を繰り返している光景だった。


 どう見てもオルテナ大陸の者では無く、海賊と呼ぶにしても圧倒的な武装で制圧するその様は邪竜教団の尖兵と同じ位に戦慄を覚えた。


「こちらは制圧完了」


「何故我々がこんな事を───」


「"皇帝(へいか)直属"の命令だ。不平不満(そんな事)言ってると、お前も何されるか分からんぞ?」



 スレイは兵士達の声を聞きながら小舟を探す。何人いるのかは分からないが、今の自分ではどうしようも出来ないと悟ったからだ。



 渡り廊下へ辿り着くと、そこには武器を手に取った船乗りと、軍服を着た少年が戦っており、少年は両手に持ったナイフで次々と相手の首を掻っ切った。


「た、助けてくれ・・・」


 血を吐く船乗りに対し、少年は彼を足で押し倒した後に言った。


「助けてくれってさ・・・この世は弱肉強食なんだよ?

 ボクそういう甘えた人嫌いなんだよね、弱者に生きる価値無し」


 そう言って少年は倒れている船乗りの左目を突き刺す。当然、痛みに船乗りは大声を上げるが、少年は笑っていた。


 スレイはあまりにも残忍な行為に対し、ただ傍観している事しか出来ず、己の無力さを呪いながらも先に進んだ。




 一直線の渡り廊下を進もうとするスレイは、そこに倒れていた冒険者の一行を見る。彼等は旅客船が襲われた時の為の主戦力だったのだろうが、他の被害者とは違って、"仲間同士で傷付け合った"形跡があった。



 スレイは1人の冒険者の頭に刺さった手斧を手に取り、恐る恐る前に進む───しかし、渡り廊下から一向に出られる気配が無く、次第にこの場所に違和感を覚えた。


 まるでスタートとゴールを行ったり来たりしている様な感覚───それは徐々に不安や恐怖としてスレイの心を蝕んでいった。


 いつ出られるのか判らない恐怖に発狂しかけるが、スレイは必死に正気を保とうとしていた。




 やっとの思いで渡り廊下から脱出し、甲板へと出るが───そこも完全に制圧されており、兵士達がボートを捨てていた。


 あまりに絶望感を抱いたスレイに気付いた1人の兵士が彼を見た。


「おい、生存者だ───待て!」


 兵士達は逃げるスレイに銃撃する。運良く命中せずには済んだ彼は、ベアトリスを置いてきてしまった自室へと急いだ。



 兵士達の攻撃を掻い潜り、自室へ戻る。そしてベアトリスを連れて別の場所へ向かおうとしていた。


 逃げる場所が無いというのに、逃げ惑う事しか出来ないスレイは段々と自分に苛立ちを覚え始めていた。


 時間が経っていく毎に兵士達は姿を消していく。それと同時に船の至る所から爆発音が聴こえ、海へと沈むまでの制限時間(タイムリミット)はもう迫りつつあった。



 逃げている中、ベアトリスは何かの気配に気付いてスレイを押し飛ばす。そして、彼女は向かってきた光線に対応した。


「ベアトリス・・・!」


 今の彼女は杖を持っておらず、アミュレットも置いてきている。黄金色の竜(イリス)としての力は残っておらず、プロテクはいつもより弱体化していた。


 割れそうになる結界、ベアトリスはスレイを見る。彼女は笑みを浮かべているが、これが最期と知らせるように涙を流す。そんな彼女を救おうとスレイは左手を差し伸べるが───それと同時に結界は割れた。



 ベアトリスは光線の餌食となり、その光の中に消える。そして、スレイの左手も肘の辺りまでがその光に包まれて消えた───



 沈没していく船、まだ見ぬ大地を夢見た者達を乗せた客船は瞬く間に崩れ去り、水面にはその残骸だけがまばら浮かんでいた。


 その中に、残骸に掴まった状態で辛うじて生き延びた者がいた。


 スレイ・アルフォード───この惨劇において唯一の生存者となるが、それが彼を追い詰める事になるのを、彼等はまだ知らなかった。



 残骸と繋ぎ止めている右腕には、焦げ付いた白い布切れが落ちていた。

 これが最終回ですが、毎章お馴染みエピローグがあるので席は立たずにお願いします。

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