第2章:邪竜と黄金色の竜 第17話:結束する意思
前回までのThe Outsider
スレイはジョッシュと共にレーヴァを救出する。そして、本部に戻ると、終戦の知らせを受ける。
戦争が終わったという話を聞いたものの、3人は純粋に喜ぶ事ができずにいた。
それもその筈、近くで苦楽を共にした戦友が消えていく中、急に戦争が終結するというのも虫の良い話だった。
「どうして・・・?」
「ああ、俺も驚いたんだが・・・どうやら"魔王軍が宣戦布告"したようだ」
「魔王軍が!?」
「スレイ、知ってるのか?」
「一応だけど・・・しかもベアトリスをあいつらに・・・」
「おいおい嘘だろ・・・よりによってなんでベアトリスを狙ったんだ?」
「それは・・・」
「話を変える様ですまないが、クレイグを見かけなかったか?」
その言葉を聞いた3人は凍りついた様に動きを止める。そしてバートンは彼等の反応を見てクレイグの死を察した。
「・・・そうか、あいつも旅立ってしまったのだな・・・」
クレイグと親交が長かったバートンにとっても彼の死は衝撃的だった。
本部は撤収され、戦士達はそれぞれの故郷に戻っていく。戦場で散ってしまった魂は戦乙女によってヴァルハラへと導かれたが、遺体はそのままの為、後日回収隊が両国で編成されるとの事だった。
ヴァートレスの村に着くと、レーヴァは走ってきたレーナに抱きつかれる。姉妹の再会をジョッシュやカルヴァンと共に見届けたスレイは、遠くに見覚えのある人影を追って林の中まで入っていった。
林にいたのはハンスとイシュメラ、それにモルドレッドやカルラの4人だった。
「どうしてここが?」
「王国の本部に辿り着いた時、シグナルを貴方に唱えていたからね。1日ぐらいなら保つからそれ以内に会えて良かったわ」
「自分も会えて嬉しいです」
そこから4人は自分達の動向をスレイに話す。イシュメラとモルドレッドは公国へ向かい王妃と対面したようで、ハンスとカルラは冒険者ギルドにてザンガ達と協力して魔王軍の拠点について情報収集をしていた。
「・・・という感じよ、私達の方は」
「ありがとうございます」
「いえ、私は感謝される人間では無いわ・・・もう少し早く王妃様とアデルに会って、魔王軍についての話をしていれば・・・」
「おいおい、話した所でどうにかなる話じゃないだろ」
「それは、そうだけど・・・」
「まぁ、お前は休め。戦争だって終わったばかりだろ?」
モルドレッドからそう言われ、スレイは悩むが、魔王軍との戦いが控えている事を考えて休む事にした。
それから数日後───スレイはジョッシュやヴィルトと共に戦地で散っていった者達の葬儀に出ていた。
途中でリデア王女やアイネとも会い、彼女達とも言葉を交わす。魔王軍の討伐は王家どころか冒険者ギルドの耳にも届いており、スレイ達は心配された。
散っていった者達への弔いが終わって3日経った後───魔王軍の所在が判明し、王国ではトラヴィス主導の下、討伐隊を編成する事になった。
公国とも連携を取り、討伐隊を編成していく予定だったが・・・両国共に同盟を拒否する声が多く、その話はガルア王国で行われた。
公国側ではギルバートがアストリア王国との文通で、討伐隊の人員を募集し、彼はその者達を引き連れてきた。
公国側からは騎士に戻ったガレストルや捕虜から解放されたシレーナ、そして竜騎士隊や冒険者の面々が参加してくれたが、アストリア側と合わせてもまだ人手が足りなかった。
ガルア王国も協力してくれるようだが、魔王軍の戦力は未だに判らず、より多くの人員が必要ではないかと懸念されていた。
ガルア王国での話し合いが終わり、スレイがジョッシュ達と話しながら建物から出て行くと、彼の耳に少女の声が聞こえた。
「エレミラ様の所まで来て」
スレイはその言葉を聞いて立ち止まり、辺りを慌しく見渡す。しかし、声に該当するような人物はどこにもおらず、ジョッシュからも心配されたが、スレイは再び声を聞いた。
「もぅ、鈍感なニンゲンね。わたしはここよ?」
スレイが再び前を見ると、そこには飛んでいる小さな少女がいた。
手のひら程の身長に、虫のような翅を持った者・・・少女が妖精である事にスレイは気付くが、彼女が間近くにいたせいか、彼は驚いて尻もちをついてしまった。
「どうした!?」
ジョッシュは何かに驚いたスレイに対して訊く。スレイの前にいる妖精はその光景にクスクスと笑っていた。
精霊の森で妖精を見ているのにも関わらず驚いてしまったのは、彼女が唐突に現れた事だった。
「目の前に妖精が・・・」
「妖精・・・? そんなの居ないけどな」
「えっ?」
スレイの目の前では未だに妖精がクスクスと笑っているものの、ジョッシュには見えていないようだった。
幻覚や幻聴だろうかと思えそうで思えなかったスレイは腹が立ってその妖精を捕まえようとするが、動きが速くて捕まえる事は出来なかった。
スレイの異様な行動にジョッシュ含めた周りの人達は彼を心配するが、妖精はとうとうお腹を抱えて宙で笑っていた。
弄ばれて更に腹が立っているスレイだが、妖精は誰かに捕まれた。
「えっ、何で!?」
妖精を捕まえたのはハンスで、他の人からは彼が空を掴んでいるようにしか見えなかったが、捕まっている妖精は諦めて姿を現した。
ハンスが妖精の存在に気付いた事に驚くスレイだったが、彼はいつも通りの態度だった。
「おい、お前は何だ?」
「いいから私を離してよ! 用があるのはアナタじゃなくて、そっちのヒトよ!」
身体の身動きが取れない妖精はスレイに向かって顎をしゃくった。
「ハンス、離してあげましょ」
イシュメラからそう言われ、ハンスは舌打ちしながらも妖精を解放した。
「エレミラ様がアナタを呼んでる。だからすぐにでも来てね」
妖精はそう告げて何処かに飛び去っていこうとするが、スレイはもうエレミラ達が暮らしている場所を憶えていなかった。
「待ってくれ!」
「な、何・・・?」
「エレミラ王女が住んでいる場所を忘れたから、案内・・・してもらえないか?」
それを聞いて妖精は笑うが、彼女は案内する事を承認した。
スレイはイシュメラと共に箒へ乗り、妖精の案内により精霊の森に辿り着いた。
精霊の森の入り口前は生い茂った草木で隠れているが、その妖精がその奥へと入った後、草木は客人を通す様に避けた。
精霊の森に入ってすぐの所にエレミラがスレイとイシュメラを歓迎する。人間が来た事に警戒する亜人種もいることから、スレイは来て早々居心地の悪さを感じていた。
エレミラの家に入ったスレイとイシュメラは、彼女から呼ばれた理由を訊いた。
どうやら魔王軍との戦争は森にも伝わっており、エレミラは協力を申し出る。理由は彼女の両親と魔王軍には因縁があるようで、先の戦争が絡んで満足な人員を確保できなかった討伐隊にとっては絶好の条件だった。
しかし、相手は王族───向こうの事情は分からないが、もしこの戦いで死傷した場合、大問題に発展する可能性があった。
そもそも戦いに参加する時点で怪しいところはあるが・・・スレイは悩んでいた。
「失礼ながらエレミラ王女、それはこの森にいる方達も同じ答えですか?」
イシュメラがそう訊き、エレミラは違うと示す様に表情を曇らせた。
「上に立つ者なら───」
「せめて、私だけでも良いのです。だから、協力させて頂けませんか?」
その言葉にスレイとイシュメラは疑問を浮かべる様にお互い顔を合わせた。
王女が好戦的な性格とは思えず、イシュメラはその理由を深く掘り下げるべきだと思ったが、その時、誰かが窓からこちらの様子を見ていた。
ふとエレミラが窓の方に目を当てると、そこにはエルフやドワーフ、リザーディアンなどの子供がいた。
「今日はお話があるから、遊ぶのはまた今度───」
「だってエレミラさま、今日は遊んでくれるってはなしだったじゃん」
「そうそう!」
子供達にそう言われ、エレミラは思い出す様に自分が失敗した事を悟った。
「折角応じて下さったのに申し訳ありません・・・ちょっと子供達と遊んできますね・・・」
「───私が子供達の相手をしましょうか?」
エレミラを助ける様にイシュメラがそう言った。
「いえいえ、そんな・・・折角招いたのにこれではまるで・・・」
「良いんですよ。スレイ、あとは頼むね」
そう言ってイシュメラは亜人種の子供達と遊ぶ事にする。最初は子供達も見ず知らずの人は嫌だと駄々をこねていたが、魔法を応用した手品でイシュメラは何とか子供達の信頼を勝ち取る事が出来た。
「イシュメラ様は子供の扱いに慣れていますね」
「旅でも面倒見が良い人だったので」
そんな話をしながらも、2人はすぐ話を再開する。スレイはこれまでの経緯を話し、ベアトリスがイリステアと呼ばれる黄金色の竜だという情報も伝えた。
情報を聴いたエレミラは棚からある本を取り出す。その本は他の本より少し大きい絵本で、表紙には『邪竜と黄金色の竜』と言う題名が書かれていた。
内容は500年前のエヴォルドを描いたもので、今のオルテナ大陸では見た事の無い翔空艇などがあった。
内容は世界征服に成功した帝国から世界を取り戻すべく、勇者達が一致団結するもので、この勇者達の中にはエレミラの両親もいるようだ。
その中で目に付いた人物が1人───その勇者は"蒼黒の勇者"と呼ばれており、その格好はスレイが夢や時折見る走馬灯での姿と同じだった。
見覚えがあるスレイがその勇者を見ていると、急に視界が眩く点滅し、彼は床に尻餅をついてしまった。
「大丈夫ですか!?」
エレミラがスレイの異変に驚いて心配するが、彼は大丈夫ですと息を乱しながら言った。
大量のフラッシュを焚かれたような点滅の中、スレイの脳裏には蒼黒の勇者の姿が鮮明に思い出される。
───黒い帽子に黒い軍服、それを身に纏っている人物の顔は、スレイと酷似していた。
まるで何かが記憶の中で呼び起こされるような感覚に、スレイはエレミラにこの勇者の名前を訊いた。
「エレミラ王女、この勇者の名前は何といいますか?」
「この方は、"イルス・アルフォード"という方です───」
その言葉を聴き、スレイの頭の中では、一種のパズルが組み上げられた。
自身がエヴォルドに呼ばれた理由、ベアトリスがそうまでして転生させたかった理由、この世界に来てから何らかの記憶を呼び起こすような現象───彼の中で、全てを理解した。
しかし、それでも事実を認められなかったスレイは呼吸を乱し始める。彼の様子が心配でエレミラは声を掛け、やっとスレイは我に返った。
「スレイ様・・・本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫です・・・ちょっと、気分が悪くなったもので・・・」
「それならエイドを───」
「本当に大丈夫ですので・・・エレミラさん、失礼しました」
スレイは余裕が無さそうにエレミラの元を立ち去り、イシュメラに帰ると言う。その言葉を聞いて子供達は駄々をこね始めるが、エレミラが子供達に読み聞かせをするという事で、イシュメラは解放された。
その後、スレイとイシュメラは、レイラの所に向かう。2人は彼女に驚かれるが、事情を話すとスムーズに本題へと入れた。
「イリス様が魔王軍に・・・」
「すみません・・・」
「いいえ、自分を責めないで。スレイ君は悪くないんだから」
レイラはそう言った後、一呼吸置いて話を再開した。
「・・・私も協力するわ。イリス様を器にして邪竜召喚する可能性も無くは無いから」
「ありがとうございます」
レイラも味方になってくれたが、それでもまだ戦力に不安はあった。
そして、決戦当日───スレイ達は魔王城があるとされる場所に到着した。
そこは黒く荒廃しており、中央には城が建っていた。
向かう途中まで青かった空は、この場所に向かうにつれ雲行きが怪しくなり、到着した途端、完全に灰色の空へと変わった。
「あれが・・・魔王軍の拠点」
スレイは拳を握り締め、ベアトリスが囚われているとされる魔王城を見つめた。
その頃、城内にて───薄暗い部屋の中、ベアトリスは木製の手枷で拘束され、鳥籠のような檻の中にいた。
囚われてからどれぐらい経ったのだろうか───そんなベアトリスの元へ、ある者が訪れた。
部屋の扉が開き、黒いローブを着た背丈の大きい者が檻に近付いて来た。
ベアトリスは虚ろな目でその者を睨む。フードの奥からは骸骨の顔が見えており、アンデッド種である事は容易に判った。
「───そいつを檻から出せ」
「しかし、魔王様・・・檻から出せばこの者は───」
「構わん、竜としての力を解放できるものならな」
恐る恐る檻から出されたベアトリスは虚ろな目で自分よりも遥かに大きい魔王を見るが、魔王は彼女の首を掴んで自分と同じ目線にした。
「どうだ? これで"対等に"話し合えるだろ?」
魔王は嘲笑するようにそう言うと、ベアトリスは睨みながら言葉を吐いた。
「竜になれたら、お前の首を噛み千切ってやる・・・まぁ、噛み千切れる肉が無いようだけど」
「ほぉ? 随分と威勢の良い小娘だな。スケアクロウの情報とは違うようだが」
「諦めなさい、貴方達が何を企んでいるかは分からないけど・・・邪竜復活が目的ね」
「察しは良いようだな。流石は邪竜ファルヴァウスの娘」
「貴方達に勝ち目は無い。此処で貴方達の計画は終わるわ」
ベアトリスから言われた言葉に、魔王はおろか、同行している者達も笑った。
「私がデタラメを言ってる様に感じるのだろうけど、笑ってられるのも今のうちだわ」
「ほぅ、誰が我を倒すというのだ?」
「英雄イルス・・・邪竜を崇拝する貴方達なら知ってるでしょ?」
「英雄イルス・・・? "誰"だそれは ?」
イルスの名前を聞いた魔王は笑うのをやめ、ベアトリスやその場にいた者達は唖然とした。
「・・・まさか、魔王たる者が脅威となる者達の事を知らないと? お笑い様ね」
「貴様・・・我を侮辱したな?」
ベアトリスが煽った事により、魔王は赤い眼を光らせて睨み付ける。しかし、彼女も竜の紅い瞳で睨み返した。
睨み合いが起きている中、1体のオーク兵が部屋に入って来た。
「失礼します! こちらへと向かって来る軍勢を発見しました!!」
「・・・来たか」
魔王はベアトリスから討伐隊の方へ興味を移し、彼女を乱暴に檻の中へと投げた。
「今すぐ迎撃の準備をしろ。人間共を根絶やしにしてくれる」
魔王は他の者を引き連れて部屋から出て行き、檻は再び閉ざされた。
薄暗い部屋の中、ベアトリスはスレイ達が魔王軍を壊滅させてくれる事を信じながら、意識を失った。
一方で、スレイ達討伐隊は城へと向かっていた。しかし、高台から周囲を警戒していたオーク兵に見られた事により、戦いの火蓋は予定よりも早く切って落とされた。
城へと直行する本隊とは別に、竜騎士隊と天馬騎士団から成る別働隊が空から城に向けて爆弾を投げると、爆発により、城の至る所が崩れていった。
魔王軍が空からの奇襲に気を取られている間、本隊は城へ向けて駆けていく。先行する歩兵や騎馬隊などの前衛を銃士隊や弓兵隊が援護する。魔導隊は援護と共に補助魔法で先陣を切る者達の生存率が高まる様にした。
重装隊が盾を構え、その隙間からスレイ達はライフルや弓矢で魔物を撃つ。混戦の中、誤射しないよう的確に狙いを定めて引き金を引き、弓を引いた。
正門を突破しようとした矢先、玉座があるとされるバルコニーから魔王が現れる。彼は杖を天に上げると、混戦状態となっている正門前で複数の小さな爆発が起きた。
まるで地中に埋まっていた地雷が連鎖的に爆発するように、その魔法は敵味方問わず巻き込んだ。
その光景に唖然とする後衛部隊だが、魔王はそちらも見逃さず、魔法により陣形を崩した。
討伐隊は一気に壊滅状態となり、空から攻撃を仕掛けていた部隊も撤退を余儀なくされる。しかし、魔王は慈悲深くは無かった。
スレイは魔法による攻撃により、意識が朦朧としていた。
立ち上がろうにも意識がおぼつかず、ジョッシュやヴィルトを探そうにも砂煙が酷くて周りが見えなかった。
窮地に立たされても以前の様に鎧は装着されず、ただただ身体の痛みに耐えるしかなかった。
「───っ」
正門前の光景を見下している魔王が、配下へ後始末するよう指示しようとしたその瞬間───彼等は足下で死にかけている者達より、遠くの方を見た。
攻撃を中止し始めた魔王軍に対し、討伐隊の面々も立ち上がって後ろを見ると、そこにいたのは───
「アストリアの勇士達よ!! 我等が敵を討ち、大陸に平和を取り戻すぞ!!」
「全軍、王国に遅れを取るな!!」
「ガルアと大陸の為に!!」
「私達も行きましょう」
大陸中から集まった者達が、国や種族関係無く魔王の打倒を志しており、窮地に陥っていた討伐隊の面々は再び立ち上がった。
イシュメラはクーデリア公国を率いる人物を見て、「遅いじゃない」と笑みを浮かべた。
魔王は何人来ようが同じだと再び攻撃態勢に入るが、エレミラは持っていた小さなハープを弾く。すると、地面から何本もの蔦が魔王城めがけて伸び始め、それが束となって太い茎のようになった。
そして、その茎は魔王のいるバルコニーの下を砕き、橋のようになった。
橋ができる一連の光景に驚きを隠せない者もいたが、それと同時に士気が高まり、スレイ達は蔦の束を橋に魔王城へと侵入していく。襲い掛かってくる魔物に阻まれながらも、スレイは魔王へ一直線に走り続けた。
「〔ベアトリスを救う───絶対に!!〕」
走り続けている内に、足から肩までの身体に鎧甲が纏い、兜が装着された。
誰かの血を啜った訳でも、激しい怒りや憎しみから装着された訳では無い───
ただ───大切な人を救う為に。
その意思が鎧甲を装着させた。
「───なぁ、天星人ってのは、あんな力持っているのか?」
鎧甲が装着される光景を見ていたヴィルトは隣にいたジョッシュに対してそう言うが、ジョッシュは理解が追いつかなくて唖然していた。
「おい、ジョッシュ」
ヴィルトがジョッシュの顔の前で指を鳴らして、ようやく彼は我に返って反応した。
「お、おう」
「・・・まさかあれ見てまた化け物扱いするんじゃないよな?」
「馬鹿! そんな事もうしねぇよ!!
それより、俺達でアイツを援護しないとな」
スレイは魔王に向かって高く飛び上がり、剣を振り下ろすが───
「ほぅ───その鎧甲、只者では無い様だな。だが───」
頑丈なプロテクにより一閃を防がれた後、スレイはウィンドにより吹き飛ばされてしまい、そのまま魔王城の庭へと落ちていった。
庭では連合軍と魔物達が戦っており、スレイが落ちてきた瞬間、魔物達は彼を囲んで集団で攻撃した。
マントを踏まれているのもあるが、落ちた直後という事で大きな隙を生んでしまい、スレイは動きを封じられてしまうが、発砲音と共に魔物は倒れていった。
魔物と共にスレイが射線の方向を見ると、そこにはジョッシュやヴィルトがおり、ヴィルトは二本指で敬礼を飛ばした。
スレイは魔物の隙を突いてマントを引き、襲ってくる者を手甲の刃で斬りつけて窮地を脱した。
スレイは再び2人の方を向いて軽く縦に頷き、その場を後にする。そして窓の1箇所からガラスを突き破って城内へと入って行った。
何故か城内に懐かしさを覚えながらも、向かってくる魔物を剣で斬り伏せていった。
しかし、敵を倒すのにもキリが無く、スレイは無視して先を急ぐ事にした。
そして敵の攻撃を振り切り、一瞬の安息を得た時───メイド服を着た魔族の子女達と出会してしまった。
非戦闘員だと思い、スレイが無視して先を急ごうとした瞬間───背中に熱い何かが強く当たり、その反動で前へと倒れ込んだ。
体勢を立て直し、振り向くとそこには魔族のメイド達がロッドや魔導書を持っていた。
「魔王様に楯突くなら、ここで死になさい!」
メイド達の攻撃を避けるが、一瞬の隙を見せるとすぐに追い込まれてしまう為、スレイはやむを得ず無力化する事にした。
剣を床に突き刺し、近くのカーテンからロープを引っ張ってそれを武器にした。
丸みを帯びたロープの先端を相手の手や額にぶつけて何人か無力化した後、残りのメイドを一周して縛り上げた。
ベアトリスを捜す為に、スレイは再び走り出した。
───その後ろ姿に、1人の少女は怨恨を抱いていた。
城内を探索していく中、離れた所に一人のメイドが横切っていくのを目撃する。スレイはすかさず後を追うと、そこには2体のオーク兵が倒れていた。
そこにはメイドの姿は無く、オーク兵も死んでいる。死因は外部からの傷ではなく、"内部からの傷"が原因のようだ。
スレイは鎧を解除した後、奇怪な死に方をしているオーク兵から鍵を取り、扉を開く。そこは薄暗い殺風景な大部屋で、中央には鳥籠のような檻があった。
そこに囚われているのはベアトリスで、彼女の衣服は汚れこそあるものの、やつれているようには感じられなかった。
「───スレイ、さん?」
檻を開いたスレイが駆け寄ると、ベアトリスはゆっくりと目を覚ました。
「遅れてごめん」
やっと再会出来て、感情のあまりスレイはベアトリスを抱き締める。彼の急な行為に彼女は困惑してしまい、スレイはすぐにやめた。
「あ・・・ごめん」
「いえ・・・私も突然抱き締められると、どんな反応をすればいいのか分からなくて」
「だよね・・・とにかくここから君を脱出させる。
さぁ、来て」
スレイはベアトリスの手枷を外し、彼女と手を繋いで城から脱出しようとした。
「待ってください、スレイはどうする気ですか?」
「俺は・・・魔王を倒しに行く」
「・・・それなら、私も付いて行って宜しいでしょうか?」
「ベアトリス・・・君を危険に晒す訳には・・・」
「お願いします。
───絶対に足手まといにはならない様に努めるので」
「・・・分かった。
でも、もし危なかったら絶対に逃げてくれ」
スレイとベアトリスは魔王のいる玉座の間へと急ぐが、そんな2人の前には魔王軍の将達が立ちはだかった。
「ここから先には行かせん・・・!」
「邪魔を───するな!!」
スレイは鞘から剣を引き抜くと同時に鎧甲を装着する。この大多数を捌き切れるか、彼は自信を持てなかったがやるしかないと思い、突っ込もうとしたその時だった。
「ねぇ、2人でカッコいい所持ってかないでよ」
2人の後ろから声を掛けたのはイシュメラで、ハンスやレイラ、カルラやモルドレッドなど他の人達もいた。
「皆さん・・・」
「坊主、お前は嬢ちゃんと一緒にあの部屋に行って、コイツらの親玉を一発殴ってこい」
「でも、それならハンスさん達は・・・」
「小僧、ハンスの言う通りにしろ。
・・・俺達を舐めて貰っちゃあ困るな」
「此処は私達が道を開く、2人はその隙に入れ」
スレイは恩人達の言葉に頷く。ベアトリスはレイラから杖を渡された。
「絶対に、生きてください」
「ありがとうございます」
2人は仲間達が開いた血路を抜けて部屋の中に入ろうとする。そんな彼等へ烏の群れが襲って来た。
「くっ・・・」
「ここは俺に任せてさっさと行け!!」
ハンスは持っているクラブを回転させて向かって来る烏を全滅させ、2人を部屋へ入れた。
「ホウ・・・死ニニ来タカ」
「スケアクロウ・・・今度こそてめぇの最期だ」
2人は玉座の間へと入る。その部屋は広く、柱が左右に立っている。そして、部屋の中央には大きな魔法陣が描かれていた。
部屋の外で激戦が繰り広げられている中、スレイとベアトリスは玉座に座る魔王と対峙した。
「来たか───」
「魔王───此処でお前の首を討ち取る」
「果たして貴様に出来るのか? そちらの娘なら出来るかもしれないが・・・今はどうやら黄金色の竜の人格では無いようだな」
魔王の言う通り、今は竜としての意識では無いベアトリスは両手で杖を握りながら身構えていた。
魔王からは禍々しい威圧感が溢れており、2人は足がすくみそうになる。
だが、ここで逃げる訳にはいかない───せめて、味方が此処に駆けつけるまでの時間稼ぎとなれば・・・と。
スレイとベアトリスはお互いの顔を見て無言で頷いた後、覚悟を決めてそれぞれ戦闘を始めた。
スレイは鎧甲による跳躍力で飛び、ベアトリスはアロウを唱えて光の矢を自身の周りに生み出す。そしてそれを魔王に向けて放った。
光の矢が飛んで来ても、魔王は杖で自分の前に円を描き、矢はブラックホールに吸い込まれた。
飛び跳ねたスレイは部屋の壁を走り、片手に持ったライフルで何発も撃ち込み、玉座へ斬り込みに行く。
・・・が、魔王は瞬間移動して少し離れた位置に転移した。
魔王が自分の真上に円を描くと、スレイの真上にブラックホールが現れ、そこから光の矢が発射された。
寸前で回避するものの、次は落雷が何度も迫り、ベアトリスはプロテクを二重に唱えた。
迫り来る落雷の次は火の玉が発射され、スレイは手甲で防ぐ。が、威力が強く、その炎はスレイを覆う程だった。
「スレイさん───っ!?」
ベアトリスが足を見ると、氷で凍結しており、身動きを取れなくされていた。
氷属性の魔法は、一時的に凍らせる事のできる魔法だが、それでも動きを封じられると厄介な魔法だった。
杖底で強く叩くが、氷が割れる気配は無く、徐々に脚へ流れる血が少なくなっていく感覚を覚えた。
「どうだ? 強引に引き抜いても良いが・・・足を失うぞ?」
魔王はベアトリスの元へゆっくりと近付き、無力な彼女を嘲笑った。
「竜の意識であれば苦しまずに済んだものの・・・まぁ、いい。今更意識が戻って来ても困る、お前を殺してその屍を"あの方"の復活の贄とさせて貰う───!」
魔王が壮大にとどめを刺そうと、慢心したのが彼にとって命取りだった。
スレイはその隙を付いて彼の脇腹にドロップキックを繰り出した。
不意打ちによりそれを直に喰らった魔王は、アンデッドながらに身体中に響く痛みに声を上げ、瞬間移動で距離を取った。
「ふざけやがって・・・!
貴様等まとめて殺してやる!!」
魔王は2人に向けて威厳を忘れたような口調でそう言うと、自身の前に大きな魔法陣を出現させ、そこから光線のような魔法を放った。
ベアトリスを連れて避けたいが彼女の両脚は氷で封じられており、そう考えている内にもビームは迫っていた。
もう無理だと思ったその時、ベアトリスが自身とスレイを覆う様にプロテクを唱え、迫り来る魔法の光線を防いだ。
しかし、プロテクの結界もそう長くは保たない・・・光線の威力で結界にはヒビが入り始めていた。
完全に割れるのも時間の問題───スレイが何かでは無いか考えていると、魔王の真上にあるシャンデリアを見て何かを思い付いた。
「ベアトリス、すまないが、そのまま耐えててくれ。
───すぐに終わらせるから」
「はい。
───私は信じてますから」
スレイはプロテクの結界から出た後、魔王の真上にあるシャンデリアに飛び乗り、吊り下げ部分を斬ってシャンデリアを落とした。
自身の真上から何かが落ちてくる事を察知した魔王は光線による攻撃を止め、瞬間移動をして避けるものの、それこそスレイの思う壺だった。
瞬間移動した魔王の隙を付いて、高く飛んだスレイはそのまま背後に回り込み、上から下に剣を振り下ろした。
一閃───それは断末魔を上げる暇など無く、自身が人間に倒される事にただ呆然としていた。
手に持っていた杖が落ち、そこにいた支配者は消滅した。
魔王が死んだ事と同時期に、玉座前での戦闘も終わりを迎えようとしていた。
「終わりにしようぜ」
「全クダ」
ハンスとスケアクロウが同時に攻撃を仕掛ける。スケアクロウの方は烏を飛ばすが、ハンスはその怪人に急接近し、クラブで頭を叩き飛ばした。
頭を飛ばされたスケアクロウの首からは緑色のガスが薄らと出ており、ハンスは首の無い案山子を足で押し倒した。
「やっと、終わったわね・・・」
イシュメラが呟いた通り、魔王軍は壊滅し、討伐隊が勝利した。
遅くなってすみません、後もう少しで2章終わりです。




