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The Outsider  作者: 橘樹太郎
第2章:邪竜と黄金色の竜
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第2章:邪竜と黄金色の竜 第11話:月下の砂漠で

前回までのThe Outsider

 ガレストル達と別れたスレイ達一行は、砂漠へと来ていた。

 ガレストル達と別れた後───スレイ達は砂漠を歩いていた。

 比較的涼しい早朝に出たものの、徐々に日から放たれる光は強さを増していき、4人は疲れ出していた。

「暑い・・・」

 スレイはあまりの暑さに呟く。オルテナ大陸では、この砂漠地帯が、一番気温が高く、地面の砂に足を取られる者も多かった。

「・・・本当に、ここに目的地があるんだろうな?」

「まぁ、ここはスレイ君を信じましょ・・・」

 ハンスとイシュメラがそんな会話をし、スレイは手帳を開くものの、何も書かれていない。まるで手帳も暑さにやられているのか、反応が無くなっていた。

「〔肝心な時に・・・〕」

 スレイが心の中で自分の運の悪さをぼやいていると、背後から誰かが倒れる音が聞こえ、ハンスとイシュメラがベアトリスに声を掛けた。

 スレイが後ろを振り向くと、ベアトリスが倒れており、彼は焦って彼女に駆け寄った。

 ベアトリスはフードを被っていたものの、それだけでは暑さは凌げず、耐えきれなくなった彼女の意識は朦朧としていた。

 呼吸のリズムを乱し、視界がぼやけるベアトリスの状態は危険な段階へと入っていた。

「エイドで何とかならないのか?」

「エイドは疲労や傷を癒す為の魔法だけど、こういうのには効かないわ」

「ならどうすれば・・・」

 3人が考えていると、ハンスが片手を上げて静かにするよう伝えた。

「・・・何、どうしたの?」

 小声で話すイシュメラに、ハンスは何かを感じ取ったように目を泳がせた。

「何かがこちらに近付いてる・・・」

 ハンスからそう言われ、2人は戦闘態勢に入る。空や周りを見るが、音の正体は下からだった。

 沈黙の一瞬───ハンスは何かを感じ取ってベアトリスを抱き上げて叫んだ。

「この場から離れろ───!!」

 3人は別々の方向に離れると、先程いた場所が爆発したように砂飛沫が舞い上がり、円柱形(はしら)のような物体が顔を覗かせた。

 長く、太く、大きいその姿を見て、スレイ達を驚きを示した。

「何なんだ・・・!?」

「あれはサンドワームと言う魔物よ、間近で見ると気持ち悪い・・・」

「ふざけてる場合か、やるぞ」

 巨大な魔物に対してスレイ達は構える。スレイはライフルの引き金を引き、柔らかい皮膚へ風穴を開けるが、それでも相手からすれば、無力に等しかった。

 ハンスが続いて攻撃するものの、効いている気配が無く、イシュメラの魔法でやっと有効打が見つかった。

 しかし、サンドワームは地中に潜ってしまい、そのまま逃げてしまった。

「折角、魔法が有効だって判ったのに」

「奴を倒すのが目的じゃないからな、先を急ぐぞ」

 3人はベアトリスを連れて村を探すものの、そこに新たな障害が現れた。

 砂漠から飛び跳ねるように現れたのは、サンドリッパーという昆虫のような魔物で、何匹もいた。

 運悪く、縄張りに入ってしまった彼等は疲弊した状態で戦う羽目になってしまった。

 砂漠に潜り、急に現れては、鎌状の両手で獲物を切り裂く事を得意とするこの魔物に、彼等は苦戦を強いられた。

 ヒーラーであるベアトリスは暑さと直射日光で倒れてしまい、今ではイシュメラがヒーラーを兼用する事になった。

 スレイは魔物に銃口を向けるが、先程から積み重なった疲弊により、照準が定まらない。他の2人も戦ってはいるが、砂漠は相手の縄張り(テリトリー)・・・この環境に慣れていない者達にとっては完全に不利だった。

 3人が魔物と戦うのに気を取られていたせいか、1体のサンドリッパーが倒れているベアトリスに襲いかかった。

 彼女を守ろうとスレイ達は反応するが手遅れ───そんな時、風を斬る音が何処からともなく聞こえ、彼等に襲い掛かろうとしていた魔物は輪切りに斬り裂かれ、緑色の血が砂漠に付着した。

 3人が辺りを見渡し、その光景に唖然とする。最初は、かまいたちのように思われたが、その正体はすぐに判明した。

「貴方達、大丈夫?」

 声がした方向を振り向くと、そこには白装束にターバンを巻いた人物が立っており、手には、円盤状の武器、チャクラムを持っていた。

 その者は、スレイ達に付いて来るよう言い、彼等は少し警戒しながら、その人物に従う事にした。

 案内されて辿り着いた先には、緑地や泉があるオアシスだった。

 カイゼルの町から出発して、しばらく殺伐とした砂漠を歩いていたスレイ達にとって、そこは楽園のような場所だった。

「綺麗な場所だ・・・」

「ぼさっとしてる場合じゃないぞ」

 オアシスを初めて見たスレイは、感嘆を漏らすものの、ハンスから急かされて我に返った。

 建物の中に入り、ベアトリスを指定された寝床に寝せる。彼女は苦しそうにうなされており、その状態を見たスレイは拳を強く握って俯いた。

「・・・スレイ君、貴方のせいじゃないわ」

 自分を責める彼の肩に触れて、イシュメラは宥める。その後、彼女は恩人に体を向けて話しかけた。

「助けてくれてありがとね。ところで、あなたは・・・」

 感謝された恩人は、ターバンを外して素顔を晒す。その人物は褐色の肌に、琥珀色の瞳、そして長い白髪の女性だった。

「私は"レイラ"、貴女達は冒険者なの?」

「ええ。ちょっとした用事で此処まで来たの」

 3人は自己紹介をし、ベアトリスの事も紹介した。

「みんなよろしくね。でも、この砂漠に入るなら対策はちゃんとしておいた方がいいわ。この地帯は魔物よりも環境の方が危ないから」

「ふふ、肝に銘じるわ」

 その後、レイラは水を汲みに外へ行き、スレイ達3人は建物の中で待っていた。

「ねぇ、レイラって()・・・何者なのかな?」

「さぁな・・・チャクラム(あんな獲物)を使いこなせる程だ、隠密系統の(ジョブ)か、此処の砂漠の民は全員そうなのか分からんな」

「ただ、戦い慣れしてそうなのは確かね・・・」

「でも、俺達を助けてくれた」

「あのね、スレイ君。助けてくれたけど信じるにはまだ早いわ」

「どうしてですか?」

「彼女に対して今は情報がないもの。この砂漠で宿を見つけたらすぐベアトリスちゃんをそこに移すわよ。それに───」

 イシュメラが何かを言いかけた瞬間、レイラが帰って来た。

「ただいま・・・って今、お話中だった?」

 そう言われて3人は誤魔化すように否定した。

「あっ、そう・・・まぁ、ゆっくり休んでいってね」

「───どうして、私達を簡単に歓迎できるの?」

 そろそろ気になっていたイシュメラがレイラに訊いた。

「どうして、って・・・それは、困っている人を見過ごせないからじゃ駄目かな?」

 その後も彼女は話を続けた。

「別に、私も強制はしないし、あなた達が悪い人じゃないってのは、なんとなくで判るから」

 そう言われて、イシュメラは言葉を返せなくなり、彼女に謝った。

「ごめんなさい、変に訊いちゃって」

「別にいいのよ。あれ?」

 レイラが何かに気付き、彼女が窓を開けると、そこにはターバンを巻いた男の人がいた。

「レイラ、村が襲われてるんだ!!」

「えっ、村が!?」

「ああ! 今、自警団や戦える奴が戦っているんだが・・・数が多過ぎるんだ!」

「分かった、今行くわ!!」

 レイラはすぐ建物から出て行き、スレイ達も加勢しに行こうとした。

「俺達も行こう!!」

「いえ、スレイ。貴方は此処に残りなさい」

「えっ? でも───」

 スレイの言葉を遮るように、イシュメラは彼の胸に手を当てる。すると、彼は身体中に電流が走る感覚を覚え、そのまま床に手を付いて屈み込んだ。

 意識はかろうじて保っているものの、麻痺しているせいか、言葉が上手く出てこなかった。

「な、んで・・・」

「・・・悪く思わないでね、ここにベアトリスちゃん1人を置き去りにする訳にはいかないの。その麻痺は少ししたら取れるから安心して」

 そのまま2人はレイラの後を追うように建物から出て行った。

 数刻置いて、麻痺が収まったスレイは、自分が役立たずなのでは無いかと思い、悩んでいた。

「〔俺は、役に立っているのだろうか・・・〕」

 思い悩む彼とは別に、うなされているベアトリスからは啜り泣く声───彼女は涙を流していた。

 スレイは無意識の内に彼女の手を握り、安心させようとするが、彼女の手を握った瞬間───何かが走馬灯のように蘇った。

 それは、女性が墓石の前に座り込んで泣いているような映像で、彼女は大人びた女性に見えるが、何処と無くベアトリスに似ていた。

『"イルス"・・・ごめんなさい・・・私は貴方を守れなかった・・・』

 墓石には、"イルス・アルフォード"と名前が刻まれていた。

 ───意識を取り戻し、我に帰ったスレイは、ベアトリスの手を離した。

「俺は・・・何を・・・」

 アルフォード───それは、この少年が持つ手帳の持ち主とされる人物の苗字で、この人物が名乗っている名前の苗字だった。

 一方その頃───ハンスとイシュメラは、レイラの後を追うように、襲われている村に向かっていた。

「ねぇ・・・どうして貴方ってさっきまで疲れてた筈なのに、普通に動けるの?」

 箒に座って浮遊していたイシュメラが訊くものの、彼からは、逆に箒の事を突っ込まれた。

「・・・なら、何でお前もあの時、箒を使わなかったんだ?」

「それは・・・1人だけ浮遊してたら、貴方達から、どんな目で見られるか分からないし・・・」

「お前にもそういう所はあるんだな」

「別に良いでしょ! でも・・・やっぱりレイラって()は怪しいわ。なんで私達をそんな簡単に信用するのかしら?」

「さぁな───ほら、着いたぞ」

 2人が村の近くまで向かうと、そこはもう戦闘地帯になっており、黒や青のターバンを巻いた賊達が、村の住民を襲っていた。

 その光景を見た2人も村まで向かい、ハンスは自分の進行方向にいた賊の頬を殴った。

 他の賊も応援に来た彼に気付くものの、もう1人の応援は空から奇襲してきた。

 ハンスの方に気を取られて、彼に刃先を向けるものの、上からの落雷により、1人、また1人と電撃の餌食になった。

 2人だけの増援で、賊達の勢いが落ちる訳も無く、彼等は村を襲い続けた。

 しかし、2人だけと言ってこの助っ人達は侮れない。ハンスは金属棒(メタルスタッフ)を分離し、襲い掛かる賊に殴りつけていき、イシュメラは空から落雷を降らせていった。

 それから少し経った後───ようやく賊は撤退を始めた。

「ありがとう、2人共」

 レイラは頭を下げ、イシュメラは謙遜するが、ハンスはあの賊について気になっていた。

「なぁ、奴等は何者だ? 何でこの村を襲う?」

「ああ、アイツらはね───」

 レイラは2人にあの賊について話す。彼等は、この砂漠における犯罪組織で、自分達を"砂漠の民"と名乗り、他の共同体(コミュニティ)を余所者として扱い、排除する為に襲っているようだった。

 この砂漠地帯はアストリア王国、クーデリア公国、ガルア王国のオルテナ大陸における三大国家の何処にも属していない為、この場所の治安を守る軍隊もいなければ、ギルドも構えていない───半ば無法地帯となっていた。

 村を守り、ハンスとイシュメラはそこの宿屋へ泊まる事にした為、レイラは別れを告げて、自分の家に戻って来た。

 彼女が家の近くに来ると、スレイが入り口にある階段に座って、俯いていた。

「───そんな所で座っていると、体冷やしちゃうよ?」

 そう言われて、彼が顔を上げると、そこにはレイラがおり、彼女の"黄色い"瞳が光っているように感じた。

 スレイは、彼女が黄色い瞳だったか気にするものの、話しかけられた事で、彼は考えるのを止めてしまった。

「あっ、レイラさん。あれ、ハンスさんとイシュメラさんは・・・」

「ああ、あの2人なら村の宿で泊まっていくって」

「あはは・・・そうだったんですね」

 あの2人がレイラを信用していないとスレイは感じており、彼もベアトリスを連れて逃げるべきか迷っていた。

「隣に座っても良い?」

 彼女からそう訊かれ、スレイは彼女も座れるスペースを作った。

 2人が段差に座るものの、気まずい雰囲気が流れる。特にスレイは、あまり女性慣れしていないのか、レイラから目を逸らし、距離を取っていた。

「もっと近くに寄っても良いのよ?」

「・・・遠慮します」

 更に沈黙の時が過ぎてしまい、スレイは口を開いた。

「あの・・・レイラさんはなぜこの砂漠に?」

「うーん・・・"砂漠(ここ)が好き"だから、かな」

「砂漠が好きなんですか?」

「うん。だって、砂漠・・・砂って綺麗に感じない?」

「まぁ・・・確かにちょっと思います」

「しかもね、砂漠は朝と夜で雰囲気が違うの。朝は確かに暑いけど、夜はこんな感じで涼しくて気持ちも落ち着くのよ」

「は、はぁ・・・」

「ごめんね、これは解りづらかったかも」

「それにね───私の故郷も"砂漠"だったから」

 スレイは彼女の言葉に違和感を覚えた。

「故郷は、ここと違うんですか?」

「まぁ、そうなるね。私は故郷からこっちに渡ってきた余所者(アウトサイダー)になるわね」

「・・・でも、皆んなから慕われてそうな感じがします」

「そう? まぁ、自警団活動してたからかもね。この砂漠は危険だし、このオアシスだって、元々は恩人のものだしね」

 スレイが話を聞き終えると、逆にレイラが彼に訊いた。

「スレイ君は、あの()とどういう関係なの?」

「あの娘って・・・ベアトリスの事ですか?」

「そう。だって、妹では無さそうだしね」

「・・・ベアトリスは、俺にとって大事な人です」

「・・・恋人?」

「ち、違います!!」

「なら、何なのさ?」

「あの()は、俺にとって・・・」

 スレイは悩む。ベアトリスをただの仲間だと言うのはしっくり来ず、彼女を大事な人だと思いつつも、どうして大事なのか上手く説明できなかった。

 あまりにも悩むスレイに、レイラは肩をすくめて言った。

「分かったわ、じゃあこの話はお預けって事で。答えられそうだったら教えてね」

「やっぱり答えるんですか・・・」

「勿論、君と彼女の関係には興味があるからね。ささ、もう寝なさい」

 レイラから寝るよう促されて、スレイは彼女と共に建物の中へ入った。

 その後しばらくして───スレイが眠っていると、彼を起こすような声が聞こえてきた。

「───ん、あれ・・・イシュメラさん?」

「こんな夜中に起こしてごめんね・・・レイラはどこに?」

「ああ、レイラさんなら・・・あれ?」

 スレイが辺りを見渡すとが、レイラはいなくなっていた。

「あれ、何処に・・・」

「ああ・・・それでか・・・」

 イシュメラが理解したように頭を抱えた。

「どうかしたんですか?」

「ハンスも何処かに居なくなったのよ、置き手紙を置いてね」

 イシュメラはハンスからの置き手紙をスレイに見せる。そこには、レイラを追う内容が書かれていた。

「何処に行ったと思いますか?」

「さぁ・・・でも、念の為に"シグナル"はハンス(あの人)に唱えておいたから、すぐ分かるわ」

「シグナル?」

「魔法の一種よ、唱えられた対象が何処にいるか分かるの」

 そう言ってイシュメラが目蓋を閉じて、ハンスが何処にいるか確かめる。暗闇から流れる映像(ビジョン)は、対象の視点を通じて視えた。

 何処かの砦に、日中村を襲ったターバンの賊達。そして激しく動く視点───ハンスは今戦っているところだ。

 目蓋を開け、イシュメラはスレイへハンスが何処にいるか伝え、すぐその場所へ向かおうとした。

 しかし、ベアトリスを置いていけなかったスレイは悩むが、イシュメラは絨毯を捲って床の一部分を開く。そこには魔除けの結晶(クリスタル)が隠されていた。

「魔除けの結晶・・・」

「これのおかげで、このオアシスは一応安全って(ワケ)よ。さっ、行きましょうか」

 目的地に向かう為に2人は箒に乗る。スレイを後ろに乗せ、イシュメラはビクビクする彼に言った。

「もぅ、男の子なんだからしっかりしなさい」

「そう言われても・・・初めてなんですよ」

「そうなんだ・・・まぁ、振り落とされなければ良いから」

 そう言って急加速するイシュメラの箒に驚き、彼は振り落とされないよう彼女にしがみついた。

 箒が減速し始め、彼女は子供のようにしがみつく彼に対して笑った。

「なっ、何がおかしいんですか!?」

「いえ。だって、子供のように私にしがみつくんだもの」

 彼女からそう言われて、彼は気付いてしがみつくのをやめた。

「すみません・・・」

「別に良いのよ。ただ、"昔の記憶(こと)"を思い出して───」

 スレイは彼女が思い出した事について気にするが、今はもう賊の砦上空───いつ戦いが始まってもおかしくなかった。

 ハンスは戦いを始めており、彼は何人かの賊相手に白兵戦を挑んでいた。

「苦戦してなさそうだけど・・・援護しましょうか」

「ですね・・・」

 スレイはイシュメラに近くの建物の屋上に降ろしてもらい、彼はその場所からライフルを構えて撃った。

 その銃撃により、ハンスの周りにいた賊は次々に倒れていくが、その銃声(おと)を聴いた賊がスレイの方向に向かっていった。

 一方でイシュメラは、高台にいる賊を全て制圧し、空から援護していた。

「ここまでいるとキリが無いわね・・・!」

 賊の多さに驚きはするものの、彼女は攻撃の手を緩めず、魔法を唱え続けた。

 建物の中に入ったスレイだったが、何人もの賊がシャムシールを振り回しながら彼に襲いかかってきた。

 彼はライフルで先頭にいる何人かを撃った後、弾切れを知らせるように挿弾子が金属音を放ち、すぐに拳銃へと切り替えた。

 途中で敵に掴まれるものの、すぐに敵の腹部に銃撃し、蹴り飛ばすが、別で来た賊に持ち手を叩かれて拳銃を落としてしまった。

 スレイはすぐに取ろうとしたが、それを相手が許す筈が無く、彼はライフルをその場に置いて、腰の鞘から剣を取り出して応戦した。

 建物内では剣戟による攻防戦が起き、スレイは外套(マント)を引っ張られて斬られそうになるが、そこにハンスがやって来て、残りの賊を倒した。

「ありがとう・・・ございます」

「・・・さっさと行くぞ」

 2人が先を急ごうとする矢先、後ろからライフルを構えた賊が1人───しかし、構え方が分からないのか、片手で構えていた。

「おい・・・」

「大丈夫です、あれは───」

 少し焦りを見せるハンスにスレイは問題無いと答える。それもその筈、ライフルはもう弾切れだった。

 賊が引き金を引くものの、弾は出ない。彼は何度も引き金を引くものの、ハンスから頬を強く殴られて倒れた。

 ハンスからライフルを受け取り、スレイは感謝するが、彼はそれでも無愛想だった。

 殆どの賊を制圧した3人が、最後に残った建物の中に入ろうとする。しかし、鍵が掛かっていた。

 スレイがライフルに弾を込めて撃ち壊そうとするものの、ハンスがそれを止めて、彼はコートの裏から針金のような物を出して、その扉を開いた。

「私、鍵開けの魔法知ってたんだけど・・・」

 唖然とするイシュメラを尻目にハンスは建物中へ入って行った。

「行きましょう、イシュメラさん」

「〔・・・あの人本当に何者?〕」

 彼女はスレイに促されるまま、中に入って行った。

 3人が中に入ると、そこには何人かの死体が転がっていた。

 ハンスが恐る恐る覆面を外すと、その死体の肌は萎れて干からびていた。

「何でこんな事に・・・」

「仲間割れ・・・にしても、こんな死に方はあり得ないわね」

 スレイがよく死体を見ると、その首筋に穴が2つ、縦に開いていた。

「何だろうこの傷・・・これじゃあまるで───」

 彼の頭に浮かんだのは───吸血鬼。しかし、彼も存在は認知しているものの、実際会ったことが無かった。

 彼は他の2人にその事を話すが、彼等は不思議そうに首を横に傾げる。それは吸血鬼の存在を否定する事では無く、賊の拠点(アジト)を何故襲ったのかに対しての疑問だった。

「まぁ、賊の親分にでも会いましょうか。此処の部下達を見る限り、その人も無事では済まなそうだけど」

 そうして、3人は賊の頭領がいるとされる部屋の前まで行き、ハンスが扉を蹴り飛ばす。するとそこにいたのは───

「んっ、んっ・・・はぁ」

 見覚えのある後ろ姿に、スレイは思わず声をかけた。

「レイラさん・・・?」

 彼の声を聞き、レイラは後ろを振り返る。しかし、彼等は彼女の顔を見て驚愕した。

 そう───その瞳は黄色く、口の周りから首にかけて血がついており、彼女が振り向くと同時に倒れた悪漢を見る限り、どうやら食事を終えたようだった。

 レイラが黄色い瞳であるのが本当だったとスレイは思うものの、彼女が吸血鬼であった事には頭が追いついていないのか、呆然と立ち尽くしていた。

 一方で他の2人は、レイラが吸血鬼であった事に対し、戦闘態勢をとる。しかし、彼女は少し悲しげな表情(かお)をした。

「───待ってください」

 スレイは2人に対してそう言い、彼等は驚きの表情を見せた。

「・・・血迷ったか?」

「ちょっとスレイ君、まだこの状況でレイラ(彼女)を信じようとする訳?」

「状況を理解出来ていないのは我々の方です、なので・・・此処は自分に任せてください」

「本気?」

 何を考えているのか、レイラと一対一で話そうとするスレイに対し、他の2人はお互い顔を合わせて、戦闘態勢を解いた。

「・・・分かった。私達は部屋から出て行くから、あとは任せるわ」

「・・・もし、お前が血を吸われて下僕になったら───その時は容赦しないぞ」

「・・・それでも構いません」

 2人が部屋から出て行き、スレイはレイラに話しかけた。

「レイラさん・・・」

 話しかけるものの、彼女は無言になる。自分の正体を言えなかったのは仕方のない事だとは言え、此処で知られてしまったのは、あまりにも予想外だった。

「・・・今まで秘密にしてごめんね、私が怖い?」

 彼女からそう言われ、悩む彼は、自分の考えを言った。

「・・・正直なところ、怖いです。ただ、それでも───貴女を信じたい」

「どうしてそう思うの?」

「・・・それは、俺達が貴女の家で寝ている間に襲わなかったから・・・」

「でも、それは貴方達を"非常食"として認識しているとか・・・考えないの?」

「それは・・・」

「なら、訊かせてください。どうして、イシュメラさんの問いに対して、"あんな事"を言ったのですか?」

「あんな事?」

「困っている人を見過ごせない・・・しかも、嫌だったら強要しない───普通ならそんな事言わないと思いますが・・・」

「そう言えば、相手が安心するじゃない。しかも、この砂漠地帯に出るのは中々に大変よ、私にとっては絶好の餌場よ」

 レイラの妖しい笑みと残酷な言葉に、スレイは圧倒されてホルスターの拳銃を抜きかけるものの、彼女の目が哀愁(悲しさ)を物語っているように感じ、戦闘態勢を解いた。

「・・・どうして、その武器を引き抜かなかったの?」

「・・・本意じゃない気がする」

 その言葉に、レイラは唖然とした。

「何でそう思ったの?」

「だって、今"泣いている"じゃないですか」

 レイラは自分の目の下を確かめると、水滴のようなものがついており、それでようやく気付いた───自分が知らずの内に泣いている事に。

「・・・もう、嘘をつかなくていいんです」

「お人好しね・・・」

 彼女の過去に何があったのか分からない。しかし、スレイはその人物を信用できるのではないかと思っていた。

 一度、賊の砦からレイラの家に場所を移した4人は、そこで彼女から話を聞いた。

「どうして、貴女は日光を浴びても平気なの?」

「それは・・・私が"混血児(ダンピール)"の"性質を持っている"から、かな」

「性質を持っている、だと・・・? 訳の分からない話だな」

「まぁ、色々あってね」

 詮索して欲しくないのか、彼女はそう言い、他の3人も気にはするものの、重要な事では無いと感じたのか、その件については訊かなかった。

 血を吸われた相手については、本来なら吸血鬼の下僕───つまりグールになるか、同じような吸血鬼になるかのどちらかだが、レイラの場合、特異な事情による吸血鬼である為か、彼女が血を吸っても、吸われた相手がそうなる事は無く、3人は半信半疑にはなるものの、一応、彼女を信じる事にした。

 そして更に夜が更けて───ベアトリスはベッドの上で目が覚める。そこは彼女にとって見知らぬ場所だが、スレイが眠っているのを見て安心した。

 いつもの神官服に袖を通し、彼女が建物から出ると、鼻歌交じりに泉へ足を浸からせているレイラがいた。

「あ、あの・・・」

「初めまして、具合はどう?」

「おかげで良くなりました、ありがとうございます」

 ベアトリスは頭を下げた。

「いえ、当然の事よ。私の名前はレイラ、貴女は"ベアトリス"ね」

「何故私の名前を?」

「あの3人から紹介してもらったからね───」

 その時、レイラが水面を見ると、鏡のように反射したベアトリスの姿に驚きを示した。

「まさか・・・そんな・・・」

「どうしたのですか?」

「"イリス様"、"お戻りになられたのですね"・・・?」

「えっ?」

 レイラはベアトリスが困惑している事に気付き、彼女は水面を示す。それを覗くと、そこに写し出されたのは───

「───これは・・・?」

 そこに写った自身の姿を見て、ベアトリスは驚愕した。

 ───紅い瞳に、首から両頬にかけて、肌に浮かび上がった鱗のようなもの───水面に写し出されたベアトリスの姿は、まるで別の何かに変化する途中のような、そんな姿だった。

 9月中に何話か出す予定です。

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