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The Outsider  作者: 橘樹太郎
第2章:邪竜と黄金色の竜
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第2章:邪竜と黄金色の竜 第6話:奇襲

前回までのThe Outsider

 村に帰還したスレイは脳裏に流れた映像と手帳に記された文章を信じて旅に出る。ベアトリスも同行し、二人の旅は始まった・・・

 旅に出たスレイとベアトリスはヴァートレスの村から王都へ向かい、交通機関を使用した。

「"トハの村"までお願いします」

 御者に目的地を伝えて二人は馬車に乗り込む。"トハの村"とは、シェイルの故郷で、彼曰く「酷いところ」だと聞いていた。

 揺れる荷台の中、二人は向かい合わせで座っていた。沈黙が続くのを避ける為か、彼女は話を切り出した。

「あの・・・この旅の目的について訊いても良いですか?」

 彼が彼女の話の切り出し方に戸惑いを見せると、それに対して目を逸らしてふためいた。

「すみません、旅に同行しておいて今更こんな事を言ってしまって」

 それに対して、彼は納得したような表情を見せる。それもその筈、この度の目的についてまだ話していないからだ。

 ただ、話そうにもこの手帳の事だ。とても信じられるものではないし、彼にとっての目的だとしても薄くてとても言えるものではなかった。

 しかし、他に納得してもらえるような目的が思いつかず、彼はありのままを話すことにした。

「今から言う事はふざけている様にしか聞こえ無いかもしれないが、実は・・・」

 彼が手帳を見せると、彼女は興味津々で覗いた。

「これは・・・スレイさんが書いたものですか?」

「いや、これは文字が浮かび上がってきたんだ・・・ふざけている訳では無いんだ」

「・・・これは確かに信じ難いかもしれませんね」

「だよな・・・」

「ただ、その手帳を見ると不思議な気持ちになるんですよね。異様と言えばいいのか、とにかく普通の手帳ではなく何か特殊な魔法がかかっている様なそんな気がするんです」

「特殊な魔法、か」

 彼女の言うことには一理あり、この世界は彼の前世とは事情が異なる。魔法によって自動で記される手帳があっても不思議では無いはずだと彼は思った。

「この手帳の通りだと、トハの村に俺の知りたいものがあるんだ」

「それなら、行って確かめるしかないですね」

 彼女は信じてくれるかのようにそう言い、彼は安心する。しかし、何故ここまで彼女は一度助けただけなのについて来てくれたのか、真意は未だに分からなかった。

 馬車は街道を通り、薄暗い森の中を入っていき、湿っているような冷えた空気が荷台内に漂い始めた。

「ベアトリス、大丈夫か?」

 寒いのか、彼女は杖を握り締めて身を縮めていた。

「はい・・・何故かは分かりませんが」

「多分、外の気温が低くてその空気がここに入ってるのかもね」

 それから数刻おいて馬車が停車する。どうやら何事も無く目的地に着いたようで、二人は安心した。

 御者にお金を渡し、馬車は去っていく。二人が目にしたその村は、全体的に湿っている様な村で重い空気が漂う排他的な場所に思えた。

 薄暗いこの村でまず最初にすることは"情報収集"───と言いたいところだが、結局のところどんな情報が欲しいのか二人には無かった。

「〔欲しい情報・・・そうだ!〕」

 彼が手帳を開いてみると、そこには文章が滲む様に浮かび上がり、それが明確になった。

『邪竜復活の手がかりは、屋敷の中』

 明確になった文章を復唱し、彼はある事を思い出した。

 そう、彼にとってレーヴァが邪竜復活を企んでいるのではないかという話だった。これはまだ疑いの段階でしかなく、ディミトリから警告されたぐらいだった。

「〔ただもしも、あの映像(ビジョン)が本当なら───〕」

 もしそれが本当なら世界は滅び、この世界に生かしてもらった事が無駄になってしまう───彼にとってそれは耐え難いものであった。

 まず最初に二人は、屋敷なる建物をこの村で探す事に決めた。恐らく、その屋敷に自分達の知りたいものがあるかもしれない、そう思うしかなかった。

 情報を集めようとするが、村の人々は話したがらず、そっけない態度を取ったりよそよそしく誤魔化し始める。まるで何かを隠している様な、それとも余所者だから話したくないのか、そんな雰囲気だった。

「あまり歓迎されてないですね・・・」

「仕方ないよ、初対面だから───」

 だが、そんな時ある事を思い付く。それはシェイルの両親についてだ。彼らがまだこの村にいるなら、事情を話せばもしかしたら何か情報を得ることができるかもしれないと思ったからだ。

 二人は診療所を見つけて訪ねる。そこには妙齢の女性が受付をしていた。

「ようこそ診療所へ、どうされましたか?」

「・・・シェイルのご両親ですか?」

 上手く話が切り出せず質問を質問で返してしまったスレイは、一度謝ってから話を訊きたい旨を話した。

「へぇ・・・シェイルが銃士隊になったのね。あの子迷惑かけたかしら?」

「いいえ。寧ろ良くして貰ってます」

「それは良かった。で、どんな話を訊きたいの?」

「実は・・・この村にある屋敷について訊きたくて」

「屋敷のことね・・・まぁ、あそこには行かないほうが良いわ」

「それは何故ですか?」

「あそこは元々、貴族が住んでてこの村もその貴族の領地だったんだけど、ある日亡くなっちゃってね。今は村長さんが管理してるのよ」

「村長さんが・・・」

「まぁ何が言いたいかって、貴方達二人が何の為にあの屋敷にようがあるのか分からないけど、あそこには近づかない方が身の為よ。中に入れば"幽霊"が出てくるって噂だし」

「"幽霊"ですか?」

「・・・つい喋り過ぎたわ。この話はこれでお終い。悪いけど帰ってちょうだい」

「あの、まだ訊きたいことが・・・」

「あのね、もし私達二人にもしもの事があれば貴方達は責任取れる?」

「それは・・・」

「無理でしょ、ならこの話はこれで終わり。悪いけど出て行ったほうが良いわ」

 叱られるように話を切り上げられた二人はやむを得ず頭を下げて診療所を後にした。

「これからどうしますか?」

「できるだけ屋敷に近づいてみよう。やっぱりあそこに何かあるかもしれないんだ・・・」

「私はスレイさんについて行きます」

「ありがとう」

 話を終えた二人は屋敷の方に向かう。屋敷は村外れの丘に建っており、人気は無かった。

 木には緑色の眼をした烏が止まっており、まるでこちらを見ているかのように感じていた。

 夜のせいか不気味な空気が辺りに漂い、二人はそれでも屋敷の入り口に手をかけた。

 しかし、案の定というべきか扉は開かない。鍵が閉まっているようだ。

「これでは入れないですね・・・」

「どうにかして入れないだろうか」

 二人はどうにかして屋敷の中に侵入できるよう、建物の周りを一周するが、窓一つ開いておらず、どこからも侵入できるところはなかった。

「流石に窓は開いてないよな・・・」

「窓を割ったらまずいですよね・・・」

 二人がどうするか考えて入り口に戻ると、知らない内に扉が開いている。彼らはその出来事を怪しむが、この好機を見逃せず入っていった。

「もしかしたら村の人かもしれない。静かに行動しよう」

 二人は屋敷内部に侵入し、彼女はグリマーを唱えて辺りを照らす。もし村の人がいれば困る魔法だが、周りが見えない今はこうするしか無かった。

 屋敷は二階建てで、空き家となっているにも関わらず物がそのまま置いてある。正直なところ誰かが買い取ってもいいような気がするが───幽霊の一件で誰も買わないのだろう。

 屋敷1階を探索するが、特に気になる物は見つからず、運が良いのか村人にも会わなかった。

「どうして扉が開いたんですかね?」

「独りでに開くわけがないなら・・・」

 二人は用心するようにそれぞれ武器を持つ。幽霊が無害だとは限らないからだ。

 次の2階は物置部屋や展示室、客間が配置していたが、気になる物は無く、彼らは途方に暮れていた。

 しかし、ある部屋を除いてだったが───

「残りはこの部屋だ」

 二人が入るとそこは寝室で、客間と同じだった。

「せめてこの部屋で何か見つかると良いですね・・・」

 しかし、スレイは何故明確に分からない"物探し"をしているのか、彼自身もよくわかっていなかった。

 自分の意志が無いように旅をしていることに違和感を持つものの、あのビジョンが気掛かりで強引に理由をこじつけていた。

 鏡台の前に立ち、彼は今の自分を見つめる。今では当たり前に思えていた事が、こうやって鏡の前に立ってみると信じられない。何よりも、こうやって空想の世界に来て、姿も違う───そんな自分に対して彼は心の中で呟いた。

「〔俺は変わったんだ・・・生まれ変わって・・・〕」

 スレイが鏡を見ていると、背後に黒い人影が映る。彼は咄嗟にホルスターから拳銃を抜いて後ろを振り向くが、後ろにいるのはベアトリスだけだ。

「スレイさん、どうしましたか?」

 彼女が心配そうに話しかけた事で、彼は我に返る。鏡に映った影は勘違いだと、そう思った時だった。

 彼の首に腕が組み付き、鏡にぶつかる。その腕は鏡から出ており、スレイは銃を背後に撃ちたかったが、利き手を掴まれて封じられた。

「スレイさん!今私が───」

 彼女は助けようと杖を構え、魔法を唱えようとしたが背後から毛布が覆い被さり、巻き付くように彼女の身体を締め上げた。

「ベアトリス・・・!!」

 彼は名前を呼ぶが、首を締め上げる力が勢いを増し始め、徐々に声が出なくなってしまった。

 片腕は掴まれ、剣や銃剣を使いたかったが、もう一方の腕で組み付く腕を引き離そうとしている為かこうやって僅かな息を吸うのが精一杯だった。

「〔このままだと、息が・・・〕」

 駄目だ、このまま死にたくない───彼の脳裏にはその言葉が過るが、そうもいかない。彼の意識が途絶えかけるその瞬間、棚の上に黄色い二つの光が見えたが、あれは光じゃなく、眼だった。

 そう、あのゴブリンだ。人語を話し、彼を襲ったあの小鬼───彼は嘲笑するように歯を見せた後、液体が入った小瓶を床に投げつける。

 小瓶が割れると床に液体が飛び散る。それと同時に首を絞める勢いが弱まり、ベアトリスを締め上げていた毛布が生気を失ったように勢いを弱めた。

 毛布を取り、彼女は杖を拾って魔法を唱えた。

 魔法を唱えると、杖の先端にある赤い球体が眩い光を放ち、何かが怨念のような悲鳴を叫んだ。

「スレイさん!!」

 拘束から解放された彼は膝をつき、乱れながらも呼吸を整える。今まで気管を抑えられていた為か、彼は青ざめていた。

「スレイさん、すぐ楽になりますから・・・」

 彼女は"エイド"という治癒魔法を唱え、彼はすぐ落ち着いた。

「ありがとう・・・」

 すると、彼女は微笑みを向けた。

 二人は床に散らばった液体を見ると、彼女は心当たりがあるように言った。

「これ多分、"聖水"ですよ」

「聖水?」

「魔除けとして使われるもので、私達を襲ったのは恐らく幽霊です」

「言っていた事は本当だったな・・・」

 正体は判明したものの、その幽霊が何だったのかは不明だった。恐らくこの屋敷に住んでいた者の霊だったと二人は思った。

 一難去り、二人は鏡台の引き出しの中身を見る。中に入っていたのは丸めて紐で結んである羊皮紙だった。

 紐を解き内容を見ると、そこにはまるで二人が来るのを想定しているかのような事が書かれていた。

『ここには君達が望むものは無く、今の君達には頼る人が必要だ。"ゲルゾの山"に向かうといい』

 紙に書いていた内容に対し、二人は顔を合わせてお互い首を傾げた。

「誰かが先に来ていたんですかね?」

「そうだとしても、この内容だと俺達が来るのを知っていたようにも感じる・・・」

 二人がこの置き手紙を置いた人について考えていると、部屋の外から大声が聞こえてきた。

「おい、誰だこの屋敷にいる奴は!!」

 それは老人のような声で、真っ直ぐこちらに来ているようだ。

「どうします?」

「ここで待とう」

 スレイはこちらに近づいてくる者を待つ。ただ、用心の為かホルスターに再度仕舞った拳銃に手をかけていた。

「ベアトリス、後ろに」

 床が軋む音は徐々に大きくなり、こちらに近づいてくるのが部屋の中でもよく分かる。緊張の一瞬、扉が開くと同時に拳銃を引き抜いた。

 扉を開いた人物は、声の通り老人であり、彼はランタンを片手に二人を見つけた。

「お前達、ここで何をしている!!」

 老人は彼等を怒鳴りつけ、スレイは安心したように拳銃を下ろした。

 二人は横に並んで彼に頭を下げる。自分達が悪いことに対しては彼等も自己弁護できなかった。

「申し訳ありません!!」

 二人が謝ると、彼は苦虫を噛み潰したような表情(かお)で言った。

「お前達は余所者だな?」

「そうです」

「ここでは無く、ワシの家に来い。行くぞ」

 二人は彼にそう言われ、スレイとベアトリスはお互い不思議そうな表情(かお)をした。

 二人は老人について行き、彼の家に入る。屋敷の鍵は閉められ、彼は道中ぶつぶつと呟いていた。

 二人は椅子に座らされると、彼は話を始めた。

「ワシはカーペンター、ここの村長で、あの屋敷の管理者だ」

 村長が名乗ると、二人も続いて名乗った。そして彼は本題に入った。

「お前達はお遊びで来たのか?それともギルドからの依頼か?」

 村長からの問いにスレイは黙る。本当の事を言いたいが信じて貰えないのは確実で、嘘を言ってしまうと彼自身にも後味の悪さを残してしまう───彼は迷ったがやむを得ず嘘をついた。

「・・・我々はあの屋敷の噂をギルドで聞き、興味本位で来てしまいました」

 そう言った後、彼は目の前に座る村長に頭を深く下げる。そんな彼を横目で見ていたベアトリスも同じように頭を下げた。

「申し訳ありません」

 二人にも謝って許される事ではないと思っていた。しかし、彼らの考えとは裏腹に村長はそれを許した。

 それに対して彼らが安堵していると、ある話を始めた。

「あの屋敷は呪われた屋敷だ、もう近付くな」

「はい、もう近づきません」

 そして話が終わり、二人は村長の家から出て行った。

「何だか悲しい目をしていましたね・・・」

 隣でベアトリスがそう言い、スレイは驚いた。

「そうだったのか?」

「はい、私の見間違いかもしれませんが・・・悲しいような何か悔いがあるような、そんな目でした」

「凄い・・・全然気づかなかったよ」

「ありがとうございます」

「ただ、もしそうだとしたらどうしてそんな目を・・・」

 彼が考え始めようとしたら、どこかで空腹を訴えるような音が聴こえ、隣を見ると彼女が顔を赤くして俯いていた。

「〔お腹空いてるのかな?〕」

 彼がそう思っていると彼女は気付いたように目を合わせた。

「すみません・・・お腹が空いてしまって」

 そう言われて彼は笑う。彼女は我儘を言ってしまったと後悔しているが、彼にとってはとても些細な事で、寧ろ今の重い雰囲気を壊してくれた事に感謝していた。

 その後二人は村で食堂を探すが、見つからず酒場へ行く事にした。

 二人共あまり行きたく無かったが、やむを得ず入って行く。酒場にはポーカーをしている人や泥酔して眠っている人がいた。

 その中でも一際態度の悪い客───帽子を深々と被り、テーブルの上で足を組んでいる。そんな人物にスレイは一瞬目が合った。

 凶暴というべきか、それはまるで殺し屋のような鋭い目をしていた。

 二人はカウンターのテーブルに座り、彼は後ろに恐怖を感じながら平静を装った。

「食べ物は何がいい?」

「水とパンがあれば大丈夫です」

「分かった、俺もそれにしようかな」

「無理しなくてもいいんですよ?」

「今はそれで大丈夫・・・」

 二人は注文して、出された品を食べる。恐ろしい雰囲気の中、パンに齧り付くが、そのパンが中々に固く、噛み切るのに一苦労だった。

 味については普通のパンと変わらず、寧ろ彼らは食にありつけた事に満足していた。

 質素な夕食を食べ終えると、スレイは店主に指定された金額を支払った。

「次は"ゲルゾの山"に───」

「てめぇ、ふざけんじゃねぇ!!」

 彼の話を遮るように、テーブル席で怒鳴り声と台を叩く音が聴こえ、店内の者達は一箇所に目を配る。そう、先程までポーカーをしていた人達だ。

「良い加減にしてくれ、俺はイカサマなんてしていない」

 その男は厳つい男に対して余裕の態度を崩ず、話を続けた。

「そもそも、お前は俺に負けたんだ。賭け金寄越しな」

 その言葉にとうとう堪忍袋の尾が切れたのか、厳つい男は怒鳴った。

「言わせておけば・・・ふざけんじゃねぇ!!」

 彼はテーブルを縦にひっくり返し、相手の両足は真上に来て、体勢を崩しそうになる。しかし、相手はそのまま後転し、受け身を取った。

 そして、勝負は一瞬にして決まった───帽子の男は瓶で殴りかかる厳つい男の間合いに入り、顎に一発拳を当てて、そのまま相手を真上に浮かばせた。

 大柄な厳つい男は背後のテーブルの真上に落ちて、彼は倒された。

「・・・迷惑かけたな」

 帽子の男は店主にお金を払って店から去っていく。それは酒場で起きたトラブルと言うべきか、スレイとベアトリスもその場の雰囲気が嫌で帰って行った。

 二人が酒場から出て、少し歩いていると、道端で倒れている人を見つけた。

「大丈夫ですか!?」

 スレイは心配そうに駆け寄るが、倒れていたのは一人じゃなかった。

「誰がこんな・・・ベアトリス、エイドを唱えて───」

「やめとけ、そいつらはもう死んでる」

 話を中断させたのは先程の帽子の男で、彼は建物に背中を付けて腕を組んでいた。

「まさか・・・」

「おいおい、俺が()った訳じゃない」

「じゃあ誰が・・・」

 三人が話していると、前の方から人影が現れる。それは緑色の眼をしていて、身体中が麻布で出来ているような人物だった。

 案山子───その言葉がよく似合う、不気味な怪人だった。

「オレノ名ハ、"スケアクロウ"。貴様ラヲ殺セト命ジラレタ」

「俺たちを・・・」

 スケアクロウという怪人がそう言うと、彼は緑色の眼をした烏を呼び寄せて三人に嗾しかけた。

 スレイが拳銃を抜いて撃ちまくるが、烏の量が多くて対処できない。ベアトリスに至っても黒魔法を使えるわけではないためか、補助魔法を使うのがやっとだった。

 プロテクトの補助魔法は彼女含め三人共に魔法がかかる。帽子の男は自分にもかかったのが意外だったのか、一瞬だけ彼女を見た。

「俺にもかけたのか?」

「私達三人共襲われてるのに、貴方だけ仲間外れなのは嫌な感じがするので・・・」

 彼はその答えを鼻で笑うと、コートの内側から数枚のトランプを取り出す。スレイは何故それを出したのか不思議そうに思うと、男はトランプを烏に投げつけた。

 投げられたトランプはまるで意志を持っているかのように向かってくる烏達を切り裂き、親玉の方へと向かう。しかし、相手は烏で防御して相殺した。

「中々ヤルナ、人間───ダガ、ココマデダ」

 怪人は烏を呼び寄せて再び波状攻撃を行う。それに対して男はもう一方の手で一枚のルメダ硬貨をポケットから取り出して、それを円盤のように投げた。

 円盤のように投げられた硬貨は周りの木や建物に当たり、跳ね返りながら烏の群れを蹴散らしていった。

「おい、小僧」

 彼はスレイに対して話しかけた。

「コイツは俺がやる、手出しはするな」

「いいのか?」

「お前達は"足手纏い"だからな」

 "足手纏い"という心無い言葉に対し、彼は怒りを覚えるが、ベアトリスは帽子の男を信じて頷いた。

「・・・行きましょうスレイさん、今はあの方に頼るしかないと思います」

 二人は自分達を助けてくれた恩人に背中を見せ、走って行った。

 それを見届けず、帽子の男は目の前にいる敵と対峙する。

 緊迫した雰囲気の中、再び戦闘が再開される。怪人は烏を突撃させるが、相手はトランプで一匹ずつ屠っていく。その的確な投擲技術は、思わず感心せざるを得ない程だった。

 そして、男は短い金属棒を取り出すと、その棒を伸ばして敵の方向へ走った。

 スケアクロウは烏を投擲のように突撃させるが、彼は金属の棍棒(メタルスタッフ)を縦横無尽に回転させながらその猛攻をくぐり抜けた。

 そして接近戦に持ち込むと、メタルスタッフを相手に叩きつけるか、そんな打撃を防がれてしまった。

 流石魔物というべきか、外見に依らず途轍もない力を持っているスケアクロウは、腕で受け止めた棍棒を離し、男の首を掴んだ。

 彼の首を掴んだ怪人は片腕で地面から浮かせるが、同時に隙を生んでしまった。

 首を絞めようとした時、怪人の片腹に何かが撃ち込まれる。それは傷口で溶け、銃創を作り上げた。

 スケアクロウが目を逸らした隙に男は腹を蹴り付けて解放される。そして、もう一撃棍棒を叩きつける気だと見た怪人は、再び防ごうとするが、それはフェイントだった。

 男は棍棒を分離させると、その一本を投げつけるが、その攻撃も避けられる。しかし、彼の投げた棒は建物に当たって弾かれ、そのままスケアクロウの真横に命中しかける。

 しかし、奴は見ずに掴み、自分に命中するのを防いだ。

 男は舌打ちをし、怪人は自身に投げられた棒を地面に落とした。

「冥土ノ土産ニ教エテヤロウ。サッキノ二人、モウジキ死ヌ」

「追っ手がまだいるのか。だが、俺はアイツらの仲間じゃない」

「ダガ、オマエハオレノ姿ヲ見タ。ダカラ死ンデモラウ」

 その言葉に対し、「馬鹿げている」と思いながらも再び戦闘態勢に入るが、この戦いを妨げるものが現れた。

 それは"気配"として彼等は察知する。それを喩えるなら殺意───そんな気配に対し、戦闘は中断された。

「命拾イシタナ、人間」

 スケアクロウは自身の身体に緑色の炎を灯し、瞬く間に消えた。

「クソが」

 帽子の男も悪態を付いてその村を後にした。

 ちょうどその頃───スレイとベアトリスは森の中を駆け抜けていた。

 一体どれほど走り続けたのだろうか───彼はそう思いながらも見えない追っ手を振り切ろうとした。

 逃げる直前、二人は"ファントムフェンリル"と呼ばれる影を纏った大型の狼に襲われる。迎え撃っても今の彼等には勝ち目が無く、彼等は恥を忍んで逃げて行った。

 疲労が蓄積する中、彼等は背後に迫る脅威が消えたことを感じ、後方を見た。

 リスクを伴う行為だったが、あの魔物はもう居ない。二人は糸が切れた人形のようにその場に座り込んだ。

 緊張の糸が切れたせいか、彼等の目から涙が出てくる。スレイは堪えたが、まだ戦闘慣れしていないベアトリスは地面に涙を滴らせた。

 それもその筈、苦しく辛い逃走が終わりを迎えたのだ。まだ気を緩めてはならないが、二人にとっては体力の限界だった。

 しかし、そんな二人を運命が許してくれる筈がなかった。魔物は寧ろ追跡を諦めたのでは無く───油断させる為にわざと諦めたのだ。

 魔物がベアトリスの背後を取り、スレイは咄嗟に彼女を庇うと───次の瞬間、彼は苦悶の表情と同時に痛々しく叫んだ。

 彼が押し倒されると、魔物は右上腕を噛み千切り、その傷口からは骨が露出する。その光景を見たベアトリスは、我に返って魔法を唱えようとする。しかし、魔力(マナ)が消耗しすぎているせいかうまく唱えられなかった。

 ファントムフェンリルはそんな彼女に勢いよく突進し、近くの木に突き飛ばした。

 背中から木に激突した彼女はその場に倒れ込み、口や頭から血を吐く。杖は折れ、魔物に突進された時の衝撃が強すぎた為か、その場で失神した。

 スレイは意識が朦朧とする中、ベアトリスの方に目を向ける。何とかして彼女に近づこうとするものの、噛み千切られた傷のせいか、悶絶してその場から動けない。彼女に手を差し伸べるが届かない。どうしてこんな事になったのか、全ては自分のせいだと彼は感じていた。

 自責と後悔の中、目蓋が重くなり、更なる暗闇が彼の視界を包み込んだ───。

 遅れて申し訳ありません。雑な文章かもしれませんが、少しでも見て頂けたら嬉しいです。

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