第2章:邪竜と黄金色の竜 第3話:不穏な影
前回までのThe Outsider
スレイとジョッシュは天星人であるベアトリスと共に病院へ運ばれた後、退院した彼らはリハビリがてら城下町を歩く。そんな中、急遽スレイとジョッシュは国王からの指示で王女捜索隊に加わる事となった・・・
王国を出て6日が経ち───スレイ達は行方不明になった王女救出の命を受けてアストリア王国を発つ。道中で様々な村を中継地点としつつ6日目でガルア王国に到着し、状況を説明してもらった後、物資や人員の支援をするとガルアの国王は言った。
そして7日目、スレイは目的地に向かっている馬車の中で眠っていた。
そんな時、眠っていたスレイに"ある声"が語りかけてくる。その声は自分を助けようとしてくれた声とは別人のようだった。
『───この声が聞こえているだろうか?』
ああ、聴こえるとも───スレイはそう思いながらその声に反応し、瞼を開くと周りは誰もいなくなっていた。
『安心してほしい、現実世界での君は眠っている』
それは男の声ではあるが、まるで細工をしているかのように不気味で高低のはっきりしない声だった。
「一体何者なんだ?俺を助けてくれた"あの声"と、どんな関係が?」
『その人物と自分は関係ない───恐らく君は"自分が何故この世界に呼ばれたのか"理解していないようだ』
「どういうことだ?」
『"近い内にその世界を訪問する"だろう───だからその時まで生き延びる事だ』
声が消え、スレイの意識は再び途絶えた。
彼が瞼を開き現実に戻ると、ジョッシュが起こすように肩を叩いていた。
「スレイ、辿り着いたぜ」
現場に着いたアストリア王国の勇士達が馬車から出る。森は薄暗く、辺りは見えなかった。
「なぁ、どうしてこんな真夜中にするんだよ?」
「さぁ・・・極秘だからじゃないかな?」
「アホか」
スレイの変な解答に突っ込むジョッシュを尻目に、クレイグは今回同行する隊長達と話し合っていた。
「ジョッシュ、クレイグさん達と話している人達は?」
「ああ、あの人達か」
ジョッシュが得意げに笑いながら紹介を始めた。
「親父から見て左にいるちょび髭のごつい男がグレゴリウス兵団のフィル兵士長だ。そして右にいる魔法帽を被っている片眼鏡の女の人がレベッカ魔導長って言う、アストリア魔導隊の指揮官だ」
「そうだったんだ」
「ちなみになんだけど、親父とあの2人は元々アカデミーの同級生だったんだぜ?」
「それは・・・面白い組み合わせだ」
そんな話をしていると、シェイルが後ろからを声を掛けた。
「本当にこんな森にお姫様なんているのかね?」
「唐突だな」
「だってよ、行方不明になったのが7日前なんだろ?普通ならガルア王国に戻って来ても不思議じゃないと思うんだが・・・」
「確かに・・・護衛していた兵士の遺体が発見されたとはいえ、王女様の姿が見えないのは妙だな・・・」
3人が会話する後ろで咳払いをする声が聞こえ、彼らが後ろを振り向くと、そこには同じ銃士隊員の男が立っていた。
「あっ、ローレン先輩」
「久しぶりだな、合格おめでとう───ただ、無駄話ばかりして気を緩めすぎるなよ?」
「分かってますよ」
隊長達の会議が終わり、スレイ達の方を向いて指示を出した。
「捜索隊は3つに分けて行動する。どれも混成部隊として動く為、意思疎通はしっかり取れ」
その指示を聴いた者達はそれぞれ返事をしながら行動に移した。
捜索隊はそれぞれ森の中を捜索する。この森はガルア王国が管轄している領土ではあるものの、魔物が出ないとは限らず、そちらにも用心しないといけなかった。
捜索隊の面々が王女を探していると、ある1人の兵士が何かを見つけた。
「おーい、こっちの崖から馬車が見えるぞー!!」
スレイ達がその兵士の元へ駆け付けると、その崖には馬車が落ちている。しかし、どうも様子がおかしい───馬の遺体がなく、荷台だけだったのだ。
スレイ達は崖から滑り降り、馬車の荷台を見る。荷台は落ちた衝撃で破損しており、もし中に人がいれば致命傷だった。
クレイグが横転した荷台に登って扉を開くと、そこはもぬけの殻だった。
「血の一滴もついてないな・・・」
クレイグはこの状況に対して疑問を抱く。何故馬車の内部に血の一滴も付いておらず、馬は何処へ行ったのか───彼にとって、それが奇妙でならなかった。
「〔もし誰かが人為的にこの馬車を崖に落として事故に見せかけていたら───そんな事を何故行う必要が?〕」
クレイグは疑問に思いながらも他の人に指示を出した。
「王女はまだ遠くには行ってないはずだ、捜索を続けろ」
しかしその指示をした瞬間、乾いた銃声が森に鳴り響いた。
「何の音だ?」
1人の兵士が反応すると、森の中から人影が見え、捜索隊の面々は身構えた。
その人影が姿を現すと、その兵士は喉から血を流して倒れた。
「おい、大丈夫か?」
ジョッシュがその兵士に駆け寄るが、彼はもう息絶えていた。
「何が起きている・・・?」
その兵士をよく見ると、彼はガルア王国から派遣された兵士だった。
目の前で死の瞬間を見た捜索隊の面々は動揺しかけるが、それを抑えた。
「皆、用心しろ」
クレイグが他の人に声を掛け、彼らは更なる森の深くへと入っていった。
一方、森の中では捜索隊の一人である銃士隊員がライフルを乱射していた。
「クソッ、クソッ、クソッ!!」
照準の定まらない撃ち方で敵が当たる筈もなく、その銃士隊員の後ろを取ったその人物は、彼の頸動脈ごと首を斬ろうとした。
嫌な予感がした銃士隊員が後ろを振り向いたがもう遅かった───ライフルのクリップから放たれる金属音が、残弾が無いことを知らせるのと同時に刃は彼の切り込みを入れながら捌く。しかし、骨までは断てなかった為か中途半端に首が取れかけている状態になった。
クレイグ達がその現場に駆けつけると、そこには何人かの無惨な姿があった。
首が取れかけている者、何度も滅多刺しにされたような者など───悍ましいような最期を迎えていた。
「これは、酷い・・・」
スレイが惨い状況に対して吐き気を催す。そんな中、クレイグは一人一人の兵士を見ながら詳しく死因を確認していた。
そんな時だった。木陰から風切り音が聞こえたのと同時に矢がクレイグの左膝に命中する。
「うっ・・・」
「親父!!」
ジョッシュが慌てて駆け寄り、スレイなど他の面々は彼らを守るように陣形を取った。
「何が起きている?」
「分からない・・・敵はどこにいる?」
彼らは目に見えない脅威に恐怖しながらも周囲の警戒を怠らなかった。
「あそこに誰かいるぞ!!」
捜索隊の一人が茂みの動いた所を指差すと、ジョッシュはその場所に視点を移した後
、走っていった。
「待て!」
憎しみから敵を追いかけるジョッシュに、スレイは付いて行く事にした。
2人は走って森の中を駆けるが、敵を見失ってしまう。ジョッシュは敵が憎いあまりにその場で怒りをぶつけた。
「クソっ・・・!」
「まだ遠くへは行ってないはず・・・」
スレイがジョッシュを宥めようとしたその時だった。
スレイの背後から剣を振りかぶる何者かの姿がジョッシュに見え、彼を庇おうとした。
「スレイ、危な───」
そう言いかけたが、奇襲してきた人物は右から頭を撃ち抜かれ、撃たれた所とは反対の方向に倒れた。
「間に合ったな・・・」
2人を守ったのは負傷していた筈のクレイグだった。
「親父!」
「気をつけろ、敵はどこから来るか分からんぞ」
クレイグの怪我は短時間で完治したのか分からないが、彼は矢を受けた左脚の膝を抑えたままだった。
「森の茂みに隠れろ!」
彼が2人に言って、彼等は森の中に身を隠した。
彼等が別の茂みに身を隠すと、ボウガンを持っていた人物が辺りを急に見渡し始める。どうやら敵であるスレイ達を見失ったようだ。
そんな敵を仕留める為にクレイグは身を隠していた茂みから出て、背後を取って銃剣で首を斬ろうとした。
しかし、相手も熟練者だったのか背後に気づいた後、ボウガンを捨ててナイフに持ち替えた。
「相当の手練れに見えるな───どこの所属だ?」
そんな応答に敵が応えるはずもなく、ナイフをクレイグに振ったが、彼は相手の持ち手を掴んだ後に心臓へバヨネットの刃を突き刺した。
この僅かな出来事に驚くスレイとジョッシュだったが、彼等の近くにも敵がいた。
危機を感じた彼等は茂みから出てきて、敵を迎え撃つ。しかし、まだ対人での実践経験がなかった彼等は自分より手練れの人物達に苦戦する。
「ジョッシュ、スレイ!!」
クレイグが助けようとするが、新たな敵が彼の行手を阻んだ。
「こいつら、死ぬのが怖くないのか・・・?」
ジョッシュが敵に不気味な感情を抱く。それもその筈、先程クレイグが仕留めた敵も終始無言のまま死んでいった。
一方、スレイは斬りかかってくる敵に対してライフルで刃を防ぐ。しかし、どう見ても防戦一方で彼に攻める余裕が無かった。
「ふざけやがって・・・!」
襲ってくる敵に対してジョッシュは蹴り付けてよろめかせた後、彼はホルスターから拳銃を引き抜いて何発か撃ち込んだ。
ジョッシュに自身の仲間を殺された為か、スレイとクレイグを襲っていた他の人物がそちらに反応する。しかし、それが彼らにとって運の尽きだった。
勝機を見出したクレイグは行手を阻む相手の攻撃をかわしてバヨネットで突き刺し、もう1人には拳銃で頭を撃ち抜いた。
スレイの方は敵の腹部に膝蹴りをしてよろめかせた後、ライフルを慌てて構えた。
敵がすぐに体勢を立て直そうとした瞬間、乾いた銃声と共にその人物は頭を撃ち抜かれた。
敵は頭を撃ち抜かれて仰向けに倒れ、緑色の芝生が赤い血で染まっていった。
スレイは目の前の障害が消えた安堵と同時に謎の恐怖が彼の身体に染み付いた。
人を殺してしまった罪悪感、不安、恐怖───いつしか自分がこの行為に対して快楽を覚えるのではないかという考えが彼を沈黙させた。
「スレイ、終わったんだ」
ジョッシュがスレイが構えているライフルの上に手を乗せて下げさせる。彼の手は小刻みに震えていた。
「俺は、俺は・・・」
「スレイ、殺すか殺されるかだったんだ・・・仕方ないんだ」
自分を責めているスレイをジョッシュは彼の右肩に手を置いてそう言って慰める。クレイグは持っていたランタンに火を灯して敵の死体に近づけると、彼はその姿に驚いた。
「この服装・・・まさか!」
驚きを隠せない彼に反応した2人は我に返って彼の所に集まり、その死体を見ると、ジョッシュも驚いた。
「コイツら、まさか"クーデリア公国"の・・・」
我に返ったスレイは彼等の反応に関して首を横に傾げた。
「どういう事なんだ?」
「ああ、スレイは知らないよな」
ジョッシュがスレイの疑問に反応して説明した。
「クーデリア公国ってのは、貴族至上主義の国で、オルテナ大陸の中ではアストリア王国やガルア王国よりも大きい・・・とまではお前も知ってるだろ? ただ、驚くべき事は・・・」
ジョッシュは再びクーデリア公国の兵士と思わしき人物の死体に目を移した。
「コイツらが"何故襲ってきた"か、だよ」
「確かに・・・公国側の兵士が何故この現場にいるのか不思議だ」
「もしもなんだが、コイツらが王女を誘拐しようとしたんじゃないか?」
「待った、そんな事をしたら戦争に・・・」
「それが引っかかるんだよ。わざわざ戦争を引き起こそうとしている理由が・・・」
彼等が襲撃された事について話を整理しながら考えていると、ジョッシュがクレイグのある事に気づいて指摘した。
「そういや親父、脚の怪我は?」
ジョッシュからそう訊かれてクレイグは脚の包帯を取って言った。
「怪我は隊の1人に治してもらったよ」
「痛まないのか?」
「痛むさ、応急手当だったからな」
「無茶すんなよ・・・」
呆れながらも心配するジョッシュを尻目にクレイグは笑う。そんな光景にスレイは思わず口元を緩ませて笑ってしまった。
「どうして笑うんだよ?」
「いや、何となく・・・かな」
「・・・変な奴」
変に誤魔化すスレイにジョッシュは首を傾げた。
3人が王女捜索のために再び行動する。ジョッシュはクレイグに残りの面々について訊かれたが、向こうは向こうで別の方向で王女を捜索するよう指示したようだ。しかし、ジョッシュからすると指揮官の在り方について呆れられた。
王女を探しに森の中をかき分けて行くと、ある場所に行き着く。そこにはテントがあり、その目の前には焚き火をした跡があった。
「お前達、引き金に指をかけておけ」
クレイグは2人にそう指示をして、自身はホルスターから拳銃を引き抜いた。
そして彼がテントの入り口を捲り、ランタンで辺りを照らすと、そこには一人の少女が毛布を掛けられて倒れていた。
「まさか・・・」
彼が何かを察してその少女に近づくと、彼女は彼らに気付いてゆっくりと起き上がった。
その少女は寝起きなのにも関わらず、クレイグ達に気付いてテントの壁まで離れた。
「あ、貴方達は・・・!」
「落ち着いてください、"リデア王女"様。我々は貴女を助けに来ました」
「助けに・・・」
クレイグからそう言われて、王女は警戒を解いた。
「自己紹介がまだでしたね、私は銃士隊で一隊長を務めておりますクレイグ・フォレスターと申します。私の左右にいるのは部下のジョッシュとスレイです」
2人も彼から紹介されてリデアに一礼した。
「私を救助して頂きありがとうございます」
「まずはここから出ましょう、我々が先導します」
スレイ達がテントから出て、クレイグがリデアに手を差し出してエスコートした。
テントから出て立ち上がったリデアをスレイとジョッシュが凝視した。
艶のある翡翠色の長髪を後ろで丸めており、その回りには三つ編みが巻かれている。そして、アストリア王国を象徴するような白と青色のドレスが彼女の美しさを引き立てた。
二人の視線に気付いたリデアがスカートの左右を摘んでカーテシーをする。その時彼女が放った笑顔が、彼等にとっては綺麗で見惚れてしまった。
「馬鹿どもが」
クレイグが彼等の頭に拳骨を喰らわせる。帽子越しなのにも痛く、2人はその場で頭を抑えながら屈んでしまった。
「大変お恥ずかしいところを・・・コイツらには後で叱っておきますので」
「ふふっ、仲が良いんですね」
リデアから笑顔でそう言われて、彼は後頭部を掻きながら笑って誤魔化した。
スレイ達はリデアを救助して4人で森の中を歩いていた。
リデアを中心にして、クレイグが彼女の先頭に立って手を引きながらエスコート、スレイとジョッシュは彼女の左右に立って辺りを警戒した。
「リデア様、あのテントは一体?」
「・・・申し訳ありませんが、あまり憶えていないのです」
「些細な事でも良いのです」
クレイグからそう言われて、リデアは少し考えた後に何かを思い出しながら言った。
「あっ、確か・・・」
「確か?」
「私は誰かに抱えられてあのテントの中に入れられました」
「どんな人物か覚えていますか?」
「・・・大柄な男性でした」
「大柄な男性・・・」
スレイがリデアを助けたその人物について考えていると、彼女は何かを思い出してクレイグに言った。
「あの、私を護衛して頂いた騎士の皆様は・・・?」
そう訊かれて、クレイグは立ち止まり、他の3人も止まった。
「リデア様、気に病まずお聴きしてください───貴女様を護衛していた騎士は皆、殉職しました」
その言葉に彼女は心を痛めたのか、膝をついた。
「そ、そんな・・・!」
彼女の目からは涙が出てくる。自分を護衛した騎士達がこの場で命を落とす事になるとは信じられないだろう。
「私のせいで・・・皆様は・・・!」
泣きながら自分を責めるリデアにジョッシュは彼女の目の前に立って膝をつき、同じ目線になりながら言った。
「アンタのせいじゃない」
敬意を忘れたようにジョッシュは砕けた口調になり、彼女に言った。
「アンタを護衛していた騎士達は、皆んなアンタを護る為に付いて来たんだ。だから責任があるとすればアンタや護衛の騎士達じゃなくて、アンタらを襲撃してきた奴らだ」
「え・・・?」
「だから・・・まず、親父さんがアンタの帰りを待っているんだ。だから、帰ったら思う存分護って散った彼らを弔ってやれ」
そう言ってジョッシュは立ち上がって彼女に手を差し伸べた。
「・・・ありがとうございます」
「これが俺たちの任務だからな」
彼女は涙を拭った後、ジョッシュの手を取って立ち上がり、4人は行動を再開した。
彼等が森の中を歩いていき、拓けた場所に出ると、ある一行を遭遇した。
その一行はどう見ても騎士団のようで、甲冑に身を包んでいる者が多数いた。
「何者だ貴様ら!!名を名乗れ!!」
一行の一人がそう叫ぶとジョッシュも負けじと叫びながらライフルを構えた。
「そっちこそ何者だ!!」
「そちらが戦う気なら我々もその気で行く!!」
一行の前方にいる者達が剣や槍をスレイ達に構えるが、後方からの伝達で彼らは武器を下ろして左右に分かれる。それを見てクレイグはジョッシュが構えたライフルの上に手を置いて下ろさせた。
隊列の中央からは馬に乗った1人の騎士が現れた。
その男は前髪を後ろに流している強面の男だが、クレイグよりも若い印象をスレイは受けていた。
「私は"ヴァルヘルム騎士団"で団長を務めている"ガレストル"だ、我々は事を荒立てる気はない」
ガレストルと名乗る騎士に疑問を抱いたスレイはジョッシュに訊いた。
「彼は誰?」
「俺もガレストルについては詳しくは知らないけど、アイツが率いる騎士団については知ってるぜ」
「どんな騎士団?」
「確か・・・クーデリア公国でも凄腕の騎士団で、騎士団長を務めるのは剣の達人が多いってよ」
「そうなんだ」
「でもな、銃には負けるだろ流石に」
スレイとジョッシュが小声で話していると、クレイグも名乗りを上げた。
「私はアストリア王国銃士隊所属のクレイグ・フォレスターという者だ。我々も見逃して頂けるなら事を荒立てる気はない」
クレイグの名乗りに対して、ガレストルはあるところに反応しながら褒めた。
「ほう・・・貴殿は騎士としての礼儀を知っているようだな。それに姓を持つのか」
「そちらには姓を持てないようだな」
「平民はそうだ。貴族なら持てる」
「・・・貴族で無くとも立派な騎士だとお見受けした」
「その言葉に感謝する。そちらも銃という武器を手にしながら騎士道精神を忘れないその心、素晴らしい」
「お褒めの言葉、感謝する───しかし、貴公らは何故こちらに来た?」
その言葉にガレストルは溜め息を吐きながら言った。
「貴殿とは"こんな任務"では無く戦場で合間見えたかったものだ・・・」
彼はそう言いながら剣を引き抜き、リデアに先端を向けた。
「リデア王女を我々の国へ連れて行く、もしこの要求が呑めない場合、我々は貴殿らを敵として認識する」
「それは残念だな・・・我々は自国の王女を連れ帰る任務を命じられている」
「それなら仕方あるまい・・・」
それを言われた彼が剣先を空に向けると同時に、危険を感じたジョッシュがライフルの引き金を引き、彼の頭に弾丸を放つが、何故か防がれてしまった。
「何で・・・!?」
ジョッシュの放った銃弾が見えない壁に防がれた事に動揺するスレイに、彼が不敵に笑い、剣をスレイ達に向けると、ヴァルヘルム騎士団の団員が彼らの方に向かって来た。
クレイグは球に火をつけて地面に投げつけると、それが破裂して煙幕を張った。
「何も見えないぞ!!」
「狼狽えるな!!」
クーデリア公国の騎士達が煙幕に手間取っている間にスレイ、ジョッシュ、クレイグの三人は距離をとった後、リデアを守るようにライフルを構えて射撃体勢に入った。
「奴ら、俺たちを殺す気だぞ?」
「殺気立ってるのも仕方ないような任務だろうしな・・・」
「全員生き残るぞ、良いな?」
クレイグはリデアに信号銃を渡した。
「これを空に打ち上げたら、出来るだけ我々から離れてください」
「クレイグ様達を置いてはいけません・・・!」
「大丈夫です、すぐに追いつきますから」
クレイグはリデアに笑顔を見せ、彼女は彼らを信じて信号銃を空に構えた。
「どうすれば・・・」
「その"引き金"を引いてください!」
「"引き金"って・・・?」
「リデア様の人差し指にある物を押すんです!!」
リデアはクレイグの言った通りに空に向かって引き金を引くと、銃口から青白い光が空に飛び、閃光を灯した。
耳に響くような炸裂音に驚いて動揺するリデアだったが、クレイグの言った事を思い出して走って行った。
スレイ達3人は煙幕を抜けて向かってくる敵に対して銃弾を放つ。幸い、銃弾が効かないのは騎士団長であるガレストルだけで、彼以外の団員は銃弾が効くようだった。
「まだか・・・」
クレイグが何かを待つように呟きながらも応戦していると、敵が走って接近してきた。
「うわっ!」
スレイが敵の気迫に驚いて地面に尻をつくが、近くにあった剣を手に取って敵の剣戟を防ぎ、鍔迫り合いを始めた。
ジョッシュはライフルと拳銃を持ち替えながら敵を狙い撃つが、その数の多さから苛立ちを覚えた。
「次から次へと・・・」
彼がそんな事を思っていると、ヴァルヘルム騎士団の左から攻めてくる者達がいた。
「次は何だ!?」
どうやら攻めてきた者達の正体はクレイグ率いる捜索隊の面々だった。
「間に合ったか」
それでもガレストル率いるヴァルヘルム騎士団は劣勢にならず襲い掛かってきた。
「もう一押し欲しいな・・・!」
ジョッシュが悪あがきのようにそう呟いていると、彼の祈りは届いたように木々を地面から引き抜くように右から竜巻が放たれ、ヴァルヘルム騎士団の団員を巻き添えにした。
「間に合ったようね」
余裕な笑みを見せながら両手を上下に擦るレベッカとそれに呆れるフィルが現れた。
「お前なぁ・・・」
「これが手っ取り早いもの」
別の捜索隊が合流したことにより、ヴァルヘルム騎士団は次第に劣勢になっていった。
「隊長、どうします?」
副団長がガレストルに近づきながら訊くと、彼は辺りを見ながら判断を下した。
「やむを得ん・・・我々はこの場から撤退する!!」
ガレストルが叫ぶと同時に、団員達もそれに従って撤退を始めた。
「待ちやがれ!!」
「よせ!」
ジョッシュが撤退する敵にライフルを構えるが、クレイグが彼を静止した。
「奴らを深追いするのは我々の任務じゃない」
「でもよ・・・!」
「これは命令だ!!」
クレイグの一喝でジョッシュは悪態を突きながらも『了解』と言った。
「お、終わった・・・?」
スレイが辺りを見渡しながらそう呟いて安堵した。
戦いが終わった後、スレイとジョッシュは別の捜索隊として参加していたシェイルと再会した。
「二人共無事か!?」
シェイルが二人の無事を確認して安心するが、リデア王女の姿を見かけて彼も見惚れた。
「あの娘が・・・リデア姫?」
「親父から鉄拳制裁喰らっても知らねえからな・・・」
「シェイル、やめなよ・・・」
惚けているシェイルに対して呆れながらも警告する二人はクレイグの拳骨が相当効いたようだった。
一方で捜索隊の隊長を務めたクレイグ、レベッカ、フィルの三人はリデアを含めながら話し合っていた。
「リデア様、ご無事で何よりです」
「助けて頂き、ありがとうございます」
フィルとレベッカがリデアの無事を確認すると、クレイグは今後について話を始めた。
「我々はガルア王国へ向かい、そこの国王に無事を知らせた後にアストリア王国へ帰国する・・・それで良いな?」
2人もその話に同意した。
任務が完了し、スレイ達はリデアを連れてガルア王国へと向かい、状況報告した後に彼等は帰路についた。
ここから再び長い道のりが始まる。スレイ達は何事も無く祖国へ戻れるよう祈るしかなかった。
少しでも見ていただけたら嬉しいです




