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The Outsider  作者: 橘樹太郎
第2章:邪竜と黄金色の竜
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第2章:邪竜と黄金色の竜 第1話:邂逅

 第2章突入ですが、少しでも見て頂けたら嬉しいです。

 それは遠い昔の記憶、そしてある1人の英雄の記憶───それは、ある世界(エヴォルド)が闇に包まれた時のことである。

 混沌を極めし暗黒の時代、1つの国家と魔物達により齎された世界に抗う者たちは日々少なくなっていった。

 そんな中、1人の青年が立ち上がる。その青年は世界を支配する者に憤怒し、立ち向かった。

 最初は1人だったが、徐々に仲間が増えていき、そんな中、青年は1人の女性と出会い、恋に落ちる。しかし、彼女には秘密があった。

 彼女の正体───それは、竜人と呼ばれる種族で、彼女は赤い瞳をした黄金色の竜へと変身し、青年を背中に乗せて世界の支配者に戦いを挑んだ。

 支配者に勝った青年達は世界の解放を喜ぼうとした矢先、真の黒幕が現れる。その黒幕の名は邪竜"ファルヴァウス"───裏で糸を引いていた者の正体で、女性は彼の娘であった。

 しかし、青年はそれでも絶望しない。彼は彼女の手を取り、竜を倒す聖剣"ヴァルムンク"を再び掴んだ。

 そして、エヴォルドの命運を賭けた邪竜との戦いは最終局面を迎える。

 黒い外套(マント)と軍服のような衣装に身を包んでいる青年は、荒野のような場所で自分より大きな影と戦っていた。

 傷だらけになり、身体から血が流れる。それでも彼は諦めていなかった。

「まだ・・・終わりじゃない」

 ヴァルムンクを握りしめ、彼は自分の震える脚を抑えた。

 影は青年を睨み付けるように凝視する。その瞳は禍々しい程に赤く、畏敬の念を抱いてしまいそうになるように恐ろしかった。

『イルス───私が付いてますから』

 青年の隣には黄金色の(ドラゴン)が降り立ち、彼の心に語りかける。彼女は青年を翼で覆い隠し、魔法で傷を癒した。

 傷の治癒を終えた青年を背に乗せ、黄金色の竜は翼を震わせて空に浮かぶ。そして対峙している黒き巨影を中心に捉えて青年と共に突撃した。

 邪竜の周りから放たれる無数の光弾は青年と黄金色の竜を狙うが、黄金色の竜は防御魔法を使って光弾を防ぎながら突破していった。

 邪竜に接近し、青年が斬ろうとしたその時だった。

 消滅───いや、瞬間移動(テレポート)と言うべきか。巨大な姿をしながらも懐に飛び込んだ青年の斬撃を回避したのだ。

 あと一歩のところで避けられてしまったが、勝機はある。大きな影として存在している邪竜にはどんな攻撃も効かないと思ったが、ヴァルムンク(この剣)なら確実に倒せる───青年はそう確信した。

 瞬間移動をした邪竜が姿を顕す。邪竜も空を飛び、こちらに光弾を放ってくる。黄金色の竜はそれに気付き、接近して青年に斬撃をする機会(チャンス)をもう一度作ろうと試みた。

『今から無茶な動きをします、振り落とされないでください・・・!』

 放たれる光弾を左右に回転(ローリング)しながら避けた後、黄金色の竜は口から光線のようなブレスを吐いて邪竜を攻撃した。

 しかし、黄金色の竜が放ったブレスを邪竜は避け、彼は自らも口から黒い光線のようなブレスを吐いて青年と自身の娘を仕留めようとする。そしてそれに対抗するように黄金色の竜はもう一度ブレスを放った。

 暗き空で衝突し(ぶつかり)合う2つの光線───その光景はエヴォルド(この世界)の命運を賭けた戦いだと言うことを再認識させた。

 光と闇、正義や悪などそこには無く───そこにいるのは、復讐に取り憑かれ狂った黒き竜(邪竜)と、そんな父親を憐れみ恨んだ黄金色の竜(哀しき娘)に、様々な出会いと別れを繰り返してきた1人の人間(青年)だけだった。

 それぞれの思いや考えが交差する中、共通してあるのは"復讐"という感情。それだけは覆せなかった。

「これで、終わりにしよう」

 青年は剣を握りしめながら、邪竜を見て呟く。そして黄金色の竜もそれに共鳴しているのか、ブレスの勢いを強めていった。

 先程ブレスの勢いが強まったせいか、同じ威力となったのか衝突し合う2つの光線は爆発し、その爆煙で両者共に見えなくなった。

 そして、勝機(チャンス)は訪れる───煙を斬り払い、邪竜に近づいた青年と黄金色の竜は決着をつけようとした。

『〔ここで───〕』

「〔───終わらせる〕」

 青年は再び斬ろうとし───そこで終わってしまった。

 そして意識は現実に戻り、ある人物が目を覚ました。

「夢か・・・」

 その人物はほっと胸を撫で下ろし、安心する。彼の名前は"スレイ・アルフォード"、3年前にこの世界へと降り立った人物だ。

 スレイは先程の夢に妙な現実味と既視感(デジャヴ)を覚えており、同時に気味の悪さを感じていた。

 彼が顔を洗う為に家から出ていき、部屋が静寂に包まれた時───机に置いてあった手帳が風に捲られたように開き始め、まだ何も書かれていない白紙のページで止まった。

 誰かの記憶を追体験しているような謎の夢を見たスレイは、気持ちを落ち着かせる為に外へ出た。

 外は薄暗く、肌寒い風が静かに吹いている。もう少しで朝だろうが、それでも夜明けには程遠く感じていた。

 彼は近くの井戸から木製の(バケツ)に水を汲み取り、両手で掬ってその水を顔にかけた。

 冷たい水が寝ぼけた感覚を研ぎ澄ます。顔を洗い終わった彼は家に戻ろうとしたが、ある男が話しかけてきた。

「もう起きていたんだな」

「あっ、クレイグさん。おはようございます」

 スレイは男に一礼する。その男は"クレイグ"と言う人物で、スレイやジョッシュの所属している銃士隊では上司に当たる人物だ。

 彼は気さくに挨拶した後、スレイの全体を見てから、頷いてこう言った。

「3年前より勇ましくなったな」

 スレイは彼にそう言われて、自身の身体を見る。自分の変化に鈍感だったのか、それを言われて困惑していた。

「そ、そうでしょうか?」

「ああ、訓練した甲斐があったってものだ」

 スレイは彼からそう言われて笑った。

 2人は村にある木製のベンチに座ってジャーキーを朝食とした。

「銃士隊になって後悔してないか?」

 クレイグはジャーキーに齧り付くスレイに訊くと、彼は食べるのを中断して答えた。

「いえいえ、おかげで友人もできました」

 スレイは笑顔でクレイグの質問に答えるが、彼は途中で目線を落として暗い表情を見せた。

「・・・ディミトリのことはすまない」

「いえいえ、謝るのは我々の方です」

「何故そう思うんだ?」

「鎮圧隊を撤退させた後、我々は彼と再会し、そして共にホワイトコロッサス(あの白い獣)と戦いました。なのに我々は助けることができなかった───見殺しにしたも同然です」

 スレイはそう話した後、罪悪感がまだあるのか、視線を地面に向けて沈んだ表情を見せる。クレイグはそれを見て、彼に謝った。

「・・・この話を切り出して悪かったな」

「・・・大丈夫です」

 その後、スレイはこの暗い話の流れを変える為に顔を上げて空を見上げた。

「もう3年も経つのか・・・」

 彼はぼんやりと呟き、心の中でこの世界に降り立った時の事を振り返っていた。

「〔俺がこの世界に来て3年、最初は現地人(この世界の人)とは似て異なる存在とされる"天星人"───所謂余所者(アウトサイダー)として生活を始めた。最初は不安だったしトラブルも起きたけど、銃士隊と言う職には就けて友人も出来た〕」

 スレイがエヴォルド(この世界)に来てからの3年間を振り返っていると、クレイグが彼の呟きに反応にして空を見上げた。

「もう3年か・・・スレイ(お前)ジョッシュ(あいつ)もよく頑張ったな───」

 クレイグが最後まで言おうとするが、彼は話を中断して急に立ち上がった。

「クレイグさん?」

「スレイ、あれを見ろ」

 クレイグは空を指差してスレイがその先を凝視する。そこには一筋の青白い光が流れ落ちていた。

「あれは・・・」

「・・・お前と同じ天星人だろうな」

 それを聴き、スレイは焦るように家へ戻ろうとした。

「早く助けに行かないと・・・!」

 落ちてきた天星人が魔物や災害に襲われる事を危惧した彼をクレイグは宥めた。

「スレイ、落ち着け」

「しかし・・・!」

「ジョッシュを起こしてこい、話はそれからだ」

「はい!」

 彼はジョッシュを起こしに行き、クレイグは再び流れ星の落ちた方向を見続けた。

 彼は自分の装備を整えた後、ジョッシュを起こしてクレイグの所へ連れてきた。

 ジョッシュは目を擦りながら大きなあくびをしてクレイグに挨拶した。

「おはよう・・・スレイから事情は聴いたよ」

「なら話は早い。」

 クレイグは腕を組んでスレイとジョッシュに指示を出した。

「今からお前達2人が行うのは、山へと落ちていった流れ星の調査だ。おそらく天星人の可能性が高い為、もしそうだったら救助しろ」

「了解」

 彼の指示を聞いた2人は敬礼しながらそう言った。

 彼等はヴァートレスの村を発ち、流れ星が落ちた山に向かう。山に登る前の道中は体力温存の為、クレイグが御者を務める馬車に行った。

 スレイ達が山の入り口に到着し、馬車から降りる。

「この山か・・・」

「あまり大きくないようで助かったよ」

 彼等は目的地である山を見上げる。その山は高いものの、50m位の高さがあるアストリア城と変わらない。

「初任務だが、油断はするなよ」

「分かりました」

「安心してくださいよ」

 2人はクレイグにそう言って、山へと登って行った。

 2人が山を登り始めて数十分経ち、彼等は周囲を警戒しながらも頂上へと歩いて行った。

「襲われてないといいけどな・・・」

 歩いている最中、スレイが心配そうに呟くが、ジョッシュは別の事を心配していた。

「それよりも自分達の安全を先に心配した方が良さそうだぜ?」

 自分達の心配を優先させようとするジョッシュは、空を指差してスレイに天気を見せる。空は段々曇り始めており、今にでも荒れそうだ。

「どうする?」

「俺は助けたい」

「決まりだな。取り敢えず、桃色(任務続行)の狼煙を上げる」

「いいのか?」

戻って(やらないで)後悔するより、助けて(やって)後悔する───そうだろ?」

 ジョッシュがそう言って信号銃で狼煙を上げた後、2人はそのまま頂上へと向かう。彼等が頂上へと近づく毎に雪の勢いは強まっていった。

 頂上に辿り着いたスレイとジョッシュは辺りを見渡すが、見えるのは洞窟の穴と辺り一面に広がる銀世界だった。

「しょうがねぇ、あの洞窟に行こうぜ」

「分かった」

 彼等はこの寒波を耐えるために洞窟へ入っていった。

 彼等が入った洞窟は少し奥行きがあり、広さとしても少し休むぐらいには申し分なかった。

 寒さを凌ごうと彼等は奥へと進んだが、その行き止まりにて、ある人物を発見した。

 彼等が駆け寄ると、その人物は少女のようで、スレイがこの世界に来た時と同じようにローブを着ていた。

 ジョッシュは持っていたカンテラに火をつけて辺りを照らすと、少女の顔は鮮明に見えた。

 長い金色の髪に無垢な白い肌、瞼が下がっていて瞳は分からない。その少女はスレイやジョッシュより年下には見えるがあまり歳は離れていないように感じた。

 その姿を見て、彼等は見惚れてしまう。だが、スレイには初めて遭ったばかりなのに謎の既視感(デジャヴ)を覚えていた。

 そんな中、我に返ったスレイは上着をかけた。

 彼等は天星人と思わしき少女を保護した後、非常用として持ってきた小型の薪を積んで燃やす。訓練の時は火口を作ってそこに火種を落とすなどの手順を踏んだが、非常事態を想定してあらかじめ焚き火をする為の装備は銃士隊に支給されていた。

 焚き火をしながら暖を取るスレイとジョッシュはこれからどうするかについて考え、話し合っていた。

「恐らくその()が天星人だよな」

「多分・・・」

 ジョッシュは少女に視点を移した後にスレイの方を見てにんまりと笑いながら言った。

「・・・スレイ、お前さっき見惚れてただろ?」

 スレイはその問いに怪訝そうな顔をした。

「お前だってそうだろ?」

「そりゃあ・・・可愛いもんな」

「それはそうだけど・・・」

「まぁ、お前の言いたいことは分かる。ここからどう下山するか、だろ?」

「そう」

「でも大寒波だしな・・・」

 ジョッシュはため息を吐きながら話を続けた。

「持ち物はこれだけで穴の外は猛吹雪───スレイ、前世(前にいた世界)での知識で何とかならないか?」

 ジョッシュからそう言われて、スレイもため息を吐きながら首を横に振った。

「悪いけど、俺じゃあ力になれそうにない」

「なんでさ?」

「そもそも前世(前いた世界)で山登りなんてした事無いよ・・・」

「うーん、そうなると無理だな・・・」

 ジョッシュとの会話が終わり、スレイは退屈な状況の中、自分の装備を一通り確認していた。

「〔装填済みのライフルが1挺に、その予備弾数30発、装填済みの拳銃1挺に予備弾数10発、信号銃1挺に照明弾3発、各種発煙弾1発ずつに銃剣(バヨネット)が1本───あとは非常食のジャーキーにお湯が入った水筒、それに応急用道具一式か・・・〕」

 準備は万端だが、悪天候の前には装備が幾らあっても意味がない───スレイはそう感じて落胆した。

「〔まぁ、運良くこの洞窟があっただけでも良かったか・・・〕」

 彼らが退屈を凌いでいる時、外で狼のような遠吠えが吹雪と共に聴こえた。

「今の聴いたか?」

「ああ・・・」

 恐らく、野生の狼がこちらに来たのだろう───彼等はライフルの引き金に指をかけた。

「俺が様子を見てくる」

 ジョッシュはそう言って洞窟から出て行こうとするが、スレイは彼を心配した。

「やめた方がいい・・・」

「安心しろって、入り口近くまで行くだけだよ」

 ジョッシュはスレイを安心させるように笑顔を見せたが、彼にとってはなぜか嫌な予感がした。

 それから数分経ち、スレイは1人焚き火で温まっていると、ジョッシュが戻ってきた。

 しかし、彼の口からは血が滴り、手に持っていた筈のライフルは紛失していた。

「どうした!?」

「スレイ、マズい・・・」

「何がマズいんだ!?」

「そ、外に化け物が───」

 ジョッシュは何かを言いかけようとして倒れた。

「ジョッシュ!?」

 スレイがジョッシュを仰向けにして手首の脈を測るが、まだ脈打っている。彼がまだ生きているという事に安心したスレイは、ライフルを手に取って外の様子を調べに行った。

「〔このまま洞窟の中で寒波を凌ぐ方がいいかもしれない。でも、ジョッシュが負傷させた相手がこちらにくる可能性もある・・・〕」

 スレイは恐怖や不安に耐えながら洞窟の外へと出て行った。

 彼が洞窟の外へ出ると、辺り一面は何も見えない銀世界だった。

 強い吹雪の中、スレイはライフルの引き金に指を当てながら周囲を警戒する。彼が目につけていたゴーグルが口を覆っていたマスクのせいか曇り始める。徐々に息遣いも荒くなるほどに彼は恐怖していた。

 ここから洞窟へ戻ることはできないかもしれない───そんな不安と後悔にスレイは押しつぶされそうになり、再び洞窟へと戻ろうとした。

 スレイが戻ろうとして、足に何かが当たる。彼が屈んで足にぶつかったものを見ると、それは狼の死骸だった。

 遠吠えをした狼だろうか───その狼は胴体が2つに別れかけており、辛うじて体の皮で繋ぎ止められているが、その間からは破裂したような内臓が血と共に漏れ出していた。

 スレイはこの光景を見て、静かに気が動転し吐きそうになる。自分もこうなるかもしれない───そう思ってしまうと心臓(むね)の鼓動が早まっていった。

 スレイが動揺と吐き気を抑えながら洞窟へ戻ろうと立ちあがろうとするその時だった。

『危ない・・・!』

 スレイの頭にあの声が聴こえてくる。その声が再び聴こえてきた彼は驚きのあまり、そちらに気を取られてしまった事が命取りとなってしまった。

 スレイの背後には吹雪の中から青い眼を光らせる謎の存在が現れ、彼に向かって拳を振り上げた。

 我に返った彼が、背後から漂う空気に気付き後ろを振り向くが手遅れだった。

 謎の存在が振り上げた拳をスレイめがけて当てる。彼はその硬い塊に当たり吹き飛ばされた。

 彼は吹き飛ばされ、得体の知れない何かに動揺を隠せなかった。

「〔何だ・・・何が起こってる・・・!?〕」

 吹き飛ばされた先の雪が深く柔らかかったのとライフルが先に当たって間接的に盾になったおかげで運良く致命傷には至らなかったが、それでも痛い事には変わらなかった。

 全身が痛み、口からは血が漏れ出し、そのせいか唾液と血が混じって口内が塩辛く感じる。そして骨も折れているかのように身体のどこからか激痛が走り、スレイの思考は渋滞を起こしていた。

 彼は精一杯の力で痛みを抑え、腰のホルスターから拳銃を取り出した。

 先程の出来事で手が震え、照準が定まらない───目の前に見える吹雪越しの輪郭(シルエット)は自分よりも大きいと彼は感じた。

 スレイは恐怖のあまり、輪郭が見えた瞬間拳銃の引き金を引き続ける。しかし、それでも効果はなかった。

 スレイを襲う謎の存在はゆっくりと地面の雪を重く踏みながら迫ってくる。彼は逃げようとしても痛みが心身を蝕み、咄嗟に行動する事ができなかった。

「〔どうすれば・・・〕」

 スレイが今持っている装備は、弾切れになった拳銃にバヨネット1本───ライフルは破損してしまい、残りの荷物は洞窟の中だ。

 目眩は酷く、痛みによって動けないスレイは目の前の存在に屠られるしか無かった。

『諦めないで・・・』

 スレイに再びあの声が聴こえるが、彼は諦めるしかないと思い始めていた。

 彼が何気なく手を動かすと、雪とは違う硬い物が手に当たる。気になってそれを手に取ると、それは信号銃だった。

 恐らくジョッシュが落とした物だろうか───彼は信号銃に弾が入っていることを確認する。その弾は照明弾だった。

「〔そうか、これで・・・!〕」

 スレイは光を取り戻したように気持ちを奮い立たせる。この一発に賭けるしかない───そう思った彼は信号銃に再び再装填した後、左手首の上に信号銃の銃身を乗せて、目の前に迫り来る存在に構えた。

 奇跡が起こったのか、一時的に吹雪が弱まり相手の姿が晒される。スレイとジョッシュ、それに野生の狼を襲っていたのは"アイスゴーレム"と呼ばれる二足歩行の魔物だ。

「さぁ、かかって来い・・・」

 スレイは自分の情けなさをかき消すように聞こえるはずのない挑発をアイスゴーレムにした。

 照明弾は武器として使う物では無いが、弾の発火を利用すれば氷の魔物には効果があるかもしれない。それでも武器として作られた物とは違う為、スレイにはそれ程の威力(魔物を倒す力)がある訳では無いと思っていた。

 チャンスは一回───弾を外したり発火する前に途中で勢いが無くなってしまえばスレイはあの狼の死骸と同じく、凄惨な最期を迎える事になるのだ。

 アイスゴーレムが獰猛な獣のように両腕を地面に叩きつけた後、こちらに向かってくる。彼は感覚を研ぎ澄まして目の前に迫ってくる魔物へ引き金を引こうとした。

 勝負は一瞬だった───スレイに接近して十分な距離を詰めたアイスゴーレムに彼は引き金を引く。信号銃からは大きな銃声と共に照明弾が放たれ、彼らの間で青白い光が眩く発光した。

 眩い光は辺りの雪を溶かしながらも光は収まる。アイスゴーレムの身体が溶け始め、狂ったように両腕を振り回しながら仰向けに倒れた。

「〔これで、終わったか───〕」

 緊張から解き放たれたスレイも仰向けに倒れ込んだ。

 ここで死ぬのだろうか───スレイはそう思いながらも意識が途絶えそうになる。身体は重く、凍りついたように動かない。目蓋は重くなり今でも閉じてしまいそうだった。

 そんな時、何故かスレイの目からは無意識のうちに涙が出る。死はこんな感じだろうか───静かな恐怖と不安が彼の心に()ぎっていた。

 意識が途絶える寸前、何故か暖かい感覚に襲われる。死ぬのだろうか───しかしその感覚は悲しいというよりも何処か懐かしさを感じるような暖かさだった。

『怖がらないで』

 その言葉を最後に、スレイの目の前は暗くなった。

 ある日のこと、男は病院に来ていた。

 その男はスーツを着た所謂社会人(サラリーマン)というもので、眼鏡をかけた地味な黒髪の青年だった。

「すみません、妹の面会に来たのですが・・・」

 その青年は受付の人に言うと、彼女は笑顔で答えた。

「はい、──────様ですね」

 受付が済み、青年は受付に感謝した後、妹がいる病室へと向かった。

 青年はある病室へ入ると、妹は部屋の端にあるベッドから外を眺めていた。

 妹が青年の存在に気づいて振り向くと、彼女は青年に笑顔を見せて手を振る。しかし、その笑顔は青年にとって少し弱々しく(脆く)感じた。

「お兄ちゃん、また来てくれたんだね」

 妹は窓から吹く風になびく髪を抑える。彼女の髪は白くなっており、表情も少し儚げに感じ取れた。

「具合はどうだ?」

「今はいいよ」

 青年の妹は心臓を患っている。医師からは治すのは困難だと言われており、ドナー手術をした筈なのにも関わらず再発した。

「ごめんな、お兄ちゃん何もできなくて・・・」

「大丈夫だよ、来てくれるだけでも嬉しいんだもん」

 自分の兄を慰める妹は何かを思い出したようにベッドの下から絵を取り出した。

「それは?」

「えっとね、綺麗なお姉さんから描いてもらったんだよ」

「そんな人が何故・・・」

「分からないけど、お兄ちゃんの知り合いだって言ってたよ。すっごい綺麗で、美人さんで、おとぎ話《絵本》から出たお姫様みたいな人だったよ」

 そんな知り合いはいない───と青年は言おうとしたが、妹があまりにも嬉しそうに話していたので彼は話を合わせる事にした。

「そうだったのか。それでどんな絵を描いて貰ったんだ?」

「実は前に見た夢なんだけどね」

 そう言いながら彼女は描いて貰った絵を見せる。その絵には、下から、鎧を着た天使のような女性に黒い外套と帽子を付けた謎の青年に黄金色の竜がその上で羽を広げていた。

 どうやらその人物は彼女が見た夢を絵で再現してくれたようで、その女性には頭が上がらないと彼は思った。

「これは・・・」

「夢の中で私がこの一番下にいる女の人だったよ」

 妹はため息を吐きながら再び窓の方向を見た。

「私もこの絵の女の人みたいになれたらなぁ・・・」

 妹はため息を吐きながらそう言った。

「なれるさ」

「本当?」

「ああ」

 しかし、それから数日後───青年の妹の容態は急変した。

 青年は急いで妹の病室へ駆けつけると、妹はベッドの上で衰弱していた。

 何故、どうして───青年はそう思いながらも妹の手を握りしめた。

「お兄ちゃん、また来てくれたね・・・」

「ここにいるよ」

 妹はその言葉に儚く微笑みながら、弱々しく言葉を出していく。

「わたし、しぬのかな・・・」

「死なせない・・・」

「わたしね、もしうまれかわったらあのてんしさんになりたいな・・・もしなれたら、いろんなところをとんで、おにいちゃんをむかえにいくから・・・」

「ああ、その時は───」

 しかし、妹は事切れていた───彼女の手は冷たく感じ、目からは生気を感じなかった。

 妹は亡くなった───その事実に対して青年は悲しく、何もできない自分に憤りを覚える。しかし、慟哭することも出来ず、ただ無気力に彼女の手を握っていた。

 そして、スレイが目覚めると、辺りには看護士や看護婦が仕事をしていた。

 窓からは()が差し込む───あれは夢だと認識した。

「ここは・・・?」

「やっと目覚めたわね」

 スレイは見覚えのある声が聴こえた方向を見る。彼の横には椅子に座っている"レーヴァ"がいた。

「レーヴァ"さん"?」

「また"さん"付けしてるわ」

 レーヴァがスレイの"さん付け"を久々に聞いて笑った後、彼のあるところに気づいた。

「あら?」

「どうしたの?」

「いや、だって貴方───泣いていたの?」

「えっ・・・?」

 彼が自分の目の下に触れると、雫が目から滴っていた。

 先程の夢のせいだろうか───彼は涙を拭った。

「大丈夫?」

「うん・・・」

 涙を拭った彼はある事に気づいて彼女に言った。

「そう言えばジョッシュは・・・」

「ここにいるぜ」

 彼が声の聴こえた方向を振り向くと、そこには松葉杖をついてるジョッシュがいた。

 彼は一応の安堵をする。ジョッシュの身体には包帯が巻かれているのが、服の隙間からでも見えるが、それでも元気そうだった。

「松葉杖なんていらねぇんだよな・・・」

「そんな事言わずに」

「あれ、俺たちが救った天星人は・・・」

「安心して、彼女なら大丈夫よ」

 彼女からそう聴いて、2人は安心した。

「ひとまず、親父からの任務は完了したな」

「だな・・・ただ、クレイグさんは今どちらに?」

「ああ、クレイグさんなら玉座に行ったわ」

「えっ?」

「スレイには言ってなかったが、親父と王様は仲がいいんだ」

「そうだったんだ!?」

「まぁな」

 3人が会話を楽しんでいる間、玉座の方ではある話で緊迫していた。

「国王陛下、緊急のお話というのは?」

「ああ、実は───我が娘、"リデア"が"ガルア王国"から帰国中、"行方不明"となってしまった・・・」

「陛下の娘が行方不明だって!?」

 クレイグは王様の一人娘が行方不明になった事に驚く。この話をスレイ達が知る事になるのは後の話だった。

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