第1章:始まりの3年間 第10話:野戦訓練
前回までのThe Outsider
銃士隊の部隊試験に臨んだスレイ達は見事に連携を取って順調に進める事が出来た。そして試験終了後、その結果は・・・
部隊訓練の模擬試験が終わり、スレイ達は試験の評価を下された。
「お前達は・・・合格だ」
その言葉を聴き、少年達は喜び安堵した。
「凄いだろ、親父!」
喜びのあまり───ジョッシュがクレイグにうっかり口を滑らせてしまいその場が凍りつく。ここでは銃士隊としての関係であるため、血縁関係があろうと上下関係は意識しないといけなかった。
「おい、ジョッシュ!」
「バートン、大丈夫だ」
叱りつけようとするバートンを静止してクレイグが口を開く。
「お前達、これが合格出来たからといって浮かれているな。実践では動かない案山子ではなく、本気で襲ってくる相手だ。お前達はあくまで当たり前のことが出来たに過ぎない」
クレイグが淡々と告げて去っていく。しかしスレイにとって、彼の言っていることも一理あり上官としての立場上、厳しくしないといけないから仕方ないと思っていた。
「お前達はもう戻っていいぞ」
バートンがスレイ達に言い、五人は寝室へ戻って行った。
「ちぇっ、何だよ・・・」
「まぁまぁ。クレイグさんも教官としての立場上厳しくしないといけないから・・・」
不貞腐れるジョッシュをスレイが宥ていると、その隣でシェイルはふと疑問を出した。
「だがよ、この試験が終わったら次は何だろうな?」
「次からは部隊訓練が中心になるんじゃないか?試験もその為だろ」
その疑問にヴィルトが答え、彼は納得した反応を見せた。
四人はそれぞれ話していたが、ディミトリだけは全く話に入らなかった。
「〔ディミトリ、中々話に入らないな・・・大丈夫だろうか? ただ、本人も話しかけないでほしいかもしれないしどうしよう?〕」
スレイは傍らで黙って一緒に歩いている彼を見て、どう関わるべきか考えていた。
翌日、広場に集められた候補生達は、教官から訓練の内容を発表される。その内容は遠征訓練のようだが、今回は野戦を想定して2泊3日の訓練をするようだった。
「今回の訓練は部隊として行動してもらう。隊の輪を乱さず、無事に帰還できることを祈っている」
教官が候補生達に告げると同時に訓練が始まった。
候補生達は指定された装備を整えて部隊で現地へと向かう。教官曰く、『結界を張っているため、魔物との遭遇する可能性は低いが、猛獣などの肉食動物と交戦する可能性有り』との事で、ある意味危険と隣り合わせな訓練だった。
現地へ向かったスレイ達は森の中を歩いていた。
魔物が出ないのは良いことだが、森が湿っていて気持ちが悪く感じていた。
歩く毎に体力を奪われていくような感覚に襲われながらもスレイ達は歩いていた。
「まだかよー」
シェイルがぼやく。彼の言う通り、訓練場から出発してから2、3時間は経っているような感じがスレイにはあった。
「我慢しろよ、銃士隊だろ?」
「厳しいねぇ・・・」
ジョッシュがシェイルに厳しく言うが、そんな彼の表情も疲弊しているように白くなっていた。
「なぁ、ヴィルト」
「どうした?」
「お前の感覚でどっちに水源あるか分からないか?」
「お前なぁ・・・」
「───こっちにあるかもしれない」
彼がヴィルトに無茶振りをしていると、ディミトリがそう呟いた。
「本当か!?」
ジョッシュが嬉しそうな表情でディミトリを見る。彼は四人に付いてくるように言った。
四人は彼に付いて行き、そのまま森を抜けると───そこには池があり、水を汲むにはそれでも十分だった。
「流石だぜ!!」
ジョッシュが満遍の笑みでディミトリの両肩を叩いて言う。その傍らでヴィルトが怪訝そうに見ていた。
「〔・・・あの状況下でどうやって見つけたんだ?〕」
ヴィルトにとって、それが気がかりであった。
全員が疲労している最中、あの状態で動けるのは相当な体力を持て余しているか、細かい音まで聴けるかぐらいだ───そんな事が出来るのは並の人間ではない、と彼は考えていた。
「どうしたの?」
スレイがヴィルトの表情に気付いて話しかけた。
「いや、何でもない。」
ヴィルトは鼻で笑いながらそう言い、スレイは首を傾げた。
水源を発見したスレイ達は、その近くにテントを設営した。彼は悪戦苦闘しながらも設営に携わっていた。
「スレイって、前の世界ではテントとか貼らなかったのか?」
悪戦苦闘しているスレイを見て、シェイルは訊いた。
「いや・・・張ったとは思う」
「本当?」
「おい、スレイをいじめるなよ」
ジョッシュが、スレイにふざけて突っかかるシェイルに釘を指した。
「お前だって、言えた立場じゃないじゃんか」
その言葉にジョッシュは怒りで身を震わせる。確かに正論だが、それでも彼は嫌だったようだ。
「うるせぇ!俺はちゃんと反省してんだよ!!」
ジョッシュがシェイルに怒った後、話を続けた。
「大体、お前そんな事言ってたりするとスレイからうざがられるぞ?」
その言葉にシェイルは気付かされ、胸を抑えて心が痛いような素振りをした。
「うっ、心が痛いよ・・・」
「ほざいてろ」
彼はふざけた後にスレイの方を向いて謝った。
「スレイ、さっきはふざけてごめんよ」
「良いって」
「何だよ、謝れるじゃんか」
謝ったのを見たジョッシュがニヤニヤと笑ってからかうとシェイルが怒り、スレイが再び止めに入った。
それから少し経ち、ようやくテント設営が終わる。火種や火口となるものはヴィルトやディミトリが拾ってくれたようだった。
「んじゃ、今日の飯でも獲ってくるか」
ジョッシュは、先に材料探しをした二人を労いながら、他の二人を連れて狩りや収穫に出掛けた。
「それぞれ離れすぎるなよ」
「そっちこそ」
「何かあったら信号銃を使おう」
三人は手分けして狩りや収穫に勤しんだ。
ジョッシュやシェイルと別れた後、スレイは一人、森の中を散策していた。
今日の夕食となるものがあれば良い───と彼は思っていたが、それが見つかるかどうかは怪しい。最も彼にとって心配なのは、狩れるかどうかの問題だった。
森の中を歩く事数分・・・彼にとって、心配としていた問題に出くわす。彼から数十メートル離れた先に鹿がいたのだ。
彼はすかさず肩にかけていたライフルを手元に寄せ、鹿へと構える。獲物はまだ気付いていないようだ。
彼は手を震わせながらも照準を定める。手に汗握る中、一発の銃弾が鳴り響いた。
彼は鹿が倒れるのを確認した後、引き金から指を離す。苦しめずに急所に当てることができたようで安心した彼は、急いで防腐薬を鹿にかけて、信号銃を使って狼煙を上げた。
「よう、上出来じゃねぇか」
少し経ってからヴィルトが来る。彼は到着してから隣に倒れている鹿を見て、彼を褒めた。
「ありがとう。悪いけど、一緒に運んではもらえないかな?」
「ああ、良いぜ」
二人は鹿を運んで行った。
鹿を自分達のキャンプ場に運んだ後、一人で見張りをしていたディミトリは彼等に気付いて、『お疲れ様』と労いの言葉を送る。スレイは、彼が以前より口数が増えたような気がすると感じた。
しばらくして、残りの二人が帰ってきたところで夕食の準備を始めた。
ジョッシュは三羽の鳥を獲ってきた。その鳥は鴨のようで、この世界にもいたことがスレイにとっては驚きだった。
シェイルは狩りを諦めて、食べられる木の実などの穀物を採ってきた。
彼等は収穫したものを調理して食べる。スレイは、同じ屋根の下で仲間と共に食べるのが、どれだけ貴重な事なのか、今はまだ分からなかった。
食べている中、ヴィルトが何か思いついたように取り出す。それは何らかの液体が入った瓶のようで、それはすぐに判明した。
「おいおい」
ディミトリ以外の三人は驚き、ヴィルトがニヤリと笑う。そう、お酒だ。しかも丁寧に5本持ってきていた。
「ここには教官いないからパッとやろうぜ」
「おう、そうだな!」
「じゃ、遠慮なく・・・」
ジョッシュとシェイルは彼の言葉に乗って酒瓶を受け取る。バレてしまった時が怖かったスレイは彼等を止めようとしたが、上手く言えずにあたふたしていた。
「スレイとディミトリはどうだ?」
彼が飲むか聞いたが、残りの二人はすぐ遠慮した。
「そうか、まぁ気が変わったら教えてくれ」
そう言って彼は、酒を飲んだ。
五人で焚火を囲んでいると、シェイルがジョッシュに言った。
「なぁ、ジョッシュ」
「なんだ?」
「お前、レーヴァと"出来て"んだろ?」
「はぁ!?」
酔っているのか、シェイルはジョッシュを揶揄うと、彼が怒りの混じった驚きを見せる。
「この野郎・・・!」
ジョッシュはシェイルの首に左腕を回して絞めながら、右腕の握り拳で彼のこめかみにぐりぐりとねじ込んだ。
シェイルがジョッシュに絞められて悶絶している光景を見て、ヴィルトはそれを見て呆れる。あまり酔っていないのか、スレイがそう感じて彼にある事を聞いた。
「そういえばディミトリ以外はみんなヴァートレスの村出身なのかな?」
「いや、厳密に言うと違うな」
「ジョッシュの事?」
「アイツもそうだし、俺もヴァートレスの村に来た身だが、シェイルはアストリア王国南東部にあるトハの村って場所の生まれだ。」
「そうだったのか」
「元々、ヴァートレスの村は"流れ者の村"って呼ばれてて、一部の人からはあまり良くは思われていない」
「でも、ヴァートレスの村には銃士隊がいる。国にも戦力になる筈だ」
「それでもな、剣や弓、それに魔法で戦っていた人達からすれば、いきなり銃なんて持った奴らが出しゃばった所で、快く思わない連中もいるのさ。あとは、村の奴らが信用ならない余所者だと思っている事もあるらしいがな」
「余所者か・・・」
余所者という言葉を聞いて、スレイはあることを思っていた。
余所者───この世界で言うと天星人の事だけだと思っていたが、現地に住む者同士でもそう呼ぶ事がある。それが同じ人間であっても───その関係性は複雑だった。
「そう言えばお前、天星人なんだろ?聞かせてくれよ、前の世界の事」
「前の世界か・・・」
訊かれたスレイは前いた世界を覚えている範囲で話す。その世界が今いる世界のような幻想的な中世の世界ではなく、城ではなくビルという長方形状の柱や、自動車という馬を使わなない車が走っていた事などを話した。
ヴィルトも相槌を打ちながら話を聞いてくれた。
それから話を聞き終えた後、彼は理解したように笑う。スレイも聞いてもらって嬉しいと思ったが、ジョッシュが急に間へ割って入ってきた。
「スレイ、ディミトリ、お前らも飲めよ!美味いぞ!!」
「いや、俺もディミトリも飲まないよ」
「んだよ、つれねぇな」
ジョッシュはお酒を呑みながら言う。彼とシェイルは相当酔っているようだ。
「コイツらまだ酒慣れしてないのか・・・」
ヴィルトはそう言いながら手に持った酒を飲む。酒に強いのか、それとも慣れているのか───それでも彼は酔っていなかった。
「お酒強いんだ」
スレイが訊くように言った。
「まぁな」
「そう言えばヴィルトは元々ヴァートレスの村にいたのか?」
「いや、俺もジョッシュとかシェイルと同じで元は別の村からの出身だ」
「そうなのか?」
「ああ。ただ、何処の村だったかは覚えてないけどな」
「忘れたのか?」
「まぁ、何で言うんだろうな───"捨て子"なんだよ」
捨て子と聴いてスレイは驚く。何気なく聞いたが、聞いてはいけない事だったのかもしれない───そう思ったスレイはすぐに謝った。
「ごめん・・・」
「お前が謝る必要は無いだろ?」
「いや、だって・・・」
「こいつは知らんが、シェイルを除いた俺たちには、家族はもういない・・・それはお互い様だろ?」
「まぁ、そうだけど・・・」
スレイは彼がシェイルを除いた事について疑問に思った。
「シェイルにはいるのか?」
「ああ、トハの村に親父とお袋がいるとは聞いてるぜ」
「そうだったのか・・・」
「今は疎遠らしいけどな。アイツが『銃士隊に入る』って言ったら反対されて。まぁ、家出みたいなもんだ」
「何でだろう?」
「危険だからもあるけど、あいつの両親が診療所やってるから、そっち方面に進んで欲しいのかもな」
「それでなのか・・・」
それから夜が更けて、スレイ達は寝床についた。
テントの中は広いとは言え、五人が寝付けるぐらいの広さでしか無く、一人でも寝相が悪かったり、いびきをかいていたりすると堪ったものではないだろう。
スレイが眠っていると、ある声が聞こえてくる───それはあの女性の声だった。
『イルス・・・気をつけて』
彼はその声に気付いて応答した。
「何故君は俺をイルスと呼ぶんだ?」
『貴方が"英雄"イルスの転生体なのです』
その言葉を聞いて彼は否定する。自分は違う───英雄では無く普通の会社員だった、と彼は言った。
「前世の俺は違う───君の言うように英雄とは程遠い一人の人間だった・・・」
『それは前世での話で、実は貴方が前世に転生する前にも人生はあったのです』
その言葉に驚きを隠せかった彼はあまり理解が追いつかなかったが、もう一つの言葉も気になって先にそっちを訊いた。
「なら、『気をつけて』とは何の事だ?」
『それは───』
声が彼に何かを言おうとした瞬間、彼の視界は真っ暗になった。
彼が目を覚ますと、ジョッシュの左足が彼の腹部に乗っかっており、起こさないよう慎重に退かして外の空気を吸いに行った。
外に出たスレイは、あまりの肌寒さに身を震わせる。今は9月───夏から秋に変わる月だ。
「あんたも起きたのか」
スレイの右側で声が聞こえ、その方向を振り向くとディミトリが切り株の上に座っていて、スレイは彼の隣に屈んだ。
「ディミトリも眠れなかったのか?」
「いや、僕は・・・」
スレイは口を吃らせる彼を見て、いつもとは様子が違うように感じた。
そして彼は俯きながら、少し弱音を吐くように言った。
「・・・あんたは天星人としてこの世界に来て、辛くなかったか?」
彼からそう訊かれ、スレイは少し考えながら答えた。
気付いたらこの世界に降り立ち、まだ右も左も分からないのに銃士隊に志願し、そして厳しい訓練とこの世界の人々との関係を築く事など、今考えると苦しいことばかりだった。
特にジョッシュとの初対面は特に最悪で、今ではこうして親しくする事が出来たが、もし出来なかったらと考えると、自分が今こうして話す事は有り得なかったのかもしれなかった。
「・・・辛かったけど、良い経験にはなったのかもしれない」
スレイはディミトリにそう話すと、彼は俯きながらも相槌を打って話を聴いていた。
「・・・凄いな、あんたは」
「ありがとう」
そう話すと、スレイは彼に訊きたいことがあり、今がそのチャンスだと思った彼は、彼にある事を訊いた。
「そう言えばなんだけど、ディミトリはどうしていつも口につけている覆面と帽子のゴーグルを取らないんだ? 苦しくないか?」
スレイからそう訊かれて、彼は少し黙る。スレイは彼に言ってはいけなかったことだと再認識し謝ろうとしたが、彼の方が早く口を開いた。
「・・・スレイ、君は僕の顔を見ても驚かないか?」
スレイはその言葉の意味が理解できず、少し考えてから承諾した。
「・・・大丈夫だと思う」
その承諾を聞いた彼はゴーグルを外し、銃士隊帽子と口につけていた覆面を下げた。
スレイは、彼の顔を見て愕然とする。帽子であまり分からなかったが、長い金髪で、顔立ちも整っている。もしかしたら銃士隊などの泥臭い職よりも、貴族などの華やかしい方が合ってそうなぐらいだったが、しかし、彼には"違う点"があった。
彼の違う点───それは肌の色で、彼は青い肌をしていて、耳も人間より尖っていて、瞳も赤かった。
驚きを隠せないスレイに彼は再び俯いた。
「そうだよな・・・僕の顔を見たら"忌子"だと思うよな・・・」
彼は少し後悔したが、スレイが驚いている理由は彼が思っているのと違った。
「───初めて」
スレイの呟きに彼は不思議に思い、彼の方を再び向いた。
「いや、これが初めてでは無いけど・・・別の種族と会ったのはこれで2度目になるのかな」
「あんたは、魔族を差別しないのか?」
「魔族を?」
スレイには何故魔族を差別しなくてはならないのか理解できなかった。
彼はディミトリに向かって微笑みながら話しかける。
「同じ銃士隊員じゃないか・・・それに、俺が魔族を差別できるような立場じゃなさそうだ」
その答えを聴き、ディミトリは思わずクスクスと笑ってしまう。確かに、スレイは人間だが天星人という別種族のようなものだ。
スレイはディミトリにさまざまな疑問を示す。魔族が何なのか、魔族が差別されるのかなど・・・彼は自身の生い立ちを織り交ぜながら話した。
「僕は元々、魔族の貴族で生まれた子供なんだ。魔族は魔界と言う場所にいるのだが・・・」
この世界は"三重界"と呼ばれる三つの世界があり、上から、天界、現界、魔界と呼ばれている。スレイ達がいる所は現界と呼ばれる地上世界のことだ。
「魔族は他種族を嫌う傾向があって、そのせいか人間とも仲が悪く、大昔から戦争をしているんだ」
「そうだったんだ・・・」
「一度、現界征服には成功したらしいけど・・・すぐに終わったらしくて」
「そんなこともあったなんて・・・ただ、それだけじゃ差別する理由にはならないのでは?」
「一番差別される要因になるのは、何度も現界征服を狙っている事と、魔族に捕らえられた人間や亜人種の待遇かな」
「そんなに酷かったのか?」
「僕も噂に聞いた位だけど・・・あまり此処は話さなくていいかな」
「まぁ、やめておいた方がいいかもね・・・」
スレイも何処となく察して、詳しく訊くのはやめた。
「しかし、何故ディミトリは現界に来て銃士隊になったんだ?」
「僕の家族でいざこざがあって、没落してしまったんだ」
「それは・・・気の毒に」
「仕方ないさ。銃士隊になった理由は、僕の力が役立つかもしれないと思ったから、かな」
確かに、今までのディミトリを見ていると銃士隊にはうってつけの人材で、人間と魔族間の溝さえ無ければ、彼も顔を隠すことは無かった筈だった。
「そういえばだけど、ディミトリの口につけている覆面、牙状に描かれているけど、自分で描いたの?」
「ああ。これは"スペリアルカサドル"って言う魔物の口で、家ではこの魔物は守り神みたいなものなんだ」
「それで覆面に模しているのか」
二人は夜明けが来るまで語り合う。お互い、理解者が出来て嬉しく思っていた。
そして翌朝、スレイ、ジョッシュ、ヴィルトの三人で森を散策している時のこと、今日はシェイルがキャンプの見張りとなり、ディミトリは食料の調達をしていた。
「おぇっ、吐きそう・・・」
スレイの後ろで、ジョッシュが口を抑えながらえずいた。
「よしてくれよ・・・」
「大丈夫、安心しろ・・・」
呆れるヴィルトに苦しそうなジョッシュが言うものの、彼の顔色はどう見ても悪そうだった。
歩き続ける事数分、ジョッシュが急に『休もう』と言い始め、他の二人も仕方無くそれに従う事にした。
「お前、キャンプに帰っても良いんじゃねぇか?」
「いや、大丈夫・・・」
「顔色悪そうだよ?」
「俺は銃士隊員のジョッシュ様だぞ、こんな事で───」
「まだ隊員じゃないだろ?」
ヴィルトが話を遮るように軽く突っ込むと、ジョッシュは図星でも突かれて黙り込んだ。
再び歩く事数分、スレイが途中の道で足を滑らせた。
「大丈夫か!?」
二人がスレイを心配するが、幸いな事に、彼が滑り落ちた斜面は低く、緩やかだったので大怪我をしないで済んだようだった。
「大丈夫だよ」
スレイが無事で一応二人は胸を撫で下ろして緊張を解くが、そんな彼は滑り落ちた先を凝視していた。
「どうした?」
「いや、こっちに遺跡が・・・」
彼の言葉に二人はお互い首を傾げながら斜面を降りて行った。
二人が斜面を降りて合流すると、目の前には川が横切っており、その奥には遺跡がある。彼らはやむを得ず川を渡り、遺跡の近くに来た。
「なんだあれ・・・迷宮か?」
「小鬼どもがいなければ良いんだけどな・・・」
三人はライフルや拳銃、銃剣を構えて遺跡内へと入っていった。
遺跡内に入った彼等は、近くにある松明を手に取って、それに火をつける。遺跡内はそれ程大きく無いのか、1本の松明でだいぶ明るくなった。
「ダンジョンでは無いようだな。」
「ただの遺跡ってだけか?」
「おい、何かにおわねぇか?」
ジョッシュが遺跡内に広がるにおいを指摘する。他の二人もにおいを嗅いでみると確かに臭い───嗅覚を刺激するほど不愉快な臭いだ。
「これは・・・糞の臭いか?」
ヴィルトが苦虫を噛み潰したように渋い顔をして言った。辺りをもう一度照らしてみると、その原因はすぐに分かった。
スレイがある所を見ると、そこには子供一人分の大きさはある排泄物と動物の骨が集まって落ちている。その周りには白い毛が落ちていた。
此処にいたのは人では無い───彼等は直感した。
「・・・逃げよう」
「・・・そうだな、此処にいるのは恐らく肉食の何かだ。奴が巣に戻って俺たちが来たらお終いだ」
彼等は遺跡から出ていく事にする。あそこを根城にしていた存在が気になるが、気にしないようにしていた。
そして夜戦訓練最終日───この日は訓練所に帰る日で、五人はテントを片付けてその場を元の状態に戻した。
訓練所に戻った候補生達は教官らに出迎えられ、自分達が帰ってこれた事を実感した。
怪我をしたり病気になったりした候補生もいたが、幸い命を落とす事も無く、皆五体満足で帰還できた。
しかし、帰還中に"ある話"をスレイ達は聞いてしまう。それは『白い熊のような魔物と遭遇しかけた』という話で、身長は大きく、獰猛な爪を持っていたと聞いた。
確かに、遺跡に落ちていた白い毛がその"白い熊のような魔物"の物かは分からないが、関連性は疑うべきだとスレイは思っていた。
「クレイグさんには伝えたから安心だけど、不安だな・・・」
「まぁ、そんなに獰猛そうな魔物がいたって事は結界に綻びが出来ちまっているって事になるから、王国からの視察はありそうだな」
心配そうにするスレイに、ジョッシュが左肩を叩く。
「大丈夫だって、もしその魔物が出たとしても王国と銃士隊の敵じゃないだろ」
「それもそっか・・・」
自分が考えて不安になっても意味がない、そう思ったスレイはその事について考えるのをやめた。
五人が歩いていると、バートンが目の前にやって来て、彼等は教官に敬礼した。
「バートン教官、ただいま帰還しました!!」
五人の威勢の良い挨拶に驚く彼だったが、取り乱さず冷静に話を始めた。
「野戦訓練ご苦労だった・・・お前達に頼みがあるのだが、良いか?」
「頼み?」
敬礼の体勢を解き、ジョッシュが彼に訊いた。
「ああ、お前達は候補生内の部隊で1番成績が良い───それを見込んでお前達には王国銃士隊と競い合ってほしい」
「えっ・・・?」
彼等はその言葉を聞いて呆然としてしまった。
あともう少しでこの章が終了するので、少しでも見ていただけたら嬉しいです。




