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頼りになる仲間

 光に照らされた空間の中に数人の男が立っていた。

 それぞれ剣や短剣を装備しており、その瞳に宿る鋭い眼光がただの一般人のそれではない。もっとも、閉鎖されていたはずの洞窟の奥にいる時点でまともな人間ではないことは確かだが。


「――何だてめえら」


 アルスに気づいた男の一人が大股歩きで近寄ってくる。予想通りというべきか、友好的ではなく威圧的な態度だった。


「俺たちは冒険者だ。領主ベルラウムの依頼を受けてこの場所を調査しに来た」

「冒険者だぁ……?」


 男の視線がアルスの胸の冒険者証に向く。それからレン、フュリアへと流れた。


「あんた達は何者だ?こんなところで何をしている」


 アルスの質問に男は答える素振りを見せない。目付きが鋭くなり、あからさまな敵意が滲み出される。それに呼応するように他の男たちも集まり始めた。

 その数は五人。


「おい、質問に答え――」

「――残念だが、てめえらをここから帰すわけにはいかねえ」


 男は短剣を抜く。それを合図に他の男たちもそれぞれ武器を抜き、いくつもの金属音が重なって響いた。


「くっ、問答無用か……!」


 アルスは後ろに飛び退く。レンもフュリアも同様に距離を取った。


二星(デュアル)二人に三星(トライ)が一人か。てめえら一人も逃がすんじゃねえぞ!」

「……よく見ればかなりの上玉が二人もいるじゃねーか。あの女どもは良い値がつきそうだ。どうせなら捕らえて持って帰っちまおうぜ!」

「ああ、そりゃいい。顔は傷つけんなよ!価値が下がっちまうからなぁ!」


 男たちのねばついた視線を向けられ、レンとフュリアは顔をしかめる。


「……この人達が何なのか、分かった気がするよ。いつの時代もこういう人の考える事は変わんないね」

「……だな。先に抜いたのは奴さんだ。構うこたァねェ、さっさと黙らせんぞ」


 レンとフュリアもそれぞれ得物を抜き、戦闘態勢をとった。


「確かに。話ができる相手じゃなさそうだな」


 最後にアルスが剣を抜く。

 それが開戦の合図となり、初めに短剣を抜いた男が地を蹴った。


「しゃあっ!」


 踏み込みからの刺突。心臓を狙った一撃を、アルスは体を捻ってかわす。

 初手から情けも容赦も無い即死の攻撃を加えてきた。それは全身から滲み出ている殺意が本物であることを示している。()()()にならないであろうアルスに限っては、だろうが。

 アルスは刺突してきた男の腕を掴もうとする。武器を落とさせて無力化させるのが狙いだったが、すぐさま男が腕を引いたことで失敗に終わった。

 すぐに次の攻撃が来る。今度はアルスの横腹を狙った横薙ぎである。しかしそれもアルスが体を引いたことで空を切った。


「チィッ!」


 男は舌打ちをし、表情が歪む。対するアルスは冷静に次の動きを見る構えを取る。


 戦いというのは考えなしに武器を振っているだけでは優位に立てない。持っている武器、道具、技能(スキル)、魔法、戦術――あらゆる要素が勝敗に絡んでくる。

 それらの中で、相手がどんな手札を持っているかを見極めることは重要だ。余程の実力差が無い限りはどれだけ相手の手の内を読めるかが勝敗に大きく影響する。それは人が相手でも魔物が相手でも同じである。

 そして、その“相手を読む力”を培うには経験がモノを言う。

 今アルスと退治している男も、数多くの命のやり取りを経験していることだろう。相手を仕留めることに対する抵抗を全く感じない。


 だが、アルスもまた多くの修羅場を潜り抜けてきた。

 そう――五百年前の魔王大戦で。


(戦いの経験値だけなら自信あるからな。……もう一度突き、今度は足狙いか)


 男が一瞬だけ見せる構えと刃の向きを見て次の攻撃を判断し、アルスは掬い上げるように剣を振り上げる。剣と短剣がぶつかり合う甲高い金属音が鳴った。


「ぐほっ……!?」


 攻撃を上に弾かれ、隙だらけになった脇腹に蹴りを入れられた男は、蹴られた部分を押さえつつ下がる。

 アルスは呼吸を整える暇を与えず剣で追撃する。男は短剣でそれを受け止めようとするも、蹴られた影響だろうか腕に力がうまく伝わっておらず、攻撃の衝撃を受け止めきれずに短剣が弾かれた。

 短剣はくるくると回転しながら固い洞窟の地面に落ち、二転三転する。


「くっ!」


 男は急いで短剣を拾おうと身を翻し地面に腕を伸ばした。

 ――だが短剣は男の手に収まる直前、再び弾かれたように飛んでいってしまう。

 男は目を見開く。短剣が飛んでいったのは何者かに蹴り飛ばされたからだと気づいたのはその直後だった。


「落としもんは見つかったかい?」


 おどけた声が男の頭上から降り注ぐ。短剣を蹴り飛ばしたフュリアが、男の前に影を落とすように立っていた。

 その後ろには既に倒れた男の仲間が二人。一人は焼け焦げており、一人は叩きつけられたであろう壁に寄りかかるようにぐったりとしている。

 フュリアの口角が吊り上がったのを見た男は反対方向に逃げようと体を反転させ――再び目を見開いて動きを止めた。


 そこにいたのはレンだった。

 その後ろにはフュリアと同じく倒れた男が二人。

 あどけない顔をしながら一瞬の間に二人を斬り伏せた目の前の少女に恐れを抱いたのか男は一歩下がるが、後ろにいるのはフュリアである。

 挟まれた男に逃げ道など無かった。

 絶望に顔を青くする男の頭を掴み、フュリアは無理やり自分の方へ向けさせる。

 そして何をするかと思えば――


「そら……よっ!」


 強烈な頭突きであった。

 ゴンッと鈍く痛々しい音が洞窟に響き、男は声にならない悲鳴をあげ、崩れるように倒れた。


「うわ、痛そう……頭突きってそんな……」


 驚いたような呆れたような声を漏らすレン。


「カッカッカ、何だかんだでこれが一番効くんだよ」

「そうかもしれないけど……女の子がやるにはちょっとお転婆すぎるっていうか……」

「あん?知らねェよそんなもん。女らしいしおらしさなんてモンはとっくの昔に煙管の煙と一緒に吐き出しちまった」

「とっくの昔って、一体いつから煙管吸ってるのさ」

「あー……忘れちまった。少なくとも十になる前からだったはずだが……」

「早すぎだよ!お酒と煙管は二十歳を過ぎてからじゃないの!?」

「そりゃ人間の話だろうが。あたしは土精(ドワーフ)だぞ?土精(ドワーフ)は八歳から酒も煙管もオールオッケーなんだよ」

「え、えぇ……本当かなぁ……?」


 襲いかかってきた暴漢をものともせず、まるで戦いなどなかったかのように会話する二人に、アルスは溜め息をつく。それは感嘆の意味を込めたものだった。


「頼りになる仲間がいてくれて助かるよ、本当に」


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