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後編

   

 夕方までに、さらに何度かゲイラグの集団と遭遇した。

 他に、ゼリンマという低レベルのモンスターも現れたが、こちらも簡単に始末。ちなみにゼリンマは、見るからにぷよぷよとした不定形のモンスターであり、色が赤だったり青だったり緑だったり……。俺は心の中で、勝手に『スライム』と呼ぶことにしている。

 先ほど、俺自身の肉体に関して「この世界では体が軽く、ジャンプ力も凄まじい」と説明したが、それだけではなかった。なぜか、妙に疲れやすいのだ。いや、より具体的には、息切れしやすい、というべきだろうか。

 別の世界から招かれた勇者であっても無双はさせない、というこの世界の意思を感じる。大丈夫、これくらいの方が、古き良きファンタジー小説のようでバランスがとれている、と俺は納得していた。

 もしかすると、ただ単純に、俺が暮らしている辺りの標高が高く、酸素が薄い、というだけかもしれないが。

 どちらにせよ。

 この点に関して俺は、ここで体を動かすのに向いていないので、いつも夕方早めに、怪物狩人モンスター・ハンターの仕事を切り上げることにしている。

 今日も俺が帰宅したのは、まだフェリーネさんが夕食を作り始める前だった。


 夕食の後、浴室で一日の疲れを洗い流す。この世界に風呂が存在しないのは残念だが、魔法式の湯沸かし器を利用したシャワーがあるのは、不幸中の幸いといえるだろう。

 こうして今日も、無事に一日が終わった。この世界の神様に感謝しながら、俺は就寝する。


 小さい頃、俺は読者が好きだった。でも好きな本の種類は偏っていた。

 まずSF小説は、もう科学的な設定の時点で「そんな小難しい理屈、いらねえよ!」と思ってしまうから嫌い。

 推理小説は、終盤まで読んだ時に「そんな真相わかるかよ」とか「うまく作者に騙された!」とか思うから嫌い。

 歴史小説は、小説を読んでいるのではなく、歴史の勉強をさせられている気分になるから嫌い。

 ホラー小説は、怖いから読めない。恋愛小説は、他人の惚れた腫れたの何が面白いのか、わからない。いわゆる文学作品も、展開が地味で退屈。

 そんなこんなで結局、俺が読むのは、ファンタジー小説ばかりだった。自由気ままでワクワクするような、空想の世界を楽しんでいた。

 この世界では、あまり『読書』という文化自体が広まっていないが……。でも、ここは異世界。世界そのものが、まるでファンタジー小説なのだ。こんな世界に来ることが出来た俺は、とても幸せなのだと思う。


――――――――――――


 ベッドの中で、すやすやと眠る一人の少年。

 彼は、ここを『ファンタジー小説のような異世界』と思っているようだが……。

 幸か不幸か、彼は知らなかった。

 ここは異なる世界ではなく、地球と同じ宇宙に存在する、遠い遠い惑星の一つに過ぎない、ということを。

 大気の組成や重力などが異なるのも、ただ単に別の星だからに過ぎない、ということを。

 大好きなファンタジー小説よりも、むしろ嫌いだったSF小説の世界だ、ということを。




(「七つの月に照らされて」完)

   

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