7話
「わかったわ。」
そう言ってシイナさんは微笑して2階に残りの服を置きに行った。
それと入れ違いにジイタさんが部屋へ入ってくる。
「うむ、それならまあ大丈夫だろう。」
「ありがとうございます。」
私は元々人間な訳では無いため、服の着方も初めてだったから少し不安だった。
そこでふと私は気がついた。
そう言えば、まだジイタさんたちに自分が猫だったことを言っていない。
いいのだろうか…。
そう思っていると、シイナさんが今度は箱を持って来た。
「ドレスだけでは少し物足りないでしょう?」
そう言って箱を開いて私にみせてくれた。
「わ…。」
私は初めて見るそれにとても心惹かれた。
大きな宝石の付いたネックレスや指輪、イヤリング、ブレスレット。
おばあさんはおじいさんに貰ったという指輪以外はほとんど装飾品をつけない人だったので、私はアクセサリーとはほぼ初対面だった。
しかも、こんな大きな宝石…
「もしかして…ジイダさんのお家って…お金持ちだったりします…?」
そう私が思わず聞いてしまうと、ジイダさんは笑った。
「そんなわけはなかろう。あんたのいた所じゃあ宝石は珍しいのかい?」
「そ、そうです。こんな大きな宝石はお金持ちの人しか持ってないです…しかもこんなにたくさん…。」
きっと、私が目を輝かせていたのだろう。
シイナさんがふふっと笑って私に一つのネックレスを着けてくれた。
「凄い…綺麗な色ですね…。」
「あなた、肌が白いから淡い色よりこの深い色の方が似合うわ。」
「こっちなんてどうかしら。」なんていって、シイナさんはどんどん私にアクセサリーを着けてくれる。
その様子を見ていたジイダさんが笑ってシイナさんに
「時間が無いんじゃあなかったかシイナ。」
と、言った。
そこでシイナさんはピタリと動きを止めた。
「シイナ、お前少し楽しくなっていたじゃろう。」
そう少しニヤニヤしながらジイダさんがシイナさんに聞いた。
「私、働いている場所にも同じ年頃の女性がいないから、柄にもなく少し浮ついてしまったみたいだわ。ごめんなさい。」
そう言って私を覗き込んで笑った。
さっきまでは知的そうで厳しそうなイメージだったけれど、この人もやっぱり可愛いもの、綺麗なものが大好きでお話も大好きな普通の女性、いや。女の子なんだなと思った。
「いやいや、私もこういう経験は初めてなんで…楽しかったから全然大丈夫です!」
ちょっと嬉しくなってしまって上機嫌で答えると、シイナさんもジイダさんも笑ってくれた。
「そろそろ出ましょうか。」
そう言って、シイナさんが大きめのバッグを持ち上げてジイダさんを見た。
「あぁ、馬車の準備はもう出来ておるから大丈夫じゃよ。」
そして、私は部屋を出た。
そこにはさっきまで部屋にいた人達がちらほらといるのが見えた。
状況を知っているのか、察しているのか、
みんな私が隣を通ると「行ってらっしゃい。」「頑張ってね。」と声をかけてくれた。
なんて心優しい人達なんだろう。
地球で久しく触れていなかったその温かさに触れて、私はなんでか分からないけど少し涙が出そうになった。
そして、玄関についたらシイナさんが私にコートを渡してくれた。
「ここは暖炉で暖かくなっているけど、外はとても寒いから来た方がいいわ。」
私はコートに袖を通して、シイナさんが用意しておいてくれたのだろう。
元々履いていた茶色の薄汚れた靴から、ドレスに合ったパンプスに履き替えた。
そう言えばここの世界は家の中を靴で歩く世界なんだなと思いながら、履き替え終わってスクッと立つと、少しよろけてしまった。
元々猫だったから靴なんて履く機会はないし、その上パンプスのようにヒールが入ったものを履くのももちろん初めてだった。
きっと、このパンプスはヒールが低いものだが、それでも私には相当な違和感だった。
先に玄関の外へ出ていたジイダさんが、「もういいぞ。」と言ってくれたので、私とシイナさんも外へ出た。
そして、出る前にくるりと後ろを振り返り、見送りに来てくれた人達に、少し恥ずかしいけれど、「いってきます。」とってぺこりとお辞儀をした。
「行ってらっしゃい。」
その声を聞いて、私は安心して外へ出た。
風が吹き付けて外はとても寒かった。