6話
「えっ、ちょ、ちょっと待ってください。」
そう言って私は追いつかない頭で状況を整理し始めた。
まず、ここは地球でも日本でもない、スピギアル王国という場所のカイル村。
そして、私はそこに『召喚』された異世界人で、魔力を持っている。
その魔力は対話の魔力で、その魔力は数ある魔力の中でも『希少魔力』と呼ばれている『解読属性』というもの。
その『希少魔力』を持っているものは王城に出向かなくてはならない。
ざっとこんな所だろうか…あまりにも馴染みないことが多すぎてまだ混乱はしているが、少し落ち着いてきてふと疑問が湧いた。
「え、じゃあ、私は王城に行かなくては行けないんですよね?」
「ええ、そうよ。王城はここから馬車で8時間だからそう遠くはないわ。
あなたが倒れていた森を抜けた所にある城下町を抜けてすぐの場所にあるの。」
「え、馬車!?!?8時間!?!?」
「ええ、何かおかしいことでも?」
いやいやいや、私はこの世界に来て、起きてから多分1時間も経っていないだろうけど、それでも相当ここは西洋っぽいとは思ってたけど…馬車って何時代よ!?!?
しかも8時間!?!?
こっちの人の時間感覚はそんなにゆったりなの!?
猫だった私でも8時間は相当長いぞ!?
「早速で悪いのだけれど、本当にすぐに王城に向かわなくては行けないの。
だから今私が貴方の衣類などを準備したらすぐにここを出るわ。」
「えっ!!?今ですか!?」
「ええ、まだ疑問があるのなら馬車の中で話すわ。お父様、いいですよね?」
「ああ、構わん。お前の前来ていた服は2階に置いてある。」
シイナさんは無言でこくりと頷いて部屋を早足で出ていった。
「え、あの、私まだよく分かっていないんですけど…」
そう、ジイダさんに言うと
「そういう決まりなのじゃよ。わしもあんたがよく理解していないのは分かっておるが、決まりだから連れていかなくてはならんのだ。すまんな。」
そう言って申し訳なさそうに眉を八の字に曲げた。
そんな表情をされてしまっては、何も言えなくなってしまうではないか…。
そう思って私は口を閉ざした。
程なくして大きなカバンと洋服を数着持ってシイナさんが戻ってきた。
「お父様、少しだけ出て貰えますか?」
「ああ、わかった。」
そう言って出ていったジイダさんを見送ると、シイナさんは私に1着の服を渡した。
「これは私が前に着ていた服よ。サイズが合うか分からないから1度着ていただけないかしら。」
そう言って差し出されたのは深い緑色に金色の刺繍が胸元に施された、いかにも高そうなワンピースタイプのスラリとしたドレスだった。
「え、これ着るんですか…?」
「ええ、王城に出向くにはあなたのその服装では…」
そう言ってシイナさんは苦笑いした。
鏡などがないから自分で全部を見ることは出来ないけれど、改めて自分の体を見てみると、しっかり人間で、少し薄汚れているワンピースを着ていた。
異世界に来た、ということもとにかく謎なのだが、それ以上に自分が人間に変わっているという事実が何よりも受けいられていなかった。
無言でドレスを受け取って、昔おばあさんがしていたように私はドレスに着替えた。
その間、シイナさんはくるりと後ろを向いていてくれていた。
「着れました。」
そう言うと、シイナさんは振り返り、少しだけ笑みを浮かべながら
「あなたの目の色に合っていてよく似合っているわ。」
と、言って近くに置いてあった折りたたみ式のアンティークな鏡を広げてみせてくれた。
そこで私は初めて人間としての自分と対面した。
鎖骨まで伸びている黒い髪に白い肌で、シイナさんが言うようにドレスの色と同じ目をしていた。
自分は、人間なのだと再確認して、その事実に言葉を失っていると、シイナさんはパタンと鏡を閉じた。
「そのサイズで大丈夫そうね。
なら、この中でどれか気に入るものはあるかしら。」
そう言ってシイナさんは薄いピンク色や濃い青色などの同じようなタイプのドレスを数着私にみせた。
それを見て、うーん、と私は唸った。
「いや、この色にします。」
そう言って私は自分の来ているドレスの胸元を少しつまんだ。
出されたドレスの中では少し地味な方だったけれど、私には一番輝いて見えた。
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