5話
「あ、あの…?魔力って…どういうことです?」
私は焦りを隠さずにジイダさんに言う。
「まあそんなに焦らんでいい、ちゃんと説明する。長くなるが、聞いてくれ。」
「あ、ありがとうございます…。」
と、その前に…とジイダさんは周りを見て言った。
「ここから先の話は悪いが皆には聞かせることができん。お前には残ってもらわなきゃならんが、皆は元の仕事にでも戻ってくれ。」
その言葉に反応して、お前と呼ばれた知的な女性以外の人達は、一礼して部屋を出ていく。
え、これからそんなにまずい話するの…?と。いうかあの女性は何者…?
きっと私の顔が不安一色になっていたのだろう。ジイダさんは「心配せんでいい。」と言ってほんの少しだけ表情を柔らかくしてくれた。
「まず、この世界はチキュウと呼ばれるお前さんの元居た世界とは全く別のところでな、わしらが住んでいるのは、スピギアル王国のカイル村という場所なんじゃよ。
この王国には大小さまざまな村や街があるが、ここはいわゆる田舎と呼ばれている場所じゃ。
田舎ゆえにこの近くには森がある。あんたはそこに倒れてたってわけだ。
そこにたまたまここの村民が通りかかったのじゃが、そこで会えていなかったらあんたは今頃凍え死んでたじゃろうな。」
「ひ、ひえ…ありがとうございました…。」
ジイダさんはこくりと頷く。
こ、凍え死ぬ…って、ここどんだけ寒いのよ…。
というかちょっと情報量が多いぞ…。
私がそう思っていることはおそらくジイダさんは気が付いているだろうが、それに気が付かないふりをしているのか、話を進める。
心なしか、少し急いでいるような気がする。
ジイダさんはゴホンと咳払いをして話を続ける。
「まあ、それは置いておいて、この王国についてちょっと説明しようかの。
そこら辺の話はこいつの方が分かりやすいじゃろう。」
そう言ってジイダさんは先ほどの知的な女性に向かって「説明を頼む。」と言った。
知的な女性は先ほどのジイダさんと同じようにこくりと頷き、口を開いた。
「娘のシイナです。王城の近くで薬草の研究員をしています。」
「えっ!?あっ、かぐやです。」
王城?!研究員?!え、なに、娘?!
いやどうりで動作が似ているわけだ。目つきの鋭さも良く似ている…なんて口が裂けても言えなそうだけど…。
「シイナは週末になるとこの村に帰ってきているのじゃが、普段は王城に薬を提供する研究所に勤めているんじゃ。この王国についてはこいつの方がわしなんかよりはずっと詳しい。」
シイナさんはまた無言でこくりと頷いた。これはこの親子の癖なのだろうか。
「本題に入るのだけれど、この王国…いや、この世界には稀に異世界から人間が転移してくることがあるの。この王国ではそれを『召喚』と呼んでいて、その『召喚』された人間のことを『異世界人』というわ。」
「ほ、ほう。」
きっと、シイナさんも私の頭が混乱しているのには気が付いている。
しかし急いでいる。なぜだ…。
「その召喚がされる条件はわかっていないのだけれど、異世界人は必ずと言ってもいいくらい何かしらの魔力を持っているわ。これは私のいる研究所が調べた情報なのだけれど、この王国に召喚された人は確認できている限りで6人。そのすべての人間が魔力を持っているわ。
そして、あなたは7人目の異世界人。当然あなたも魔力を持っている。」
「魔力…ですか。」
「そう、この世界には少数だけれど魔力を持っている人間がいる。その魔力の中にも珍しさの度合いがあるの。私の同僚も魔力持ちなのだけれど、それは水を作り出せる魔力。通称生産属性と呼ばれている部類のもの。魔力の中じゃよくある比較的ランクの低いものなの。」
いや、なんだそれ、結構便利だしすごい能力なのにランク低いのか…。
「ほかにもいろいろな魔力があるのがけれど、その中にも希少な魔力があるの。
大きく分けて2つ。心理属性と解読属性があるの。」
シイナさんはそこまで一気に話し切ると、ふっと息を吐いた。
それにつられて、私もいつの間にか緊張していたらしい体の力が抜けた。
そして、シイナさんがもう一度私と目を合わせた。
その瞬間、纏う空気感が一変した。
「あなたは、恐らく解読属性の魔力。
対話の魔力を持っているわ。」
「え、」
「先程言った、希少魔力よ。理由は簡単。貴方は異世界人にも関わらず、使用言語が違うはずの私達と普通に会話ができている。
その上、あなたは専門の勉強をしていなければ解読困難な古書を軽々朗読して見せた。それが理由よ。」
いや、え、何さっきのやつは魔力があるかのテストだったの!?と、軽く驚いていると、さらなる爆弾を落とされる。
「そして、これが一番重要なのだけれど、希少魔力持ちの方は、すぐさま王城に差し出さなくてはならないの。
もちろん、あなたも例外ではないわ。
異世界人とあらば尚更よ。」
「どっ…え、え!?!?」
…大変なことになってしまったかもしれない…。
そう頭ではわかっているのだが、何より状況が状況だ。
こんなドタバタ展開、元猫で自由気ままに暮らしていた私にはあまりにも異質すぎて全く頭が追いつかなくなってしまっていた。
色々情報が出てきましたねええええ!!
(なぜ私が興奮しているんだ。)
ここから、やっとここから物語が動き始めます!!
次回もお楽しみに!!!