2話
施設を抜け出したはいいが…さて、これからどうしようか…?
考えなしに抜け出してしまったせいで何も考えておらず、とにかく歩くしか私に選択肢は残っていなかった。
正直後悔はしていない。
施設にいるくらいなら、ふらふら歩いている方がましだ。
そんなことを考えながら暗闇の中を歩いていると、やっと街灯のある公園を見つけた。
明るい場所を見つけて無意識に安心したのか、いきなり眠気が襲ってくる。
それもそのはず、いつもならとっくに寝ている時間だ。
しかし、寝るところがなければ寝られないなと思い、公園を歩き回ったがめぼしい場所も無く、別の場所を探そうと思い近くにある木の上に登った。
高いところの方がいい場所が見つかるだろうと思い、辺りを見渡す。
その景色は、今まで真夜中の世界に触れることがなかった私にとって、絶景ともいえる景色だった。
思えば私は、生まれてから今日まで、真夜中に外にいたことなんて一度もなく、必ず家の中でおばあさんとともに眠っていたのだ。
真夜中の世界もいいものだな、なんて思ううちに眠気なんてどこかへ吹き飛んでいた。
しばらくその景色に見とれていると、私は空から射す一筋の光を見つけた。
月明りだ。
その光を見た瞬間、私の心は震えた。
この世の中にはなんて美しいものがあるのだろう、と私の心を掴んで離さない。
光の射す場所に行きたい、行かなければならない。そう直感的に思った私は木の上からためらいなく飛び降り、走り出す。
光に向かって走っていると、なぜかおばあさんと過ごした日々の思い出が頭に次々と浮かんではすぐに消えた。
夢を見ているような気分になって、どこまでも走っていける気さえもしていたが、目的の場所には思っていた以上に早くたどり着いた。
川に光が射している。
ゆらゆらと揺らめいているそれを見て、近づきたいと思ったが、私は水がとても苦手だった。
おばあさんが前に、私に水をかけてくれたことがあったが、どうにもそれが怖かった。
しかし、その場に立ち尽くして光を見ているうちに、恐怖心が和らいでいくのを私は全身で感じる。
そして、さっきも私は「行かなければならない」という謎の衝動によって光に向かって走ったが、今回も同じような気持ちが沸き上がっている。
私は光に吸い寄せられるように川の水へと足を入れた。
一瞬、恐怖心がよみがえるが、かまうことなく足を進める。
川の流れは穏やかで、深さもとても浅いが、私は慎重に、ゆっくりゆっくり進む。
光の目の前までたどり着いたとき、おばあさんの声がよみがえった気がした。
「お前は大丈夫だ。」
そう聞こえた気がした。
その声に背中を押されるように光へと足を踏み入れる。
光の中に自分の身体が入り切ったその瞬間、私の身体は光に包まれた。
一瞬、月明りに照らされているからだと錯覚したが、そうではないのだ。
自ら光を放っている。
そう気がついたときには、もう私の身体は消えかかっていた。
慌てて月明りから抜け出そうとするが、全く身動きが取れない。
しかし、温かな光に包まれて、心地よい気もしている。
身体が消えてゆくとともに、だんだんと意識も遠のいていく。
私は、身体が完全に消えるその瞬間、自ら放っている光の結晶のようなものが見えた。
そうして私は意識がなくなり、暗闇へと吸い込まれるように眠りについた。
次回の更新は、一週間後の10月20日の10時です!
週一回の更新になります。よろしくお願いします!
ps.誤字がありましたので編集しました!
内容に変更はありません! 2019.10.14