1話
猫である私にとって、最大の幸せは心優しいおばあさんに引き取ってもらえたことだと思う。
私は、『写真映え』が重要視されるこの世の中では引き取り手が見つかりにくい、黒猫として生まれた。それに、黒猫は昔から魔女の使い魔という風に言われていたらしい。
そんな猫を飼いたいなんて思わないのだろう。
一緒に生まれた黒猫ではない兄弟たちは次々と引き取られていく中、私は一匹取り残されてしまった。
母親の飼い主であるおじさんも私が残ってしまったことに困り果てた顔をしていたが、そこへたまたま、のちに飼い主となる優しいおばあさんがおじさんの家に来てくれた。
「あらまあ、かわいい子じゃないか、どうしたのこれ。」
と、おじさんに話しかけるおばあさんの目は、輝いていた。
「一度でいいから私、生き物を飼ってみたかったのよね。」
そう言って、私を引き取ることを決めてくれたおばあさんは、その日からずっと愛情を注いでくれた。
なんでも、おばあさんは最愛のご主人を亡くしたばかりで、一人家にいるのが寂しかったのだと話してくれた。
お前はおじいさんの生まれ変わりかもしれないねえ、なんて笑って言ってくれた。
たくさんの愛をくれた。
おばあさんと過ごす一日一日がすごく輝いていて、大切な日だったけれど、私には特に忘れられないことがある。
「お前の名前はなあ、かぐやにしよう。」
「お前はね、真っ黒だからすーぐ夜に紛れちまうんだよ。誰にも見えなくなっちまう。
だからね、お前はどうしようもなくなったときは、光を探すんだよ。
かぐや姫もなあ、竹が光ってたからおじいさんが見つけてくれたんだ。
おまえも、そうすればきっと、誰かが見つけてくれるよ。だから、かぐやだ。」
おばあさんはニコニコしながら私を撫でて言っていた。
おばあさんが、名前を付けて連れたあの日を、私は一生忘れることなんてできないと思う。
しかし、幸せはそう長く続かなかった。
おばあさんは私を引き取ってくれてから一年後、静かに亡くなった。
おじいさんと長年過ごした家で、一人亡くなったのだ。
おばあさんは毎日のように買い物に出かけたり、近所の人と話したり、人との繋がりや縁を大切にする人だった。
そんな人だからなのだろう。
おばあさんの姿を見かけずに心配した近所のがおばあさんの家に来てくれたから、亡くなってからすぐに気が付いてもらえた。
猫の私がもし人間だったら、もっと早く知らせらせていたのかもしれないし、助けられたかもしれない。
ただ鳴くことしかできない無力な自分が嫌だった。
おばあさんの亡くなったあと、私は一度おばあさんの一人息子の家に引き取られた。
しかし息子夫婦の子供がまだ小さく、私に手をかける時間も体力もなく、すぐにほかの親戚の家に引き取りをお願いしたが、どこにも引き取ってもらうことはできず、結局施設に引き取ってもらうことになった。
施設での毎日は苦痛だった。
愛情なんてものはなく、ただご飯を食べて寝るという単純作業を繰り返すだけの日々が続いた。
そんな日々に嫌気がさして脱走する猫もいた。
私の中ではおばあさんとの思い出が光り輝きすぎて、施設での生活がどうしても暗く、よどんだものに思えて仕方がなかった。
そうして今日、私はほかの猫たちのように施設を脱走した。
初めまして、霞夜アキです。
私の初投稿作品を読んでくださって、ありがとうございます。
学生のため、更新速度は週に一回と遅くなってしまうのですが、
物語を楽しんでいただけるよう頑張りますので、応援していただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
今日は14時にもう一話更新しますので、よろしくお願いします!