神への貢ぎ物[1]
「さっき言った通りこの森には私達狐族の村があるのですが、最近良く魔物に襲われるようになったんです」
「昔から森での災いは〈神秘の洞窟〉に居る守り神様のお怒りだと言い伝えられてきました」
「そこで何とかお怒りを静めて貰おうという事で村から1人生け贄として捧げるって事になったんです...」
そこまで言うとクイナは俯いて黙り込んでしまった。
「........」
「その生け贄ってのがお前って事か?」
「...はい」
「何でお前なんだ?」
「...生け贄は村で若い者の中から投票によって決められるのですが、私には家族が居ません。ですので村の皆が私に投票したんです...」
「成る程な....」
「それで?」
「えっ?」
「いや、だからお前はどうしたいの?」
「どうって言われても...」
「大人しく生け贄とやらになるのか?」
「........」
「お前はどうしたい?生け贄になりたいのか?それとも他に何かあるのか?」
「..........」
「単刀直入に聞くぞ」
「お前は生きたいか?」
「...ぃです..」
「良く聞こえないな」
「生きたいです!!」
「良し!その願い、確かに聞き入れた!」
「俺は受けた恩は返す。さっきのお前が教えてくれた情報は俺にとってとても役に立った。」
「ならば今度は俺がお前のその願いを叶えてやろう」
「その〈神秘の洞窟〉とやらに案内しろ」
「でも...洞窟へ行ってどうするのですか?」
「決まってんだろ?その守り神とやらをぶっ殺すんだよ」
「?!」
「だっ、駄目ですよ!この森の守り神様なんですから!それに守り神様に勝てる訳ありません!」
「そいつは神なんかじゃねぇよ」
「えっ..?どういう事ですか?」
「神は生け贄なんてしょうもない貢ぎ物なんか受け取らねぇんだよ。だからそんな物受け取ってる時点で神じゃねぇ」
「いやでも...」
「実際に見た方が早い、さっさと案内しろ」
そう言うとラズルは歩き出した。
「あっ!待ってください!」
「良いから早く案内しろって....」
「いや...そっちは真逆です....」
「........」
「それをもっと早く言えっての!ほら!行くぞ!」
堂々と道を間違えた恥ずかしさを誤魔化しながら、ラズルは急いで逆の方へと進み始める。
「....ふふふっ、本当におかしな人」
クイナから先程の暗い雰囲気は綺麗サッパリ消えていた。