転移[3]
「はぁ..はぁ...はぁ....」
森の中で1人の少女が狼の群れに追われていた。その少女の顔は今にも倒れ込みそうな程の疲労が浮かんでいる。
「このままじゃ..洞窟に着く前に...!」
「....あっ!」
少女は木の根に足を取られ転んでしまう。そんなチャンスを見逃してくれる程狼も甘くは無く、身動きの取れない少女へと飛び掛かる。
「っっ!」
目を閉じ、諦めた瞬間目の前から凄まじい音が鳴り響く。
バゴォォォン!!!
思わず目を開けるとそこには頭部を失い倒れ込んでいる狼と1人の青年が立っていた。木々の間から溢れる光で純白の髪が輝いている。その姿はとても神々しく、少女はあまりにも美しい姿に目の前に神が現れたのではないかと錯覚していた。
「後4匹か」
そう呟くと青年の姿は消え、先程の様に凄まじい音が鳴り響く。気付いた時には既に自分を追い詰めていた狼達の姿は無かった。
「えっ?えっと...」
「大丈夫か?」
「え?あっ!は、はい!」
「にしても神力の補正で手応えが無ぇなぁ....最低限強くもなっただろうしそろそろ止めるか」
そう言いながら狼達の死体を【収納箱】へ入れる。
「あの..あなたは...?」
「ん?俺?俺はただこの森で遊んでただけ」
「この森で遊ぶ?!」
「え?何かまずかった?」
「今この森は魔物達が異常発生していてとても危険なんです!」
「あー、そう言えばさっきお前を追ってた奴と同じのが30匹位出てきたな」
「バトルウルフが30匹?!良く逃げられましたね...」
「いや、全員ぶっ倒したけど?」
二人の間に静寂な時間が流れる。
「..........」
「..........」
「冗談ですよね?」
「いいえ、本当です」
「..........」
「..........」
「ええぇぇぇぇぇ!!!」
「うおっ!うるせぇな!急にデカイ声出すんじゃねぇ!」
「いや!だってバトルウルフですよ?!」
「アイツらは強いのか?」
「当然です!単体であれば危険度Bですが、群れであれば危険度B+の魔物ですよ?!」
「悪いが危険度だとか言われても良く分かんねぇんだ。俺はこの世界の事全く知らないからお前に聞こうと思ってな」
「この世界..?」
「....あー、いやそこは気にしなくて良いから取り敢えず何でも良いから教えてくれないか?」
「状況が良く分かりませんが...取り敢えず常識を教えた方が良さそうですね」
「あっ!そう言えばお礼がまだでしたね。危ない所を助けて頂きありがとございます。私はクイナと言います!」
「俺はラズルだ。ところでクイナ、早速1つ聞いても良いか?」
「はい?何でしょう?」
「クイナって獣人ってやつ?」
「はい、この森に住んでいる狐族です」
顔はまだ幼く、身体も12歳程に見える。宝石の様に透き通った青い瞳、肩まで伸びたストレートの髪はサラサラと金色に輝いており、その上にピクピクと動く狐耳があり、腰の辺りからモフモフとした尻尾がユラユラと揺れていた。
「他にはどんな種族が居るんだ?」
「えっとですね...」
クイナの話によるとこの世界には人間、獣人、エルフ、ドワーフ、魔族などの様々な種族が存在すると言う。他にも魔物の危険度やこの世界での強さの基準である『闘力』の事など様々な事を聞くことが出来た。
魔物の危険度は下から順にF、E、D、C、B、B+、A、A+、S、S+となっているらしく、B+は結構強い部類である。
「成る程な、それでその闘力ってのはどうやったら分かるんだ?」
「本当に何も知らないで良くここまで生きてこれましたね...」
「自分自身の闘力は普通に見たいと念じればいつでも見る事が出来ます。他の人には基本見られる事は無いですが【鑑定】というスキルを使う事で相手の闘力を見る事が出来ます」
「闘力とはその名の通り純粋な強さの数値で、更に細かく見ると、武力、魔力に別れています。基本的に闘力が高い方が強いですが、武力と魔力のバランスやスキルによって変わってきます。それと....」
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「………と、こんな所でしょうか」
「...ん?あー成る程良く分かった」
「途中途中興味が無いところは寝てましたよね?」
「ネテナイネテナイ」
「まぁ良いです...ん?あっ!忘れてました...」
急にクイナから元気が無くなり、耳もペタンとなってしまった。
「何だ?」
「私行かなきゃ行けない所があるんです。その道中でバトルウルフに襲われてラズルさんに助けて貰ったんです...」