運命の人[13]
「っっっ!!!」
それは確かに今まで自分が憧れ続け、もう既に諦めた筈の言葉だった。
「い、今なんて....?」
突然の出来事にざわめく会場の雑音や、今さっきまで自分が殺され掛けた事など忘れさせる程の衝撃。アリアは最早目の前の王子様以外の他の事などどうでも良くなっていた。
「おや?聞こえませんでしたか?ふふっ、仕方ないですね。ではもう1度....」
「"あなたを攫いに来ました"」
未だに抱き寄せられた姿勢のままだった為、目の前に王子様の顔がある状態でのその言葉は、アリアの仮面を割るには十分過ぎる程であった。
「....ふふっ、演技だってバレバレですよ........それにその台詞、全然似合っていませんね」
突然腕の中に居るアリアにそんな事を言われ、王子様は少し驚いた表情をするとくつくつと笑った。
「ははっ、やっぱ自分の気持ちを隠し続けて来た奴には俺の演技なんか見破られちまうか!」
ローランだった者は一瞬の内に姿を変えると、会場に居る全員が見覚えの無い、しかし、アリアにとっては絵本の中の王子様以上に会いたかった人物.....ラズルの姿があった。
「ま、確かに俺にあんなくさい台詞は似合わねぇよな」
「むぅ...くさくなんかないですよ!あのちょっと格好付けた感じが格好良いんじゃないですか!」
ラズルの言い様に軽く頬を膨らませると、今までに見せた事のない明るい表情で言い返した。
「そうか....ならこんな感じか?」
「"俺はそっちの方が好きだぜ?お姫様"」
「やっぱ似合わないですね」
「文句を言うな。これでも結構考えたんだ」
「本当に全然似合わないです。けど....」
「最高に格好良いですよ....王子様」
ばつの悪い表情を浮かべていたラズルに、少し照れくさそうに顔を赤らめながらお返しと言わんばかりに囁いた。
「お前も人の事言えねぇじゃねぇか」
「王子様が私の仮面を壊しちゃったせいですかね♪」
「こちとらものを破壊すのは得意なもんでね」
「私の大切なものを壊したんですからちゃんと弁償....いえ、責任を取って下さいね?」
「じゃあ取り敢えずここを抜けたら、この前城下町で見つけた『呪いの仮面』ってのを弁償として買ってやる....よっ!」
「ひゃっ!」
ラズルは1度アリアをお姫様抱っこの形に抱き直すと、上で驚愕の表情を浮かべていたゲインの元へと跳んだ。
「....!」
それに気が付いたフードを被った者が直ぐ様ラズルに向かって短剣を突き出すが、当たる前に軽く神力を解放したラズルが殺気をぶつけるとそのまま気絶してしまった。
「....お前は一体何だ?名を何と言う」
ゲインはそんな光景を目の当たりにしたが、特にラズルに怯える様子もなくただ純粋に気になった事を聞いた。
「てめぇなんざに名乗る名なんて無ぇよ。強いて言うならただの誘拐犯だ」
「お前は〈カピタール〉の者なのか?」
「世話にはなってるがそれは違うな。ただ....」
「"てめぇがそんなに喧嘩してぇなら俺が相手してやるよ。国の全戦力だろうが何だろうが俺1人で全部ぶっ潰してやるからよ"」
「........分かった。こちらから〈カピタール〉へは何も手出しはしないと誓おう」
「....ま、俺も今日は可愛いお姫様を奪えて気分が良い、今回だけは見逃してやる」
「ありがたい。レイス殿には許して貰えるとは思わないが、深く謝罪をした後に必ず無事に帰すと約束しよう」
ゲインの目を見てそれが嘘ではないと判断したラズルは、アリアを抱えたまま式場を去って行った。
「..........アレは一体何だ....?」
ゲインはラズルに対して何か不思議な違和感を覚えていた。
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「さて、俺なりの王子様をやってみたんだが....ご満足頂けましたかお姫様?」
「....絵本の王子様とだいぶ違いましたね」
「因みにその絵本の王子様はお姫様を攫った後はどうしたんだ?」
「その後2人は白馬に乗って国に帰りました」
「そうか、なら....」
「【召喚魔法】ネラ」
「キュイィィィ!!」
「俺達は黒い龍に乗って国へ帰るとしよう」
「....ふふっ、あはははは!本当に全然違いますね」
「はいはい、憧れの王子様と掛け離れていてどうもすみませんでしたね!」
「全くですよ!」
「....お前素になった途端遠慮が無くなったな」
「ラズル君がこっちの方が良いと言ってくれましたから♪」
ラズルをからかっていたアリアであったが、ラズルと目が合いそうになると直ぐに目を逸らした。
「........すみません、何でも良いので本物の仮面を貸してくれませんか」
「嫌だね。さっきも言った通り弁償するのは帰ってからだ。だから....」
「泣きたい時は仮面なんかで隠さずに泣け」
「....ひぐっ...うっ..ううぅぅぅ....」
その日、アリアは憧れの絵本の王子様とは違う自分だけの王子様の胸の中で、今まで仮面で隠し続けて来た涙を見せた。




