運命の人[10]
「ねぇねぇお父様聞いて聞いて!」
勢い良く扉が開くと、馬に乗った男が表紙を飾る絵本を大事そうに抱えた赤髪の少女がトテトテと部屋の中で本を読んでいた男に駆け寄って来た。
「ん?どうしたんだいそんなに嬉しそうな顔をして」
男は1度本を置き、近寄って来た娘に視線を合わせると微笑みながら優しく頭を撫でた。
「えへへ~...あのねあのね!このご本読んだの!」
娘は頭を撫でられ嬉しそうにはにかむと、両手に抱えていた絵本を父に見せる様に掲げた。
「えーと何々....ああ、昨日お誕生日に買ってあげたやつだね」
「そう!それでねそれでね!このご本がすっごく面白いの!」
「へー、どんな本だったんだい?」
「うーんとねー....お姫様が悪い魔族さんに攫われちゃってね!王子様が次々と悪い魔物さん達を倒してお姫様を助けて結婚するの!」
「あはは、それは面白そうだね」
「それでその時の王子様が凄く強くて格好良かったの!」
「だからね!いつかアリアも大きくなったらこの王子様みたいな人と結婚するの!」
「うんうん、アリアは可愛いからね。きっといつかその王子様の様な素敵な人が現れてくれるよ」
「うん!」
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そして7歳の少女が夢を見つけてから10年の月日が流れた。
「....アリア、ちょっと大切な話があるから来なさい」
「大事な話ですか?分かりました」
夏休みも終わりに近付き、そろそろ合宿が始まろうとしていた頃、アリアは準備の為に実家へ帰っていた。
「えっと...お母様まで一体どうしたのですか?」
「アリア、単刀直入に言うわね....」
「....あなたに〈シュラハト〉の第1王子に嫁いで貰う事にしたの」
「..........え?」
アリアは母から突然言い放たれた言葉の意味が理解出来なかった。
「実はね....」
「良い、私から話すよ」
「アリア、お前は最近徐々に〈シュラハト〉が力を付け始めている事は知っているな?」
「....はい」
「そして〈シュラハト〉の王は相当な戦好きで知られている。力を付け始めた今、1番近いこの国に戦を仕掛けて来るかもしれない」
「............」
「そこで王の命で向こうの王子と大貴族であるお前が婚約する事で、お互いに干渉しないという条約を結んだんだ」
「なっ....!そんな勝手な!」
「すまない...私も大切な娘をそんな勝手な理由渡したくなんかない。だが、仕方のない事なんだ....」
心底悔しそうに身体を震わせながら両手の拳を握る父の姿を見て、アリアはそれ以上何も言う事が出来なかった。
「....いえ、物心ついた頃からいつかこんな事になるかもしれないという事は覚悟していました。ですのでお父様が気にする事なんてありません」
「すまない...本当にすまない....」
「........それに王子様との結婚は私の小さい時からの夢ですから!」
「....そうか。結婚式は〈エスクエラ〉の合宿が終わった日から2日後だ。もう学園には私から話をしてある。だからお前はこの合宿で悔いの無い様に友達と思い出を沢山作って来なさい」
「はい!勿論です!」
アリアは両親に自身の本心を悟られない様に明るく振る舞い、合宿の間もラズル達に気を使わせない為にずっと明るく振る舞い、騙し続けた。
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そして結婚式前夜....食事や風呂などのもてなしを受けた後使用人に部屋に案内されたが、アリアはとても眠れる気分ではなく、ベッドから起き上がるとテラスに出た。
「はぁ....こんな時に王子様が私を攫ってくれたら良いのに」
夜空を見上げながら思わずそんな事を呟いてしまった事に気付き、両手で自分の口を塞いだが、直ぐに手を下ろした。
「........やっぱりそんな簡単に諦められる訳ありませんよね」
「ラズル君達は今頃何をしているんでしょうか....」
そんな事を考え始めるともう気持ちが止まらなくなり、いつの間にか頬が湿っていた。
「うぅ...ひぐっ....皆に会いたい....」
「その願い、確かに聞き入れた」
「....ふぇ?」
突然背後からラズルの声が聞こえた様な気がして思わず振り返るが、そこには誰の姿も無かった。
「....ふふっ、気のせいにしてもたちが悪いですね」
辺りを見渡してもラズルの姿など何処にも見当たらないが、何故か気持ちが落ち着いたアリアは再び部屋の中へと戻って眠りに就いた。




