夏祭り[3]
その後2人は射的屋から金魚すくい屋や的当て屋、そして綿菓子屋など様々な屋台を見て回っていた。
「な、何でこれだけやって1回も勝てないんですか....」
「お前も中々諦めが悪いな....途中何の可能性を感じたのか知らねぇけどダーツだけ異常に挑んで来やがって」
「あれはいけると思ったんですよ!」
「その思い込みのせいで店の景品を全て持ってかれたあの兄ちゃんの気持ちも考えてやれ。途中流石にヤバいと思ったのか止めに来たけどお前が威圧するから店の奥に逃げちゃってたじゃねぇか」
「....私そんな怖い顔してました?」
「ああ、目が「止めるのであれば殺すぞ」って語ってた」
「そこまで?!」
「それでどうする?まだ続けるか?」
「いや、もう良いです....そろそろ夏祭り1番のイベントが始まりますし」
するとラズルに負けてしゅんとなっていた尻尾と耳がピンと立つ。
「1番のイベント?」
「夏祭りと言ったら花火大会ですよ!」
「あー、射的屋のおっちゃんが言ってたやつか」
「正直私はこれの為に来たと言っても過言ではありません!」
「そんなに凄いもんなのか?」
「え!ラズルさんもしかして花火見た事無いんですか?!」
「聞いた事はあるが実際に見た事は無いな」
「成る程......」
「それなら花火を見た時凄い感動すると思いますよ!」
「ほー、そりゃあ楽しみだな!」
「あっ!もうそろそろ始まっちゃうので早く場所を取りに行かないと!」
「因みに花火ってどこら辺に上がるんだ?」
「え?えーっと、私も良くは分かってないんですけど....多分あそこら辺ですかね?」
「だとしたらここら辺だと建物が邪魔で見えないからあっちに人が集まるって事か」
周りを見渡すと先程まで人で賑わっていた通りはいつの間にか人が居なくなっていた。
「....あれ、もしかしてもう皆さん移動しちゃいました?!」
「不味いですよラズルさん!私達も早く行かないと花火見られなくなっちゃいます!」
「いや花火って空に打ち上がるもんなんだろ?」
「は、はい」
「だったら何でこんな空から遠い所で見るんだよ」
「....え?」
「どうせ見るんならもっと近い所で見ようぜ」
「い、一体何をする気で....ひゃっ!」
そう言うとラズルはクイナを抱き抱え、そのまま近くにあった建物の屋根へと跳び上がって屋根から屋根へと移動していく。
夜の風を浴びて身体は冷える筈が、クイナの身体は逆に火照っていた。それは突然のラズルの行動に驚いて心拍数が上がった為であったが、ラズルに密着している状況が何よりもクイナの体温を上げていた。
「ど、何処に行く気なんですか?///」
「それは着いてからのお楽しみだ。まぁ1つ言うとしたら花火が良く見える」
「そ、そうですか///」
(....ラズルさんの匂い)
(何だか凄く落ち着く....ずっとこのままなら良いのに)
(っ!いやいや折角2人だけで花火を見に来たんですから花火を見なくては!)
(........でも、もうちょっとだけこうしていたいですかね)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「良し、着いたぞ」
「............」
「クイナ?」
「....はっ!すみません直ぐに降ります!」
「何だか凄ぇ赤いぞ?熱か?」
「だ、大丈夫です!///」
「調子悪いなら遠慮せずに言えよ?」
「は、はい....」
「それでどうだ?俺のお気に入りの場所は」
「お気に入りの場所ですか?」
そこにはまばゆい光に包まれた王都が広がっていた。先程2人が居た会場の提灯も良く見える。
「わあぁ....!凄い綺麗です!」
「だろ?ここからなら花火も良く見えるし人も来ない」
「ここがラズルさんのお気に入り場所....」
「ここは誰にも知られないからな、偶に昼寝しに来たりしてる」
(も、もしかしてここに連れて来たのは私が初めてなんじゃ....)
「あ、悪い。誰にも知られないって言ったけどフランも知ってるわ」
そんな妄想もラズルによって即座に打ち砕かれた。
「........ラズルさんって雰囲気ぶち壊すの得意ですよね」
「雰囲気?」
「はぁ...もう何でも無いです....」
「?まぁ花火が上がるまで座りながら待とうぜ」
「............」
「............」
花火が上がるまで特に話す事もなく、2人はただただ黙って待っていた。
しかし、クイナはこれから花火が上がるという空に集中出来ておらず、チラチラと隣に座るラズルを見ていた。
(....フランさんとここで何をしたんでしょう)
(もし私がフランさんだったら........)
(今ここでこの気持ちを伝えたら....ラズルさんはどんな顔をするんでしょうか)
そんな事を考えている内に段々とラズルを見る時間が長くなっていった。
「どうかしたか?」
「っ!な、何でも無いで....」
「何でも無い」。確かにそう言おうとしたが、そう言い終わる前にクイナの口は無意識に閉じていた。
「....ラズルさん、私1つ伝えたい事があるんです」
「何だ?」
「............」
先程とは比べ物にならない程心拍数は上がっており、身体も更に熱くなり、頭もあまり回っていなかった。
「私...ずっとラズルさんの事が....!」
ドオォーン!
「っ...!」
ずっと胸に秘めていた思いを伝えようと決意したその時、空に大きな花火が打ち上がった。
その花火の大きな音により、少し雰囲気に流されていたクイナの頭は冷えた。
「どうした?続けてくれ」
「えっ...いやでも花火が....」
「ん?花火の音で良く聞こえなかったが、今何か言おうとしてたろ?花火よりそっちの方が重要だろ」
「なっ....!///」
いつものふざけた表情ではなく、ラズルが偶に見せる真剣な表情を見て再び身体が熱くなる。
「....前にいつでも甘えて良いって言ってましたよね?」
「ああ」
「やっぱり私少し熱っぽいみたいなので....ラズルさんの上に座っても良いですか?」
「....ぷっ」
「な、何で笑うんですか//」
「いや悪い、お前が真面目な顔でそんな事言って来るもんだからついな」
「勿論良いぞ。遠慮なく座れ!」
「では失礼して....」
あぐらをかいているラズルの足の間に座り、次々と咲いていく花火を眺める。
「これが花火か....」
「初めての花火はどうです?」
「ああ、凄く綺麗だ....」
そしてラズルは何かを思い付いたのか、少し意地の悪そうな顔をすると....
「お前の次にな!」
花火を見る際の決まり文句の様な言葉を放った。
「はいはい、ありがとうございます」
「ったく、可愛い気無ぇなー。そこは信じろよー」
「あのバナナ事件を起こしておいて良くそんな事が言えますね」
「おっと、これは何も言い返せないな」
「ふふっ、今日初めてラズルさんに勝てました」
「馬鹿野郎、仮にこれが嘘を見抜く勝負なら俺の勝ちだっての」
「ふっふっふ、負け犬の遠吠えってやつですね!」
「....お前後で覚えてろよ」
そんな花火を眺める2人の関係はどんな状況でも全く変わっていなかった。




