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帝都護法  作者: もの
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帝都を往く。

 刑務、庶務、内務。宮仕えに果ては市井の揉め事の解決……その他色々。段々と日が高くなっていくお役所の書架である。一枚、二枚と紙を閉じて題をつけ、書架へと差し入れる。お役所勤めの新人が、まず初めに覚える仕事が此れだとは言われたが、果たしてどうだかは芦矢には判断がつかないのだった。彼は、一般的な青年であることに間違いはない。おそらく役所勤めよりも書生や、あるいは学士なんかの方が向いていたに違いはないのである。


「芦矢くん、すまないが頼まれてくれるかい?」


 彼を、彼の上司である畠中は呼び止めた。その手には一つの封筒がある。芦矢は今手元の作業を近くの机に置き、素直にその言葉に従うようだった。


「なんでしょう、俺に出来ることなら。」

「助かるよ。郊外まで出てもらう事になるけど、届け終わったらそのまま上がってくれていいから。」

「届け物、でしょうか?」


芦矢は首を捻った。役所からの届け物を新人においそれと渡していいものとは思えない。急ぎの物なのだとしたら、経験を積んだ重役が出向くのではないか……と彼は思った。封筒を受け取って、少し視線を畠中へ向ける。何か隠しているのではないか、何か理由があるのかもしれない……。少しの観察では其れを見抜く事などできるはずもなく、再び封筒に視線を戻した。


「うん、この封筒をこの住所まで。」


そう言って、一枚の紙を畠中が差し出した。…と同時に続ける。


「ご老人のお一人住まいだ。あまりこういった話は良くないが、何やらよくない噂も耳にしている。何もしないで放置するわけにもいかないから、様子を見て、問題なさそうであればこの封筒をお渡しするように。中には租税についての書留と、後は今度役所の方で手続きをするように書類が入っている。」

「分かりました、すぐに発ちます。」


芦矢は、ようは人手が足りないのか……あるいは、そのご老人になんらかの問題があるのだろうと推測した。そして、此れに自分が否定の意見を差し込む理由が何一つないと理解していた。先程作業中の紙の束を置いた机の横には鞄が置かれている。其れを取ると、封筒を中に仕舞い込んで、肩から掛けた。


「よろしくね。何かあったら、戻って報告を。」


芦矢は畠中に一言「行ってきます。」と声をかけて、役所を後にした。芦矢の職務初日の、恙ない正午の事である。

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