第9話 地上の王の卑劣さと上空の王の狡さ
「父上!このままでは、我が国は攻撃を防ぎようもありません。やはり降伏するべきです!」
地上の国と上空の国で激しい戦争が繰り広げられるかと思いきや、攻撃を受けるのは地上の国ばかりだった。
魔力を使って空の上から攻撃してくる上空の国に地上の国は攻撃を防ぐのにも限界があった。
そして、強力なシールドという術が島を覆っている上空の国にはどんな攻撃も効かなかった。
それでも地上の国の王であるイルア国王は降伏する気はなく、事態は終息しないまま戦いは1年続いた。
しかし、その間に収穫もあった。戦にばかりかまけている父の目を盗んで俺は父の書斎である書物を見つけた。
そこには100年前の戦争についての詳細な記載がかかれていた。
そして、ある一文が俺が父へ抱いていた僅かな尊敬も打ち砕く。
『地上の国では豊かな上空の国を侵略しようと言う話が出始める。王は上空の人間の不思議な術に対抗できる武器を作るように命じた。』
父はこの事実を知りながら隠していたのだった。そして、真実をねじ曲げあたかも上空の国の者が悪いかのようにして、100年前の戦争が始まった理由を誤魔化した。
もう父にこの国を任せておくことは出来ない……。
「もう限界です。これ以上、民を被害に遭わせるのですか!?」
アルトは全く終息しない戦争に何度もイルア国王に進言した。
しかし、国王は頑なに降伏を拒む。
「うるさい!もう少しだ!もう少しで完成するんだ!!このままでは絶対に終わらせないぞ!!」
我が父ながらゾッとする程に血走った目の王を見てアルトはある決意をする。
「リュシカ。気が散っておるぞ!」
「お婆様。すいません。」
私は18歳になった。
1年前から始まった戦でお父様は国の仕事が忙しくなり、浮遊の術に時間を割くことが難しくなる。
替わりに私が聖堂で浮遊の術をすることになった。
本当は20歳になってちゃんと気力体力魔力が育ってからこの聖堂で浮遊の術を使い、島を浮かし続けるのだが、私は戦のために3年早くこの聖堂に呼ばれる事となった。
今はロクシアお婆様と私が聖堂で術を使っている。
サルーン叔父様は魔力回復の為に自室で休憩中だ。
私が17歳でこの聖堂に呼ばれたのは元々、お婆様が歳のために浮遊の術を長く使うのがキツくなってきたから手伝ってくれと言うものだった。しかし、私がこの聖堂にいる間にお父様は地上の国へ攻撃を開始した。そして、気がついた頃には既に手遅れとなり、それでも戦争を即刻辞めるべきだと意見する私に父はこう言った。
「私はこれからも戦争の為の指揮をとるのに忙しく聖堂に入れなくなるだろう。お前には私の代わりに聖堂での役目を果たしてほしい。その代わりロージーとの結婚は戦争が終わるまで先伸ばしにする。どうだ?悪い話ではないだろう?」
「お父様!!そんなの卑怯です!私の結婚と戦争は別の話でしょう!?」
その時、グラリと宮殿が揺れた。
「な、なに!?」
私は急な事に混乱する。
「あー、そろそろ交代してやらんとお婆様が限界だな。このままでは島が落ちるぞ?どうするリュシカ?」
リュシカは目に涙を溜めてキッと父を睨んだ。
「こんな方法、絶対間違ってる!!」
そう言って部屋を飛び出すと聖堂に向かったのだった。
「お婆様、代わります。」
「ああ、リュシカ悪いな。……ハルーンを悪く思わないでおくれ。あの子は国王としてこの国の為にそして、リュシカの将来の為を思って戦争を始めたんだよ……。」
お婆様の言葉に私は返事を返すことはなかった――。
アルト……ごめんなさい。貴方との約束を守れなくて……。戦を止めることができなくて……。
私が1年前の事を思い出していると――
「ロクシア様!リュシカ様!大変です!!シールドの術が破られました!!」
従者が慌てた様子で聖堂にやって来た。
「わかった。下がってよい。リュシカ気を散らすな!集中しなさい!」
「しかし、おばあ様!シールドの術が破れてしまったのですよ!!地上の者が押し寄せてきます!」
「だからと言ってなし崩しに今、島が地上へ堕ちてしまえばそれこそ終わりだ!国民を守るのだよ!集中しなさい!」
「……はい。」