第6話 王子の計画と姫の葛藤①
地上の国の下町の裏通りを大量の芋を持ちながら歩いている灰色がかった髪の男がいた。
彼は木の箱に座り帽子を目深に被って読書をする青年を見つけると
「よう!アルティ!」
と声をかけた。
アルティと呼ばれた青年は腰かけていた木の箱から立ち上がると笑顔をみせた。
「ライザ!今日はなんの仕事してたんだ?」
「今日は畑の作物の収穫の手伝いだ!見ろよ!お土産にこんなに芋をもらったぞ!」
「おおー!立派だな!」
ライザが家の扉を開けるとアルティも後に続いて入って行った。
アルティが扉を閉めたのを確認すると、ライザは貰った芋を吊るしながら声をかけた。
「んで、今日はどうしたんだ?アルト王子。」
アルティはアルト王子と呼ばれ苦笑いする。
リュシカが上空の国へ帰った後、暫くは部屋から出してもらうことも出来ず、ひたすら上空の人間の恐ろしさを学ばされた。
真面目な態度に少しずつ監視の目が緩くなり13歳になる頃には俺は再び自由に城を探検するようになり、下町へもこっそり行くようになった。
初めて1人で来た下町の裏通りで道に迷ってガラの悪いヤツらに絡まれていた所を助けてくれたのがライザだった。
彼はミクシアだった。出会った時、灰色がかった髪を帽子で隠していた彼は16歳でこの下町で1人で暮らしていた。
それから俺はライザを訪ねてこの下町の裏通りによく来るようになった。
そして、15歳になった俺は下町の裏通りを顔パスで歩ける程になっていた――。
「実は今度、城の兵士の新規募集をするんだが、ライザ受けてみないか?」
「俺が兵士に!?ムリムリムリ!俺はミクシアだぜ?受かるわけないだろ?」
「国はミクシアだからって落とす事はしない。ライザ、俺の信念を一番理解してくれているのは君だと思っている。俺に力を貸してくれないか?それに君が兵士として地位を築けば他のミクシアももっと生きやすくなるんじゃないかな?」
ライザは腕を胸の前で組んで難しい顔をしてうーん。と唸った。
「でも実技はイケるだろうが、座学はさっぱりだぜ?」
「もちろん!そこは頑張って勉強してもらうよ!」
俺は持ってきた本を机の上に並べていく。
「うげ!やる気満々じゃねーか!」
「俺1人では国を変えることは難しい。ライザ頼む!!」
俺はライザに頭を下げた。
「分かったよ……。俺だって上空の国とは仲良くやりたいと思ってる。」
「本当か!!ありがとう!!」
するとニヤリとライザが笑って
「そんなに上空の国の姫は可愛らしい方だったんだな!?国中の若い女達がアルト王子に夢中なのに、そんな王子を虜にする姫に俺も会ってみたいよ。」
リュシカの事を言われ俺は少し頬を染める。
「べ、別に俺はリュシカとの約束を守ろうとしてるだけだよ。それにこの国の間違った教えも正さないと……上空の国が勝手に悪者にされているのは良くない。」
地上の国では100年前の戦争は恐ろしい術を使い地上の人を傷つけてきた上空の人間を恐れて、地上の国は上空の国と戦争をしたと教えられる。
俺も10歳まではその教えを信じていた。しかし、10歳の時にリュシカに出会い疑問を抱き、13歳でライザに出会い本当の話をきいた。
彼は両親から100年前の戦争について真実を聞いていたからだ。
それまで仲良く互いの国を行き来し、上空の国の者は術で地上の国の者を助けることはあっても傷付けるようなことはなかった事。本当は地上の国の者が上空の国を自分達の国にしようとして攻撃を仕掛けたことを……。
ライザは俺の厳しい教えに応えるように猛勉強し、見事兵士に合格した。