第5話 上空の国の企み
「全くどこに行ったんだ!!あのお転婆娘が!!」
上空の国の王、ハルーンは昨日から行方不明の娘、リュシカを心配して宮殿の中を行ったり来たりしていた。
「ハルーン王どうかお身体に触りますからお休みください。我々が今探しておりますから!」
上空の国の宰相ジャルカはハルーン王の後ろを一緒にウロウロしながら王をなんとか休ませようとしていた。
「しかし、一晩たっても行方が分からないなんて!この国にいてそんなことがあるのか!?あいつまさか……」
「ハルーン王!!大変です!王妃様が!サリー様が!!」
バタバタと別の従者がハルーン王の元へやってきた。
「サリーがどうした!?」
「サリー様が倒れまして、今、お部屋にお連れした所です。」
王は急いで王と王妃の部屋へ向かった。
「サリー!!」
サリーはベッドに横になり青白い顔をして目を閉じていたが、ハルーンの声にゆっくり瞳を開けると申し訳なさそうに眉毛を下げてハルーンを見た。
「ごめんなさい心配かけて。リュシカを探すのに少し無理をしすぎてしまい、魔力を使いすぎただけですわ。休めばまた、動けますからご心配なさらないで。貴方も休まなければ……聖堂の交代の時間が迫っているでしょう?」
リュシカの母サリーは自身を別の場所へ瞬時に移動させる移動の術が使えた。その術を使い国中リュシカを探していたようだ。
「ハルーン王!!ハルーン王!!」
「今度はなんだ!?」
「リュシカ姫が!リュシカ姫が見つかりました!」
従者の後ろからバタバタと走ってくる靴音がしてバンと扉が勢いよく開かれた。
「お母様ー!!大丈夫ー!?」
という元気そうな娘の声にハルーン王は肩の力を抜いた。
さっきまで起き上がるのも辛そうだったサリー妃も起き上がり
「リュシカ!!良かったわ!無事で安心した。」
とギュッとリュシカを抱き締めた。
妻と娘の抱擁を優しい笑顔で見つめていたハルーン王だが、すぐに厳しい顔つきになり話し出した。
「リュシカ!お前は一体今までどこに行ってたんだ!?まさか地上じゃないだろうな!?」
「その通りです。お父様。」
リュシカは母から離れるとしっかりとハルーン王を見据えた。
「お前は!このお転婆娘が!!」
パチンと音がしてリュシカの頬はジワジワと熱を持つ。
「あなた!何も叩かなくても!」
サリーの声に一瞬悲しそうな表情になったがすぐにまた厳しい顔つきに戻り
「地上の国に行って無事に帰って来られたのは運が良かっただけだ!!二度と行くでないぞ!!お前の魔力では行くだけで精一杯で昨日の内に帰ってもこられなかったのだろう?……本当に良く無事で帰ってきてくれた……。」
そう言って涙を浮かべてリュシカを抱き締めた。
「お父様。勝手なことをして申し訳ございません。しかし、私はどうしてもこの目で地上の国を見てみたかったのです。そして、思いました。やはり地上の国を侵略するのは間違っています。」
「それは、お前が介入する話ではないわ!」
「私は次期女王でしょ!?浮遊の術を使えるのだって今はお父様とお婆様と叔父様そして私だけではないですか!?私にも関わる重要な事です!」
「そうだ。良くわかっているではないか。だからこのままではいずれこの国は浮かび続ける事は出来なくなる。それもこれも100年前にこの国を侵略しようとして攻撃を仕掛けてきた地上の国の奴等との戦いで優秀な術者を多く失ったせいだ。だから今度は我々が地上の国を侵略して、浮遊の術者がいなくなった後も国民の住まう所を確保せねばならないのだ!」
「だったら話し合いで良いではないですか!?なぜわざわざ侵略なのですか!?私は地上の国へ行って出会ったのです。アルトという地上の国の王子に!彼は私と同じ歳で、とても勇敢で心優しい少年でした。私の事を地上の国の者に見つかってはいけないと匿ってくれました。彼が次期王になるのです。彼なら必ず話し合いを受け入れてくれます!」
「そんな、まだ年若い王子の事など当てにできるか!それにお前を匿ったと言うことは、他の者は上空の者を受け入れないということだろ?ならば、やはり侵略しかあるまい!!」
そういうとお父様は部屋を出ていってしまった。
「お父様!!」
「リュシカ。貴方の気持ちもわかるけど、これはあなたが女王になった時に上空の国がたち行かなくなる前にどうにかしたいというお父様の考えでもあるのよ。私もそれに賛成しているわ。」
「お母様!でも、アルトは約束してくれたのよ!必ず自由に行き来が出来る国にしようって!」
「リュシカ。確かにそれは理想だけれど。やっぱりこの国の者は地上の国に対して憎く思っている者が多いわ。貴方とそのアルト王子の思いだけではどうにも出来ない事もあるのよ。」
リュシカは悲しそうに唇を噛んだ……。