第3話 王子と姫の約束①
俺は急いで厨房へ向かった。
「料理長。腹へったから何か簡単に食べられるもの作ってくれない?」
「アルト王子!こんなところまで足を運んで下さらなくても使用人に声をかけて下さればいいのですよ!!」
「すぐに食べたいからここで待ってる。簡単なもので良いからすぐに作ってくれないか?」
「承知しました。サンドイッチでよろしいですか?」
「ああ!頼むよ!あ、それからこの事はシュートには内緒だぞ!」
「何が内緒なんですか?アルト王子。」
背後から聞こえた声にギクッとして振り返ると、そこには般若の顔をしたシュートが立っていた。
「全く目を離すとすぐにどこかに消えるんですから!!これから、歴史学の授業がありますよ!遊んでいる暇なんてありません!」
「わあ!シュート!!そう!勉強の前に腹ごしらえだよ!悪い。出来たら部屋まで持ってきてくれ。よろしくな料理長!」
俺はシュートの機嫌を損ねる前に自室に行き真面目に勉学に励む。
途中、料理長に頼んだサンドイッチが運ばれてきて、俺はシュートの目を盗んでサンドイッチを綺麗な布に移して包むと空になったお皿だけを返した。
早く終わらせないと、リュシカがお腹を空かせて待ってるのに……。
結局、シュートに見張られていてその後は全然抜け出せず、夕飯を急いで食べた俺は疲れたから寝ると言って早めにシュートを部屋から追い出した。
俺は内緒で包んだサンドイッチを鞄に詰めて暖かい上着を着ると部屋を抜け出した。
夜は少し冷えるから、この上着はリュシカに貸してあげるつもりだ。
コンコン。小さく見張り塔の部屋のドアをノックした後にそっと扉をあけた。
リュシカは物陰に隠れてこちらを凝視していた。
「リュシカ。俺だよ。」
怯えた顔からパッと明るい弾ける笑顔になったリュシカ。
「アルト!良かった!戻ってきてくれて!!」
と言って俺に抱きついてきた。
俺もリュシカの身体をギュッと抱き締めた。
「遅くなってごめん。なかなか抜け出せなくて。」
「うん。うん。分かってたんだけど、段々暗くなっていくから怖くなってきてしまって……早くアルト来て!って何度も心の中でお願いしてしまったわ!」
「うん。1人で怖かったよな……。」
俺はリュシカを抱き締める腕の力をさらに強めた――。
「そうだ!サンドイッチを持ってきたんだよ!お腹空いただろ?」
「わあ!嬉しい!!」
美味しそうにサンドイッチを頬張るリュシカを見つめているとこちらまで嬉しくなる。
「そういえば、この部屋少し暑いね。寒いと思って暖かい上着をリュシカに貸すつもりで着てきたんだけど。」
「あ、これは私が術で冷たい空気を暖かい空気に変えたのよ。」
「そうなの!?凄い!!それに術が使えたって事は魔力が回復したってこと?」
「空気の温度を変える術はそんなに難しくないから、少ない魔力でも使えるんだけど、浮遊の術は魔力を物凄く使うから、もっと魔力が回復しないと使えないの。」
「そうなんだね。じゃあ身体をゆっくり休めないと。」
リュシカが食べ終わったのを見て
「そろそろ戻らないと……」
と言ったら不安そうにリュシカが俺を見てきた。
「そうだよね……。明日もまた来てくれる?」
リュシカは俺の手をギュと握りしめて少し震えていた。
明るくて元気だった昼間とは違いとても心細そうなリュシカに胸が締め付けられる。
「……一緒に俺の部屋へいく?」
「いいの?」
「ここよりも見つかる危険は高くなってしまうからあまりお薦め出来ないけど、でもここで一人でいられるのも心配だし。近くにいれば見つかった時もなんとかしてあげられるかもしれないから……」
「嬉しい!本当は一晩ここで過ごすの怖くて怖くて仕方がなかったの!」
そう言ってリュシカは涙を滲ませた。
リュシカに俺が着てきた上着を着せて、髪の毛を纏めてもらいフードを被ってもらう。
少しでも上空の国の者だと分からないように。
「こっち。」
リュシカの手を引いて俺は城の中を注意深く駆け抜けた。