第13話 地上の国王と上空の女王
「今から上空の国の島が海に降りてくる!海面の状態が変わるから急いで城の方へ避難してくれ!!」
俺は地上へ降り立つとすぐに民達に事情を説明して避難を仰ぐ。
「アルト王子!海面の状態が変わるって家が海に沈んじまうのか!?」
「ええー!!」「そんなの困るわ!!」「これから住むところはどうすんだ!?」
人々は混乱し始める。
「みんな!!落ち着いて!!降りてくるまではまだ時間がある!落ち着いて、身支度を整えて避難してくれ!!特に海岸に近い場所は沈む可能性もあるから大事な物は持って避難してくれ!!兵士に頼んででも運んで!!そして、必ず全員避難だ!!住まいの事は心配するな!国が必ずなんとかするから!!すまないが今は避難を最優先にしてくれ!!私はこれ以上、誰一人として失いたくない!!みんなが助かることが一番優先すべき事だ!!」
みんなが俺の話を固唾を飲んで聞いていた。
そして、一瞬の沈黙の後――
「み、みんなアルト王子の言う通りにしよう!!子供や爺さん婆さんがいる家はみんな手を貸してやれ!!」
「おおー!!!」
意外にも海の近くの国民達は俺の話をすんなりと受け入れてくれた。
民達も上空の国の島が移動し尚且つこんなに地上に近づいて来ていることは分かっていたので、この異常事態を恐れていたのだろう。
そして、イルア国王が国民の命を省みず戦争を続けた事とは反対にこれ以上の被害を出したくないと言うアルト王子の言葉は国民達の胸に深く突き刺さった……。
アルトは上空の国で、ハルーン国王に上空の島が落ちるかもしれないと言う話を聞いてから、ライザに密に裏通りの者達にもこの事態を知らせて、民達が避難するのを誘導するよう指示していた。
そして、ライザの事を慕っていた兵士達やイルア国王の対応に疑問を持つ兵士達も徐々に集まりだしみんなが民の避難を手伝ってくれたお陰で、上空の島が海に降りる前に海岸付近の住民は全員避難する事が出来た。
俺は海岸付近の高台でライザと数人の兵士達と上空の国が降りてくるのを眺める。
「おお!もうこんなに近くに島が迫ってる。あと数時間で降りるな。」
ライザは近くなってきた島の迫力に驚いていた。
そして――
ゴゴゴゴゴゴ!!!という長い大きな地響きと供に島は海面に着陸した。
ハルーン王が頑張ってくれたお陰で海面はさほど荒れることはなかったがやはり海に近く低い場所は沈んでしまった。
俺が、上空の島が降りるのを見届けた頃、近くの国王の別邸にイルア国王が来たと言う知らせが入った。
俺はライザに上空の国への連絡を任せると、別邸に急いだ――。
「アルト。これはどう言うことだ?」
「父上。上空の国は浮遊の術を使える者が僅かしかおらず、今回の地上の兵士からの攻撃でその術者が負傷したため、もう島を浮かせることは出来ないそうです。」
「ハハハ!だったら攻撃しやすくなるではないか!よしすぐに兵を出せ!!」
しかし、誰も父の命令に動こうとするものはいなかった。
「父上。いい加減にしてください。もう戦争は終わりです。上空の国とこれからは手を取り合って助け合って生きていくのです。」
「何を寝ぼけたことを……。おい、誰かアルトを捕らえよ!!」
「捕らえられるのはあなたですよ。イルア国王。」
「何をバカな……」
すると周りの兵士達は父の両腕を掴み上げた。
「き、貴様らこんなことをしてただで済むと思うなよ!」
暴れる父に母が近付き父の頭に載っていた王冠を外した。
そして……
「イルア様、私と残りの人生を穏やかに過ごしましょう。長い間、お疲れ様でございました。」と言って私の方に近付くと、王冠を私の頭の上に載せた。
「父上、後は私に任せて余生をお楽しみください。」
父はその場に崩れ落ちた――。
そして新たな地上の国の王、アルト国王が誕生した――。
それからは急速に上空の国との和睦が進められる。
上空の国が降りてきたことから住まいを追われてしまった村人達には手厚い保証と上空の者への反感が生まれぬよう積極的に交流を促し、その不思議な力で村の再構を手伝ってもらった。
上空の王はとても協力的に地上の国と交流をしてくれた。
そして特に人気を集めたのは上空の国の美しい姫リュシカだった。
彼女は傷が良くなるとすぐに地上の国と積極的に交流し家族や仲間を多く失った村を訪れては申し訳ないと頭を下げて回った。
もちろん、皆が皆、好意的に受け入れてくれるわけではなかったが、それでもリュシカは粘り強くどんなに邪険にされても彼らに寄り添い徐々に受け入れられていった。
俺とリュシカは忙しい合間を見つけては会瀬を重ねた。
そして2人の中でいつか結婚をしたいという思いともう1つの大きな願いを持つようになる……。
そんな中でリュシカは俺の父であるイルア前国王にちゃんと挨拶をしたいと言い出した。
父上はすっかり毒気が抜かれたように穏やかに母上と余生を過ごしていたが、俺は乗り気ではなかった。
「リュシカ、本当に父上に会うのか?」
「ええ。だってアルトのお父様だし結婚したら私のお義父様にもなるのよ!ちゃんとご挨拶しなきゃ!」
俺はリュシカを父上に会わせたくなかった。
リュシカと父上の対面はあの10歳の時以来となる。
あの時の父上のリュシカに向けた冷たい視線……
あんな視線をまた、リュシカが向けられるかもしれないと思うと辛かった。
「お久しぶりでごさいます。イルア様。上空の国の姫リュシカにございます。」
リュシカの顔をじっと見た後、父上は一筋の涙を流した。
「ああ。なんて天使のように美しい娘さんだろうか……。なのにどうしてか……あの時は君が悪魔の使者のように見えてしまったんだ……。100年前の戦争以来、両国は対立していたとはいえ、地上の国は100年間平和に過ごしてきた。しかし私は恐れていたんだ。いつか上空の国が攻撃を仕掛けて来るときが来るのではないかと。平和な我が国を脅かす時が来るのではないかと……。そして、貴方が現れた時、その時が来たのだと悟ったよ。せっかく100年続いていた平和な我が国が崩れるとね……。それからの私は不安にかられて戦争が始まってからもなんとか上空の国を倒して地上の国を守らねばということばかり考えていた……。民を危険に晒して間違った判断をしてしまったと思うよ。」
俺は驚いた。戦争が始まり、勝てもしないのに降伏しようともせず、どんどん壊れていく父上を見て来たから……。父がそこまでに至るまでにそんな事を思っていただなんて……。
「イルア様は国王としてなんとか国を守ろうとされていたのですね。私の父も同じでした。上空の国が浮かんでいられなくなった時、民が困らないようにと選んだのが地上の国を侵略する事でした。私が不用意に地上の国に降り立ったばかりにイルア様に不安を煽ってしまったのですね。それに結局、上空の国からの攻撃を止めることも出来ず、戦争を始めさせてしまった。私の方こそ、あの時の言葉を守ることが出来ずたくさんの地上の民を犠牲にしてしまい申し訳ありませんでした。」
すると、父上は咳を切ったように顔を覆って泣き出した。
国王として、国を守らねばという重圧は計り知れなかったのだろう。
俺も国を背負う立場になってこの立場の重みをひしひしと感じていた……。
「リュシカ、父上と会ってくれてありがとう。お陰で父上の気持ちを聞くことが出来て良かった……。ライザや他の仲間達に恵まれて俺は国王としてやっているが、やはりあの時……父上が戦争を恐れ壊れていってから、俺はもう誰にも甘えることは許されないんだと思っていたから……。」
「アルト……。これからは私に甘えて良いんだよ。大丈夫。私はいつでも貴方の側にいるわ。」そう言ってリュシカは俺を抱き締めた。
俺もリュシカを抱き締め返して「ありがとう。リュシカも俺に甘えてくれよ。」と囁いた。
そして、俺達は顔を見合わせる。
俺はリュシカのお腹に手をおいた。
「この傷に誓って。」
リュシカは俺の左胸に手をおいた。
「この傷に誓って。」
「俺はリュシカを一生支えていくよ。」「私はアルトを一生支えていくよ。」
俺達は微笑み合うと、どちらともなく顔を近付けてキスをした。
そして、アルト国王が誕生して2年……。
上空の国では20歳になったリュシカが新たに上空の国の王女となった。
そして、俺達の結婚を許して貰う為、そしてもう1つ大きな俺達の願いを成し遂げる為、俺達は国民に語りかけた。少しずつ少しずつ、国民達の気持ちも1つになり3年後、俺達は国民の理解を得て結婚した。そして同時に地上の国と上空の国は1つの国となった。
アルト国王とリュシカ女王の2人の王によって平和な1つの大きな国はいつまでも続いていく――。
THE END……
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