第1話 地上の国と上空の国①
俺達が住んでいるこの世界には2つの国が存在している。
1つは俺の住む地上の国そしてもう1つは空の上に存在する上空の国――。
空を見上げるとそこには島が浮かんでいるのだ。
「いつ見ても不思議だよなあ。こんな、でっかいもんが浮かんでるなんて……。」
上空の国の人間には不思議な術が使える力がある。
冷たい水を一瞬で熱いお湯や氷に変える術。植物の成長を早める術。人の傷を癒す術。他にも色々な術を使える――。
そして、物体を浮かせる術……この島はその術の力で浮いているらしい。
地上の国と上空の国は昔は仲良く互いの国を行き来していた。
遠い昔は地上の人間は上空には行けなかったが上空の人間は地上の国へ鳥のように空から舞い降りては地上で作られた物を珍しがってもらっていったり、地上の国で不思議な術を使って地上の人間を助けたりしていたという。
その内、地上でも人間を乗せて空を飛ぶ乗り物飛空船が発明され地上の人間も上空の国へ行けるようになった。
上空の国は緑が豊かな美しい国だったという。しばらくはそうして、仲良く交流していた地上の国と上空の国だったが、地上の国の一部の人間が上空の国を自分達の国にしようと考え始め、同時に爆弾や銃などの武器も発明された。そして――
――――地上の国が上空の国を襲った。
上空の国の人間達は不思議な術でこれに対抗した。そして、上空の人間は外からの侵入や攻撃を防ぐ為、膜で上空の国を覆ってしまった。これにより地上の人間達の攻撃は全く効かなくなり、侵略を諦めるしかなくなった。
それから地上の国と上空の国は絶縁状態となった――。
俺は上空の国とそんな戦があってから100年程たった時代に生まれた。
今年18歳になる地上の国の王子アルト。
「リュシカ……君との約束は必ず守るから……だから、俺を信じていて……。俺も君を信じているよ……。」
今日も空を見上げて俺は彼女に思いを馳せる――。
10歳の俺は好奇心旺盛な子供でお世話係りのシュートの目を盗んではよく城の中を探検していた。
お気に入りは今は使われていない見張り塔から見える景色。下町を一望でき少し離れた空に上空の国が浮かんでいるのを見ることできる。この世界を一望できる場所だった。
もう少し大きくなったら下町にもこっそり行きたいな。と思いながら眺めていた。
今日も見張り塔へ登っていくと――そこには先客がいた。
――塔の縁ギリギリの所に銀の髪をなびかせた少女が立っていた。
地上の国の人間は黒髪だ。
しかし、中には少し灰色がかった人もいる。彼らはミクシアと呼ばれ昔、地上の人間と上空の人間の間に出来た子供の子孫らしい。一部の人間から不当な扱いを受けることがあるらしく隠している人が殆どだが……。しかし、ここまで綺麗な銀の髪をしているなんて……。
もしかして上空の国の人間か?
俺は陰に隠れて彼女の様子を伺った。
「……えい!」
「あら?おっかしいわね!!」
「……えい!!」
彼女は何度も自分の手の指を複雑な形にしながらなにかブツブツと言ってはえい!と言っている。
銀色の髪と色素の薄い肌は白く、光に照らされキラキラとしてしていた。
その美しい少女の姿に俺は心奪われ、見とれていた…。
そんな彼女に引き寄せられるように足を前に進めた瞬間、砂利を踏みしめて足元がジャリッと鳴った。
「だれ!?うっわあっわあっわあっ!!」
驚いた彼女は俺の方を振り向きそしてバランスを崩して後ろに落ちそうになって手をバタバタして一生懸命バランスを取ろうとしている。この高い見張り塔から落ちたら命を落とす!!
俺は頭で考えるより先に身体が動き彼女の元へ走ると腕を引いた。
「きゃ!!」「おっと!!」
彼女を支えきれず俺は尻餅をついた。
「ごめんなさい。大丈夫?」
「いや、こっちこそ驚かせてごめん。君こそ平気?」
「うん。私は大丈夫!!どこも痛くないわ!!」
そう言ってニコリと笑った彼女は綺麗で可愛いくて俺の心臓はギュッとなった。