エピローグ 〜物語の始まり〜
産声が目の前の扉の奥から聞こえた時、私は少しの安堵と不安を覚えた。
この世界では出産後の母体の安全が保証されている訳では無い。
私は急いでその扉の奥へ確認へと向かった。
「メソ様、サリア様のご様態は安定しておられます。」
「そうか、それは良かった。ご苦労。一度下がっていて良いぞ。」
「かしこまりました。」
その部屋から出ていくメイドを見届けてから、辺境の地を治める伯爵位当主メソ=ド=ガザールは我が子を抱き抱えながら微笑んでいる自分の妻の横に腰をかけた。
「大変だっただろう。無事に産んでくれてありがとう。」
「当然よ。この子を死なすわけにもいかないし、貴方とこの子を置いていけないわ。」
「そう言ってくれて私も嬉しいよ。」
一夫多妻が認められているこの国ソフィーナにおいて数少ない一夫一妻をとる貴族のこの二人だが、先程の発言から見えるように彼女自信が強く魅力的な人間であることも一因ではあるのだろう。
「男の子でしたわ。」
「ああ、元気そうで良かった。君に似てとても可愛らしい。」
「いえいえ、目元なんかはあなたに似て…」
我が子が生まれた後でも、この二人の熱は冷めやらぬようである…
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目は開けないので外の様子は分からないが、自分が生まれたと言うことと、夫婦の仲が睦まじい事だけは分かる。
転生前の人生も自分の両親の夫婦仲が悪かった訳では無いし、むしろ友人達の話を聞けば仲の良かった方だとは思うが、自我を持って記憶がある頃には当然子供の前でそんな雰囲気は無かった。
だからこそ新鮮さがあって転生という体験をより強く感じる。
魔法というロマン溢れるものもあるそうだし、自分の憧れを叶えつつも家族の役に立つような魔法を使いたいと思う。
一般的な人生とは言えなかった前世だが、親孝行は人並みで反抗期も当然あった私は今世は親孝行したいと思うのだった。
可能ならば前世で叶わなかった恋愛も出来ればいいななんて思ったりして…